足手まとい
カラン カラン
カラン カラン
ギルドの物見やぐらに備え付けられている鐘を何度も何度も鳴らす。息が上がり、額から汗が滴る。
ギルドメンバーに対する緊急招集を報せる鐘。この鐘を聞けば少なくとも町にいる冒険者はみな集まってくるはずだ。
「シア。代わるぞ」
振り返るとギルド付きの酒場のマスターさんだった。
「はい、すみません。おまかせします」
本当は、私の仕事ですから、と断らなければいけないのだろうけど、もう体力がもたなかった。ありがたく替わってもらう。
それに、他にどうしてもやりたいことがあったのだ。笑う膝を抱えて私は広間へ戻った。
「以上で説明は終わりだ。
キラリン湖の回りに警戒網を張る。相手は未知の魔物だ。Aクラスの冒険者以外は絶対に手を出すな。
見つけたらメインのハンターチームである俺たちにすぐに報せろ」
いつもなら酒場や食堂のスペースである場所が臨時の作戦会議室になっていた。
みんな真剣な表情でガンツさんの説明を聞いていた。ギルやファナの姿もあった。
「各チームのメンバーと分担地域はこっちで勝手に決めさせてもらった。メンバー交換はある程度自由だ。各自で相談して決めてくれ。だが、時間厳守だ。1時間以内に出発してくれ。いいな!」
その場は解散になった。冒険者さんたちはボードに貼り出されたメンバー表と担当地区を一斉に確認し始める。ごった返す人の群れをかき分け、かき分けガンツさんを追いかける。
「おーい、シア」
そんな、私を呼び止める声があった。振り向くとギルとファナがいた。
「ね、ね、シアは今回の謎の魔物の目撃者なんだって?!」
ファナが瞳をキラキラさせながら言った。
曖昧に頷くと、ぎゅっと手を握られた。
「そうなんだ! ね、どんな奴だったの?
教えて、教えて!」
「えっ、えーーと、私も間近で見た訳じゃないから、なんていうのかな、黒い木の棒みたいで湖面に浮かんでいたんだよね。で、それがぐっと膨らんだと思ったら水面に消えたって感じ……かな?」
「はーーー、すごい、すごい。
するとやっぱり蛇みたいなのかなー?」
無邪気に喜ぶファナを前にしてつつ、ガンツさんの後ろ姿を横目で追いかけた。
ああ、ガンツさんがどんどん遠ざかっていく
「大きさはどんなものだった?」
「えっ? えっと見えたの20メートルくらいかな」
「20メートル!
すっごいなぁ、そんなのと戦って見たかったんだ。ああ、ワクワクする!」
ファナの言葉に耳を疑った。
「ダ、ダメよ。ガンツさんの話を聞いてなかったの?
勝手に手を出したらダメだっていってたでしょ」
「大丈夫よ。遠くからファイヤボールをぶつけるぐらい危なくないよ。
マジックアローでもいいかな。
大物の魔物に自分の力が通じるか試したいじゃない!」
「ああ、そうだな。俺も遠くから斬撃波が通じるか試してみてぇ」
ギルも不穏なことを言い出した。
「二人とも軽はずみなことをしちゃ絶対ダメなんだからね」
と、言いながら、私は少し焦っていた。このまま、ガンツさんを逃がすわけにはいかない。
「ごめんなさい。私、ちょっと用事があるから。良い? 二人ともまだDクラスなんだから無茶しちゃダメよ。場合によっては除名になるからね!」
なんか浮わついている二人に念を押すとガンツさんを追いかける。ガンツさんはちょうどドアを抜けて外へ出ていくところだった。
「ガンツさん!」
ドアを開けると大声で叫んだ。
私の声に驚いたようにガンツさんが振り向いた。
「なんだ、なにかようか?」
「モルタン村に行くんですよね?
私も連れていってください!」
「なんだって? 一体どうしてだ。あそこは今、一番危険なところだぞ」
「分かってます。魔物が一番現れる可能性の高い場所なんですよね。
だからです。モルタンは私の村なんです」
「ふむ。家族が心配なのか?
気持ちは分かる。だが、もしもの時は俺たちがみんなの安全を保証するから心配するな」
ガンツさんはそう言いながら馬車に乗り込んだ。
「待ってください。お願いです。一緒に連れていてください」
なおも食い下がるようにお願いしてみた。
ガンツさんはじっと私の顔を見るとぼそりと言った。
「ダメだ。冒険者でもないお前を危険な場所へ連れていく訳には行かねぇ。
はっきり言って足手まといだ。
お前の家族は俺が責任を持つ。だから、安心して留守番をしてろ。いいな!」
今更ながらガンツさんの言葉にショックを覚え、呆然と立ちすくんだまま、去っていく馬車を見送った。
冒険者でもない
足手まとい
確かにそう。さっき自分はギルやファナになんて言ったっけ?
『軽はずみなことをしちゃダメ』
一体全体、どの口がそんなことを言ったんだろう。あの二人は例え駆け出しでも冒険者。それに引き換え、私はなに?
ただの受付嬢じゃないか。それが魔物相手に何ができるっていうの?
足手まとい
そうだ、ガンツさんの言う通り。たかが魔物を目撃しただけ。
なにを舞い上がってるの?
頭、どうかしてる
だけど……
なんだろう、この胸の鼓動が止まらない。どうしても魔物のところへ行かないといけない。そんな気持ちがふつふつと湧いてきて、居ても立ってもいられなかった。この気持ちは一体なんなんだろう。
居ても立ってもいられなくなりキラリン湖を目指して走り出した。
なにができるかとか、なにをしようなんて全くノープランだ。だけど、そうしなくてはいけない気持ちが体の奥底から、じわじわじわじわと止めることもできずに湧き出てくるのだった。
通りを駆け抜け、町からモルタン村へ向かって走った。
町の真ん中を流れる川のそばを通った時、ふと走るのをやめた。そしてまじまじと川面を見つめた。
川は静かに太陽の光を反射して静かに流れていた。何一つおかしなところはなかった。だけど、なにかすごく気になった。
何が気になるのか?
問われると自分でもよくわからない。でも、とにかく無性に気になった。
川に近づくと、手をそっと川に浸した。ひんやりとした水が指の間をすり抜けていく。
と、なにかざわざわした感覚が微かに感じられた。
なに、この感じ?
サワザワ ゴボゴボ
なにかが水をかき混ぜるような音。
その音はゆっくりだけれど、確実に大きくなってくるように思えた。音が近づいてくる方向へと顔を向ける。それは川の上流のほうだ。この川は町を越えて草原を通り、キラリン湖につながっていた。そこで、はっとなる。
「大変! これって魔物が近づいて来る音だわ!」
2021/10/26 初稿
2022/06/07 誤記修正 & 文章見直し




