よん
…うるさいなぁ…
「何度でも聞きます!答えてください!何でエルフ以外がここにいるのですか!」
ナナゴが叫んでいる。
…あれ?俺は御神木様に呼ばれてるから許されてるんだよね?…
だいぶ眠気が勝っているが、体を起こしつつゆっくりと目を開ける。
「だからー、下の町に連れてくのがいるんでしょ?俺らはそいつに用があんの。お前は下がってろよ」
なんか3人組がいた。
1人は肌触りの良さそうな服を着た子供、残りは体格を見ると大人で簡易的な鎧姿で兜のバイザーを下ろしている。
聞こえた声からすると10才くらいの子供が話していたようだ。
「それは先ほども聞きました!なぜ御神木様に登ってしまったのかを聞いているのです!」
「はー、後ろにいるやつに用事があるって言ってるんだ。ここにエルフじゃないやつがいるんだからそいつだろ?」
「答えになってません!エルフじゃない貴方達がここにいるのを聞いているんです!」
…話が噛み合ってない。ナナゴは"場所の理由"を聞いてて、あの子は"行動の理由"を答えてる。ナナゴが冷静になるか、あの子に理解する頭があれば話し合えそうだけどなぁ。後ろの2人は黙ったままだから、口を出せない立場なのかなぁ。うーん、どうしよう…
「起きたな?おい、黙って俺についてこい。仲間に会わせてやる」
「えっ…仲間がいたんですか?戻らないと…」
「ナナゴおはよう。ナナゴに見つけてもらうまで俺は1人だったよ。たぶん、あいつが言っ「聞こえねーのか!黙って着いて来いってんだよ!そこの変態!」ナナゴ、武器ある?」
「やるってーのか?いいーーー「出来ればやめて欲しいのですが」ーーー来た転生しーーー「俺の心配してくれるのか、ありがとう」ーーーあの獣人にもーーー「ええ、御神木様に連れてくるようにと言われてますし怪我をさせるわけには」ーーー前線を押し上げーーー「あぁ、責任感からの心配か、それでも嬉しいよ」ーーーここに行けっーーー「…そもそも今回は武器は持ってきていません」ーーーが、間違っていーーー「襲われたらどうするつもりだったの?」ーーー俺がこんなとこーーー「エルフ以外がここに来るとは考えてませんでしたし、魔物は稀です。居たとしても御神木様の庇護下ではすごく鈍くなります」ーーー俺が力の差をーーー「逃げきる前提だから持ってない、と」ーーー腰の剣を貸せーーー「そうです」ーーー言わなきゃバレないからーーー「一緒に逃げようか」ーーー護衛を放棄しーーー「いえ、あれらを追い払わなくてはいけないので」ーーーじゃあさきっちょーーー「うん、手伝うよ。さっき変態って言われたし…変態…腹立ってきた」ーーーもういい!お前らーーー「?、!!!」ーーーこい!!!ポチ丸!!!」
ずっと何かを言っていたが聞き流す。
そして、変態と言ったことを後悔させることにした。
…?ナナゴが目を見開いてこっちを見てる?まぁいいか、奇跡を使うなって?アイツラは転生者、もしくはその手先。アイツラが襲ってくるイコール転生者は敵。転生者は御神木様が絡んでいる可能性が高い。御神木様イコール敵、は飛躍し過ぎかな?御神木様は疑ってかかるくらいにしておこう…
羽ばたく音が聞こえてくる。
鎧の2人が剣を抜いた。
「こんな時に魔物」
ナナゴが呟いた。
ナナゴの視線をたどると、葉っぱの間を縫うように翼の生えた犬が飛んできていた。
「どっちからも目が離せないよね?俺がアイツラ見とくよ。何かあったら教えて」
「わかりました。仰せのとおりにいたします」
「??ここから一緒に生きて(エルフの村?に)行こうね」
「あなたがそれを望むなら」
「??」
羽根の音が近付いて来ているが、3人とも魔物の方を見もしない。
何か策があるのか、気づいてないのか。
ナナゴの見立てで魔物は3人組の方に向かっているようだ。
…そもそも手札が奇跡くらいしかないなぁ。そう言えばガバガバ説明では、出すことが出来るって。試してみるとして、どうやるんだ?いつもの逆にしてみるか、えーっとこう、出来た…
軽く拳を握りその中に出してみた。
紫のグミみたいなものだった。
出した瞬間にナナゴが振り向くのがわかった。
「…何をやりやがったのでしょうか?」
「えっ?どういうこと?」
「いえ、なにも」
ついナナゴを見てしまう。
コレ以上無いくらい目を見開いて驚いていた。
すぐ3人組に目線を戻し、動きがないことを確認する。
…このグミは何なんだろうなぁ。握ってみると柔らかくて、くっつく。お餅かな?手のひらがベタベタしている気がする…
ついに魔物が3人組の所に着いた。
戦闘が始ま…らない。
「ポチ丸、遅いじゃないか。呼んだらすぐ来い!」
…看破されたか、翼犬とアイツラで潰しあって消耗したとこを狙う策が。相手戦力が小さくなるどころか、大きくなってしまった。どうせ俺は2度目の生だから、捨てるなら俺だなぁ。その前に…
「ナナゴ、俺らで勝てそう?」
「無理ですね。」
「いけ!ポチ丸!」
「俺が気を引くから、目とか鼻とかやってみて」
「私が…わかりました」
アイツラは動く気がないようで、向かって来ないが剣は納めない。
…俺がやられれば、ナナゴも逃げるだろ。逃げないかな?逃げて欲しいな。逃げますように…
「いや、2人で逃げればよくない?」
犬が姿勢を低くしてゆっくりと、すっごくゆっくりと近付いてくる。
ナナゴが俺の前に出る。
「あの魔物は飛べます。私は飛べる魔物に速さで勝ったことがありません。供に生けずすみません。御神木様の足元に目的地があります。降りるだけなら急げば日が出ているうちに着きます。最後に、貴方様の名を教えてくださいますか?」
…あっ、名乗ってなかった…
「えっ?あっ、」
ナナゴの肩を掴み足払いをかける。
尻もちをつかせて、俺が前に駆け出す。
…最初より仲良くなったつもりだったのに。俺が思い込んでいただけなのか。ナナゴから見たら、名前すら教えてくれない関係性だものな。俺が、勝手に、好感度が上がっていると、思い込んでた、顔が熱い…
犬は移動とは打って変わって機敏に右の前足を上げる。
…あれを避ければ奇跡を当てられそうだな。ほんとどんな事になるのかなぁ。最悪は何も起こらないかなぁ。その時はナナゴが逃げて生き延びてくれればいいなぁ。ナナゴは俺の名前すら知らないけれども…
犬が足を振り下ろす。
ターンして躱す。
ナナゴがちらりと見える。泣いている。
…犬め!えっおっきい口、牙鋭い!噛み千切り回避のためには、退くか歯より奥に行くか。後ろにナナゴがいるから全身で前進一択か。ってことで、とうっ!…
犬の口の中にダイブし、間を置かずに口の中がいっぱいになるまで全身から紫グミを放出する。
…口閉じないなぁ。あっ左足で口の中のものを出そうとした。ん?左足がグミにくっついた?あーあ、バランス崩して倒れたな。あれ?ナナゴがグミに張り付いた?入ろうとしたのか?後ろから右足が!…
ナナゴの手を掴み引きずり込む。
右足はナナゴを追いかけてグミに触れ、固定された。
ナナゴをよく見る。
くるしそうな表情をしている。
…そうか、息ができないのか?俺はできてる?分からないけど呼吸のために外に出るか。むっ、前足のせいで出られる隙間が無い。さらに顔色悪くなってる?…
他に出来ることが思いつかず、ナナゴに奇跡を使って何かを送り込んでみる。
すると顔に赤みが指していくが、表情が崩れていく。
感情としては恐怖だろうか。
どんな効き方をしているのか分からないが、生命活動は確保されたのだと思いたい。
…この犬は現状無力化している。と、俺は思ってるけどアイツラは動けるんだよな。ここから出来るのは、この犬に奇跡を使うくらい?片足を伸ばして犬の口に触れて、ヌルヌルしてるよぉ。ナニかを足から吸い取って、ナナゴに何かを送り込んで。ふえぇ、難しいよぉ。ん?ナニかの方に俺の奇跡に近い動きがあるなぁ。やってみるか?と言うか他に出来る事がないから、やるしかないなぁ…
もう片方の足も口につける。
両足とも犬の口に触れている状態で片方から大きく吸い取り、もう片方から小さく送り込む。
送る方は抵抗が強く、入っていく気がしない。
ナナゴは大丈夫かと顔を向けてみると、顔色は良く薄っすらと微笑んでいた。
…ああ、ナナゴの方にもナニかを送り込んでた!でも無事っぽい。むしろ調子が良さそうだ。これは犬には吸い取りだけの方が良いか?ナナゴの方はナニかを送るのをやめて、恐い顔になった。ハイ、ナニかを送らせていただきます。はい、笑顔になりましたね。犬には送るのをやめて。あれ?なんか犬に送る方の抵抗が無くなった。んん?吸い取れる量が増えた!そう言えば、どうして量とか分かるんだ?口の中に居て暗いし、紫のグミに覆われているのに表情や顔色が分かるイテッ。ナナゴさんほっぺた抓るのやめてもらえませんかねぇ。そもそもこのグミって俺以外に変形させる事が出来ないと思うんですよ。犬の動きはたぶんで封じてるし、ナナゴさんは引きずり込んだ後は体勢変わってなかったし。なぜうごけイテテッ。両手で抓りましたね!とっくに犬には送ってないよ。もっと強くする?あっ、グミまで吸い取っちゃった。一回り小さくなっただけだけど、前足が両方とも自由になったなぁ。さっきよりも口が閉まっているし。イテテテテッ、力入れ過ぎじゃない?うおっ、浮遊感。何?…
右、左、上、下、体自体は両足がついたままだが犬が激しく動いているのが分かる。
ナナゴは振られるのに合わせ身体が流されている。
固定するために抱きしめた。
ナナゴからも抱きしめ返される。
今は見えないが、直前の表情が真顔だったのが気になる。
…なんか吸い取ってるのが薄くなるっていうのかな、少しずつ変化している。量は変わらない気がするけども。うーん、量が増えた時に奇跡によく似たのがなくなったけど、よく分からないなぁ。とりあえず安全は確保されてるっぽいから、現状維持だな。ちょっとずつだけど動きは鈍くなってる気がするなぁ…
長いような短いような時間が経ち、横になった状態で動きが止まる。
横になった時から吸い取りが極少量になっていた。
外を見るために抱きしめるのをやめ、手を繋ぐ。
グミを吸い取らずに開いている所から外の様子を見てみた。
三人共血濡れだ。
鎧姿の2人は倒れていて、子供は辛うじて立っているように見える。
危害は加えられないと思い、ナナゴと共に外に出てグミを吸収した。




