じゅうさん
「…誰にも声を掛けられませんでした」
ナナゴが少し気落ちしていた。
「どうしたのよ。何も言われないのが最良って事じゃない?」
「いつもは話しを、忙しくても顔を見れば挨拶くらいはする間柄のはずですが何も声を掛けられませんでした」
「うーん、ナナゴに気付かなかったんだろう」
「目が合った後、一拍開けて顔ごと逸らされました」
「それは…じゃあナナゴ、いつもと違うことは?」
「…持ってる荷物が多かったです」
「…わたし達が一緒にいたからじゃない?」
「それはあるかも知れませんが、そんな反応…」
「スリーに住むとさ、人と全く会ったことないってこともある?」
「はい。あったとしても勝手に侵入してきたのや、外で狩りをしていて遭遇するか、あまり数はありませんが人の商人が門のすぐ内側の更に壁で囲われている所に滞在する時くらいです」
「それじゃないかなぁ?人の対応をするのが、狩りをするか警備するか店を開いているエルフだけでしょ?」
「そうですね。…だいぶ限られています」
「それなら人のいないはずの場所に人が居たんだ。警戒しても変じゃないと思う」
「警戒、ですか」
ナナゴが火を見つめて口を閉じた。
…考え事かな?火に照らされると美人だなぁ。ミヤコは、変顔中かなぁ…
「ミヤコ…なんて顔してんの」
「…普通の顔よ。あのね、スリーに兵士が居るって事だったじゃない?見掛けないし、止められないし、捕まらないしでどうなってんのって思ったのよ」
「それです。」
ナナゴが顔を上げてミヤコを見る。
「人がスリーに来た時は門の内側の限られた範囲しか居ることを許可されません。その時に滞在する建物も決められています。そこの建物に誰かがいる時は入り口の扉に飾りをつけて、分かりやすくします。しかし、今回はありませんでした。兵士はどこにいるのでしょうか。」
「外にもいなかったわ。町の中心には行っちゃ駄目なのよね?」
「王からの特別な許可で中まで入ることは出来ますが、人数はだいぶ絞られます。そうですね…御神木様のところにいた人数程度でしょうか。それ以上の数はエルフの安全を確保できないので通さないと思います。」
「入れる人数が少ないのね」
「はい。中に入る許可を出すのは王です。しかし、判断基準は法によって定められています。その許可の条件の1つにエルフが傷一つ負わないように配慮する事。と、いうのがあります。もし、許可された人が暴れたら無傷とはいかないかもしれません。しかし王の責任で対策をとらないと、法を遵守したとは言えないことになってしまいます。その時の配慮不備により裁かれる事になると、前線での壁が決定します」
「…刑が重いなぁ。もっと緩く統治されてるかと思ったら、ガチガチの法治国家だった。」
「ええ。無法は崩壊へと続いていますから」
「スリーでは何かしら王国への対応に変化がおきてたってことかぁ。スリーがどんなとこかミヤコは知ってた?」
「知らなかったわ。王国ではもっと緩いわよ。法律はあるけどざっくりと、盗むな、殺すな、迷惑かけるなみたいなものだったわ。その罪に対する罰は大体が前線での壁よ。」
「似たようなものなのかなぁ?」
「そうでもないわよ。王の下に貴族がいて、貴族がそれぞれの領地を治めてるの。その領地ごとに法を定めているらしいのよ」
「…誰から聞いたの?」
「盗賊討伐の任務で立ち寄った村に、仕入れが終わって自分の町に帰る途中の商人の一団が居てね。その人達が怪しい行動をしていたから声を掛けたのよ。その時居たところは、出るまでに警備料として自警団に一定の金額を納めなくてはならないって定められていたの。隣では賄賂に当たるってことらしかったわ。どうするか悩んでたらしいわよ。」
「自警団に聞けばよかったんじゃない?」
「わたしもそう言ったけど、賄賂認定される所で聞くと状況や対応した人の態度で捕まるらしいわ」
「判断が雑だね」
「わたしが見た限りだけど、自警団や兵士の裁量が大きいのよ」
「うへぇ、不正し放題だなぁ」
「そうでもないらしいわよ。領主が不正判定って認めると、自警団がいる村や町の力のある人が罪人ってことで前線の壁として送られるらしいわ。」
「それ、私でも聞いたことがあるかも知れません。王国の村1つが、妊娠している人や小さい子供以外全員前線へと送られたと言われていました。」
「交流がすごく薄いエルフにまで伝わっちゃうって…」
「エルフの間で、王国はずいぶん余裕があるなって話題になっていました」
「余裕は無いと思うわよ、ただ自警団がやり過ぎただけだと思うわ」
「領主が悪いって事は…」
「無いと思うわよ。それはそれで兵士の口から漏れちゃうもの。」
「反乱の種になっちゃうのか」
「まぁ、反乱したら魔物に隙を見せることになるから、人間の生存圏を削られる事になるんだけどね」
「あぁ、乱暴だけど善性の人間だけ選別しているのか」
「…そうですね。どこまでの人が関係しているか分からない以上罰を与える範囲が定められない。でも、荷物を運んでくれる商人を蔑ろにすると村が衰退する。そう考えると仕方ないのかもしれませんね」
「うーん。やっぱり日本とは違うんだなぁ。疑わしきは罰せずが前提だったものなぁ」
「そうよね。わたしもこっちに馴染んだのかなぁ。そんな事もあるくらいにしか思わなかったもの」
「俺だって2人の話を聞いて質問して自分の中に落とし込んで、漸く比較できたんだよ?ただ聞いてるだけだったら、そんなこともあるんだって聞き流してると思う」
「…御二人の居たところはとても裕福だったのですね。」
「そんなにでもないような…」
「スリーの中ではそこまででも無いですが、壁の外で奪われるということは死を覚悟しなくてはなりません。たぶん商人も同じではないでしょうか。」
「そうね。武器を奪われて外に出れば魔物や盗賊に襲われるし、お金を奪われれば次の町や村で何もできなくなるわ。」
「…そうだったね。前の世界では個人の貧富の差はあっても、本人が何か行動すれば最低限の生活は保障される。ってことになってたからね。いきなり生き死にに直結するこっちとは違うんだな」
誰も口を開かずに無言の時間が過ぎる。
…元々何の話だったっけ?…
「そういえば、ここって襲撃されることはないの?」
ミヤコの言葉にナナゴがぐるりと視線を巡らせた。
「…スミマセン。話しに夢中になってました。何か異変がありましたか?」
「変化はないと思うわよ。でも、何もして無いからふとそう思っただけよ」
「…今は大丈夫だと思います。この後私が見張りをするので2人は睡眠を取ってください。」
「明日のこともあるからナナゴも寝たほうがいいわよ。わたしと交代で見張りをするわよ」
「…俺のグミで囲むのはどうかな?」
2人の視線が俺に集まった。
「それは…寝ても消えないものですか?」
「どうだろう?やったことはない」
「胸を張って言うことじゃないわよ」
「それでは今晩はタロー様が朝まで寝て、私とミヤコで交代で見張りをしましょう。」
「俺もやるよ」
「駄目よ。タローはグミを出して、とっとと寝て、消えないか検証しないと。わたし達の安心のためよ」
「それでも」
「寝てください。とても大切なことなのです」
「2人に負担をかけたくない」
「駄目そうなら、タロー様だけが一晩中眠るのは今日だけです。ですから、ずっと一緒にいるつもりなら寝てください」
ミヤコもナナゴも微笑んでいる。
「…わかったよ。じゃあ、グミで囲んで、っと。出来たよ。ごめんね。おやすみ」
「ゆっくり寝てね」
「おやすみなさい」
…申し訳ないな。寝付けるかなぁ。眠らないとってなるとねれな…
「寝息が聞こえます」
「寝たわね」
「私は何処迄も御一緒するつもりですが、ミヤコはどうしますか?」
「わたしもどこまでもよ。王国には戻るつもりもないし、転生者であるわたし達は長くても20年も生きれないわ。その間はタローと一緒に生きていくつもりよ。」
「そうなのですか。…あと、知っていたら教えて頂きたいのですが、タロー様は御神木様と親しいのですか?」
「親しいかは分からないわ。でも、御神木様って神様なのよね?」
「はい。すごく昔の転生者の人が神様だと断言したそうです。」
「じゃあ、前世で親しいって事は無いと思うわよ。前の世界では神様は近くて遠い存在だったの」
「?距離感が分からないですね。エルフのように信仰していたってことでは無いのですか?」
「信仰はあったわ…でも、説明が難しいわね。そういった存在である。と、認識してもらえると有難いわ。」
「?わかりませんが、わかりました。では、最初に私が見張りをします。ミヤコは寝てください」
「わかったわ。おやすみ」
「おやすみなさい」
気分で書きます。
気分で投稿します。
中身も気分次第で。




