71/73
『しーちゃんと記憶の図書館』第175話
はじめての一文
⸻
放課後の図書館は、静かな雨音に包まれていた。
窓際の机に、少年がペンを握って座っている。
—
白いカードを前に、何度もペン先を浮かせては戻す。
言葉を探す時間が、やけに長く感じられた。
—
しーちゃんは少し離れた席で、本を開きながら見守っていた。
声はかけない。ただ、その背中をそっと支えるように。
—
やがて少年は、小さく息を吐き、ゆっくりと書き始めた。
ぼくは、まだ何者でもない。
でも、誰かの灯りになれたらいい。
—
書き終えると、しばらくじっと文字を見つめた。
そして、まるで宝物を渡すように、そのカードを差し出した。
—
しーちゃんは受け取り、やさしく頷いた。
「あなたの灯りは、もうここに灯りました」
—
少年は照れたように笑い、雨の向こうに目をやった。
その瞳は、ほんの少し、大人びて見えた。




