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緊急事態宣言発令

「ふむ、シアが目撃したのがこの辺ってことか?」


 ガンツさんはテーブルの上に広げた地図をみながら顎を擦った。


「それで、湖面に浮いていた部分が20メートルほどだったってことね?」


 コーネリアスさんが再確認してきたので、黙って頷いた。


「そうすると全長は30~40メートル。もっとあるかも知れないのね」

「馬鹿言え。そんなでかいウミヘビ系統の魔物って言ったら、サーペントになっちまうじゃねぇか。サーペントっちゃぁ、S(クラス)の魔物だぞ。そんなのがキラリン湖みたいな普通の場所に突然現れるなんてあり得ないだろう」

「そんなこと分かってるわよ。そもそもサーペントは海の魔物だから……

この辺の支流が海に繋がっているから上ってきたってこともあり得なくはないけど、そんな怪しい目撃情報はなかったものねぇ」


 コーネリアスさんは片手を頬に当てながら小首をかしげる素振りをみせた。言ってる本人も半信半疑ってことなんだろう。

 

「そんなことはどうでもいいから、早く依頼を受けてくれよ!」

 

ダンッ!!


 ガンツさんがいきなりテーブルを叩いた。

 びっくりして私とブライアンさんは同時に小さく飛び上がった。


「そんなこと、じゃねぇよ。

魔物の見定めは冒険者には死活問題だ。

ふざけたことぬかすな!

……ふん。でもまぁ、なんだ。良く分からん相手だが結論は出た。

コーネリアス、マッツとグラッセーノのじいさん、それからエルビーを招集してくれ」

「えっ、私たちが受けるの?」


 コーネリアスさんが目を丸くする。

 私も丸くする。まあ、地味すぎてだれも気づいてはくれないだろうけど。


「命の危険がある時点でランクCは確定。水中という特殊な環境が中心になりそうなので、これでワンランクアップ。さらに未知の魔物。これでさらに1UP(ワンナップ)となりゃ、このクエストの難度はA級以上だ。

俺たちが出るしかないだろ」


 ガンツさんの言うことももっともだった。この冒険者ギルドでAクラスはガンツさんのパーティーメンバーぐらいしか思いつかなかない。別にうちのギルドが特別ショボい訳ではない。大抵の地方冒険者ギルドはダンジョン探索をドロップアウトした冒険者が田舎に引っ込んでギルドを立ち上げる感じなので、ギルドマスターの元パーティー仲間が一番強い冒険者と相場が決まっていた。

 だから、こんな危なそうなクエストを請け負えるのはガンツさんたちしかいない。それはその通りなんだけど……


「実質そうだとしてもギルド協会の規定ではギルマスのクエストの独占は禁じられています!」


 つい、いってしまった。

 冒険者ギルドのルール。

 それは各冒険者ギルドのギルマスが決めることになっている。だけど、どこのギルドでも守らなくてはならない共通のルールが存在していた。各地のギルマスのそのまた代表者によって構成された冒険者ギルド協会が決めたギルド協会規定がそれだ。そのギルド規定の一つに『ギルドマスターによるクエスト独占の禁止』と言うのがあった。

 

 《ギルドマスター及びその構成メンバーは認定されたクエストを発行から72時間経過しないと受けられない》と言うものだ。理由は簡単、美味しいクエストをギルドマスターたちに占有させるのを防止すること。


「この依頼書をクエストボードに貼って3日経過しないとガンツさんたちは依頼を受けれません」


 ガンツさんの顔が強張った。そして、肩がブルブルと震えだす。


 怒ってる


 怒ってるよねぇ。私みたいな小娘にこんな生意気なことをいわれたら、当然だ。で、でも、ガンツさんを怒らすのは怖いけど、受付嬢として、これは看過できない。

 なぜなら、この規定はたくさんの冒険者さんたちの利益を守るためにあり、受付嬢はその規定を忠実に守り、冒険者さんたちの利益を守るのが職務だからだ!


「だーー、偉いな、お前は!」


 あ、痛ったぁ、肩を思い切り叩かれた。 


「『ギルドマスターによるクエスト独占の禁止』だなっ!

いや、その通りだ。

シアだっけ? お前の言ってることが正しい。俺たちがこの仕事をすぐに受けることはできねぇな」


 ガンツさんはついにカラカラと笑いだした。


 あれっ? 怒ってたんじゃなくて笑いを堪えてたの? 


「シアの言い分は正論だ。だが、それほど悠長なことをいっていられない状況でもあるんだな。これが」


 ガンツさんは地図の一点を指さした。


「これが早朝、漁師たちが襲われた場所。

それでここがシアが、その魔物らしきものを目撃した場所。この2点をつなげる。すると魔物の進行方向が分かる。ここだ!」


 ガンツさんの指が地図をなそり、キラリン湖の岸辺の一点で止まった。


「だれもが見落としているが、この魔物がウミヘビ系統だなんて決まっちゃいない。

もしも、こいつが水陸両用の魔物だったらどうなる? 湖の上でなければ安全だ、なんてェのは根拠のない思い込みだ。

 俺たち、冒険者つーのは常に最悪の状態を頭に描けないと長生きできない。

コーネリア! 非常事態宣言を発動する。

すぐにメンバーを集めてくれ。

シア! 全冒険者に対して緊急招集をかけろ。

キラリン湖全域に非常警戒態勢を敷くんだ」


 緊急事態宣言。

 

 それは、どこか遠くで鳴り響く鐘ののように聞こえた。

 冒険者ギルドは冒険者たちの仕事のあっせん場、互助会のようなものだが、もう一つ大事な役割があった。各地域の防衛拠点としての機能だ。一たび、危険な魔物が周辺に現れたら、冒険者全員、一致協力して駆逐する役目だ。そのため、ギルマスが非常事態宣言を発令した場合、そのギルドに所属する冒険者は全員、ギルマスの命令に従い魔物を駆除する任務につく義務があった。


 これは結構大事(おおごと)になってきた


 だけど、今の私にはそんな非常事態宣言ですら、風に舞う鳥の羽のように軽く感じられた。

 私は視線をガンツさんが指さした地図の一点から話すことができなかった。

 

 モルタン村


 私の村だ。私の帰る場所であり、お父さん、お母さん、弟や妹が今、この時を生活をしている場所だった。


2021/10/25 初稿

2022/06/07 誤記訂正

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