20
穴の中1日目
20メートルくらい進むと広い空間になっていた。
穴は真っすぐ続いているが、両側にそれぞれ40〜50メートルくらいの奥行きがある。
「居たっ。あれがトカゲ…トカゲ?」
「頭が大きいわね」
「胴体が小さいのかもしれません」
「動きは機敏だったんだけどなぁ」
「見えてる限りではのんびりしてるわね」
「ゴブリンの姿も見えないし」
「夜にここまで来たのですか?」
「ここには初めて。入り口からゴブリンとトカゲが出て来てた」
「ここに着くまでだと、あのたくさんあった小さい横穴くらいかしら?」
「それくらいしか見てません。しかし、ゴブリンが通るにしても小さかったように見えました。」
「奥から来たとしたらトカゲに見つかりそう」
「謎ですね。それではトカゲを食べましょう」
「まだ狩ってすらいないのに」
「タロー様、私達を囲ってください」
「あいよ」
「タローに囲われちゃったわ。責任持って養ってね」
「コン蔵だけに範囲を絞ろうかな…」
「ミヤコ!何を言ったのですか!」
「タロー。ごめんー。わたしが養うつもりのようになる気持ちでいるからー」
「気持ちだけかぁ」
「タロー様を養う!?ミヤコ…ミヤコ様はどれほどの力を隠しているのでしょうか!?」
「ナナゴ…急にどうしたのよ?わたしもタローも隠してるものなんてないわよ」
「そうそう。全部見せてるよ」
「タローは隠すと言うより、知らない事が多すぎる上に面倒くさがりなのよ。」
「そうなのですか?」
「いや、熟慮しているだけ」
「あっ、駄目なタロー様です」
「ぷっ。その通りよ」
「普通なんだけどなぁ」
「それで、囲いに噛みついてるトカゲはどうしますか?」
「1、2、3、4、5。しっかり5匹に囲まれて居るわね」
「それはいいんだけど、何で噛み付いたまま口開けてるんだろうね?牙も刺さってないから傷1つつけらんないのに」
近場のトカゲの口いっぱいにグミを流し込み、囲いと繋げる。
「暴れてる、あばれて…」ミシッ
「囲いが軋んでいるわよ」
「いえ、接地している岩の所から音がします」
「それならさっさと倒したほうがいいわね」スラッ
「ミヤコ待って。嫌がらせするから」ピトッ
鼻の下に手を当てて吸い取っていく。
暴れ方が離れようと叩くのから空中に何かを求めるような動きに変わっていく。
「…さっきより近付けなくなったわよ」
「でも、力の入ってない動きだろ?」
「苦しそうです」
「残酷かな?」
「タロー様。傲慢です。私達はそこまで選べる手段を持っていません。相手が殺す気で来ているのに何を言っているのですか。それとも正面から殴り合いでもしますか?私とミヤコとコン蔵がどうなるか考えてみてください」
「ごめんなさい」
「タロー。わたし達も食欲でここに来たんだから、そこまで落ち込むことはないわよ。それで、まだ時間がかかるのかしら?」
「うん。このトカゲはどうなんだろ?ナナゴはわかる?」
「空気中の瘴気と同じくらいになっているのでそろそろかもしれない、と言ったところかもです」
「そうだよね。初見で断言はできないよね。おっ」ズズン
「頭が固定されて胴体がダラリと…首が辛そうね」
「ミヤコ、引き込みますよ。せーの!」ズリズリ
1体が倒れた後に次はどれにしようか目線を彷徨わせると、3匹が体1つ分後ろに下がっていた。
「あいつしか選択肢が無い。」
魔力を回し一気に肉薄し、口を固定する。
鼻の下に手を当てた時、ついでに鼻も塞いでおいた。
「小さい個体だなぁ。」
最初のトカゲよりずっと早く動きを止めた。
そのまま引きずり込むことができたので、食べられるようになるまで瘴気を抜き続けた。
「生きてる方が瘴気が抜きにくいのか」
「タロー様!大変です!」
「どうした!?」
「ここでお肉を焼くのは困難です!」
「…引き返そうか」
全身を包みそこから両手を露出させ瘴気を吸い込む。
更に身体の中では魔力を回し、大きな方のトカゲを担いだ。
ミヤコとナナゴは前の方で小さいトカゲを引きずっている。
…同時にいろいろやらないと、か。これはなかなか忙しいな…
「俺は最後尾に居ないといけないから、何かあったらすぐ教えて。囲いを作るなり、持ち物全部捨てて逃げるなりするから」
「前は任せてください。絶対トカゲは死守します」
「違うわよ。トカゲを捨ててでも生きましょうって言ってるのよ」
「捨てるのですか!?捨てるくらいなら生でも食べます!」
「…お腹壊さない?」
「わたしは生で食べるのを聞いたことないわ。絶対火を通せって怒鳴られたことはあるけどね」
「ナナゴ。いざとなったらだし、後から取りに来ればいいんだよ」
「何か言いました?前に集中しているので用が無いのであれば静かにしてもらえると助かります。敵の僅かな音も聞き漏らすわけにはいきませんから」
「はい」
静かな穴の中でズリズリと言う音だけが響いている。
2人掛かりで小さな方のトカゲを引きずっているが、歩くより少し遅いくらいの速度で移動できているのでだいぶ順調だと思う。
…こっちと比べれば小さいけど、あのトカゲの体高は2人よりも大きいんだよなぁ。単純に前が見えん…
後ろからはトカゲ達が一定の距離を置いてついてきている。
襲いかかってくる様子もないので、警戒はするが心配はしていない。
…このトカゲ達は敵討ちって感じじゃなく、見張りをしているように見えるな。体勢を常に反転出来るようにしてるし…
「うわっ。あの穴からゴブリンが出てきてるわよ」
「…気持ち悪い動きです。あっ、戻りました」
「行こうか?」
「大丈夫よ。ゴブリンはニュルニュルよ」
「それ、気になる。こっちからは見えてないからあとで教えて」
「わかりました。トカゲを食べたらお話しします」
…穴を出たらじゃないんだ…
「わかった。楽しみにしてる」
「実際に見たら楽しくはないわよ」
「ミヤコ、無駄口を叩く暇があったら全力で運びますよ」
「無駄口って何よ。ナナゴも…。精一杯頑張らせていただきます!」
…ミヤコが畏まったってことは、ナナゴの表情に気圧されたんだろうな。食に対する、いや、肉に対する執着が凄まじいものなぁ…
無言で暫く進むと外に出ることができた。
トカゲ達は相変わらず一定の距離でこちらを見守っている。
「タロー様。入り口をグミで覆ってしまうことは出来ますか?」
「さっき地面の方が負けそうになってたわよね」
「グミ自体が壊れたわけでは無いので、やっておいた方がいいと思います」
「じゃあ、分厚くしてみようか」
「厚みは一律じゃないの?すっごく応用の利く奇跡よねぇ」
「出来るか分からないけど、やってみるってだけだよ。んっ。そしてここから厚みを出して、できた。こんなもんでどう?」
「えっ?すみません。何のことでした?」
「もうトカゲを切り分けてるのか。あー、入り口を覆うってやつ」
「ああ、いいんじゃないでしょうか。ミヤコっ、火を準備してください」
「もう始めてるから、さっきみたいな鬼のような顔はしないでよね」
「おに?王国に行けばそれも狩れるのでしょうか」
「ごめんなさい。王国にはいないし、空想上の生き物だから狩れないわよ」
穴の目の前で何時もの囲いを作り、食事の準備を始める。
「タロー。木を拾ってきたから燃やせるようにして」
「…ズルしてるの気付いちゃった?」
「ズルじゃないわよ。使えるようにする為に何かをやったのよね。それは努力とかそういう事が出来る力があるとか言うのよ」
「タロー様。やれるのなら悩まずにやってください。そして、できるだけ早く食べれるように力を尽くしてください」
「はい」
火を焚き、肉を焼く。
「いい匂いよね」
「クゥン」
「うおっ。コン蔵、何処いたの?」
「ずっとタローの鞄の上に静かに掴まってたわよ。外に出てからはわたしの後をついてきてたわ」
「気づかなかった」
「もういいですよね?」
「たぶん?」
「「「いただきます」」」
しばらく焼いては食べてを繰り返した。
「よくこれだけ食えたなぁ」
「大きい方はもう食べるところがないですね」
「小さい方だけだとすぐ無くなっちゃうわよ」
「…しばらくここに滞在する?」
「いいのですか?」
「わたしはやらなくちゃならない予定は何もないわよ」
「俺もやりたいこととか行きたいとことかも無いなぁ」
「では、明日もトカゲの調達でいいですか?」
「うん。トカゲに飽きるまでここにいてもいいしね」
気分で書きます。
気分で投稿します。
中身も気分次第で。




