26
人の声が聞こえた。からの何日目?
「魔物多くない?」
「増えているのですかねぇ?」
「出発しよう、って言ってから増えたわよねぇ」
あの日、人を見つけに行こうと準備をし終えた頃に遠くの方からガサガサと大きな音を立てて近付いてくる何かがいた。
そいつはこちらにまっすぐ向かっているようだったので身構えていたのだが、離れた所を迂回して反対側に走って行ったようだった。
「うぇぇ、あいつ追われてたのか?」
「そこそこ大きな音だったので、聞こえた個体だけ集まってきただけではないのでしょうか」
「わたしからはよく見えなかったけど、どっか行っちゃったのは人だったの?」
「俺は葉っぱの塊が移動してるようにしか見えなかった」
「私にもそう見えました」
「木とか茂みの陰だったから見えなかったってことなのね」
「んー、違う。おとなの人位の大きさの葉っぱの塊」
「タロー様の言った通り、葉っぱの塊ごと移動してました。」
「触れた所がカサカサしていたわけではなく?」
「塊だった」
「魔物よね?」
「襲ってこなかったけど」
「私の感覚では人に近い感じがしました」
「わたし達が知らない種族?」
「そうかも知れません」
「ははっ。今更だけど俺等冷静すぎない?魔物に襲われてるんだよ?」
「ほんとに今更よね」
「囲いは破られたことがありませんから、警戒態勢にはなりますが不安にはなりませんので」
「それにコン蔵が大暴れしてるし。タローと一緒に出かけてからあれを使い始めたってことは、タローが教えたの?」
「俺は何もしてないよ。行った先であの技でオークを狩ってるのを見て驚いたもの」
「小さく素早いので的を絞らせず、重い一撃を放つのですね。罠を仕掛ければいいのでしょうか」
「倒すべきならそうよね。でも、コン蔵には駄目よ」
「違います!コン蔵を食べたらおいしいかなって考えただけです!行動には移そうとはしてません!」
「考えはしたんだ。正直すぎるだろ」
「コン蔵にも聞こえちゃったようね。魔物の後ろに隠れるような動きをしてるわね」
「そんな!コン蔵!ちょっとだけでいいんです!少しだけです!」
「それは駄目ね」
「うん。駄目だね」
戦闘が終わり、コン蔵が食べ物を引き摺って囲いの中に戻ってくる。
さっきの叫びがしっかりと聞こえていたようで、ナナゴには近づかないように位置取りを調整していた。
「ははっ。ナナゴはコン蔵を食べないから大丈夫だよ」
「…残念です」
「!、本当に食べるつもりはなかったんだよね?」
「も、勿論です」
「なんで動揺してるのよ…」
「あれ?本気だったのか?」
「ち、違います!冗談でした!コン蔵、ごめんなさい。仲直りしましょう」
そこからナナゴが追いかけ、コン蔵が逃げるのをしばらく見ていた。
コン蔵が機敏な動きで躱し、ナナゴが先を読んで回り込む。
お互い疲れたのかいつでも動けるような体勢のまま膠着する。
「2人共じゃれ合いはそこまでにしてお肉食べるわよ」
ミヤコが声をかけるとお互いを注視していた2人が共に焼いている肉に目を向けた。
「…2人共、食欲に正直よねぇ」
「ミヤコもだろ?」
「タローもじゃない?…違うわね。タローはよく分かんないわね」
「俺は欲を抑えることが上手いのか」
「逆よね。タローは抑えてないわよ。抑える気がない、かしら?」
「そんな事ないと思うけど」
「思いついたらすぐやっちゃいたくなるでしょ?」
「それは…まぁ」
「それが強いように見えるわよ」
「あー、善処しようとしてみる気持ちを持つよ」
「…ほぼ何もする気が無いわね」
食事を終え、改めて移動しようとするとまた何かが近づいてくる音がする。
「うへぇ、行動しようとすると何かが来るなぁ」
「無視して行っちゃう?」
「まっすぐこちらに向かってきているので、捕捉されているかもしれません」
「魔物に追われながら人に接触したら、相手からどう見える?」
「…状況にもよるけど、いい感情ってことはないわね」
「倒しちゃったほうがいいのか」
「そろそろ姿が見えます」
「あー、また葉っぱかぁ。また追いかけられてるし、またちょっとだけ迂回して行っちゃう位置を移動してるし」
「魔物だけはしっかりこっちに来るのよねぇ」
「お腹は満たされていますし、倒したら移動しましょう」
そして魔物を倒し終えた時に
「小腹が空きました。少しだけ補給してもいいでしょうか?」
と、ナナゴの言葉で肉を焼いていく。
少しで済むはずもなく、可食部分が無くなるまで食べていた。
「あー、またあいつが来たなぁ」
「葉っぱを倒しちゃう?」
「反転して挟み撃ちの形になると面倒です」
「そこで囲いを作ればいいんじゃないかしら?」
「地形次第では狩った後にお肉の回収に手間取ります」
「そっちの心配をしてるのか」
「まぁ、時間の制限はないから葉っぱを見逃してもいいんじゃないかしら」
その場で留まることにして、魔物を倒し、肉を焼く。
そして、また葉っぱがやってくる。
葉っぱの姿を見せる間隔が短くなっていき、ついに日が暮れる時間になった。
「夜は姿を見せないわね」
「あー、あの葉っぱ?」
「そうよ」
「たぶんあの魔物は昼行性なんだろ」
「私には魔物には見えないのですが…」
「人だったとしたら自分では戦わないやつってことになるだろ?こんなに魔物だらけな所で何してるの?」
「逃げ足がすっごく速いのかもしれないわよ?」
「今まで圧倒的な速さの葉っぱはみたことがありません。精々人が走っているくらいです」
「まぁ、気が向いたら捕まえてみるか」
「なんか、移動する気が失せたわね」
「そうなんだよなぁ。気が向くまでここに居座っていい?」
「私はいいわよ。ナナゴは?」
「問題ないです」
「キゥ」
「あっ、コン蔵居たのか。姿が見えなかったけどどこにいたの?」
「タローの近くにずっといたわよ」
コン蔵が拗ねた。
機嫌を取るのがものすごく大変。




