おそらく、それが私の日常です
めくれた地面から顔を覗かせた怪獣が糸を吐き出してきた。
避ける間もなく、糸がべったりとはりついた。
「うわ。うわ、ちょっと、これ。まずい」
力を入れてみたけれど、切れない。この間のカエルの舌よりもずっと丈夫だ。
糸が引っ張られる。
見ると、怪獣が口を開けている。鋭く曲がった牙が猛々しい。
あんなのに噛まれたら、ただじゃすまない。それに毒とか持ってそう……
足に力を入れて踏ん張る。
『さっきの要領だ。目に力をいれるんだ。糸を見るんだ!』
『あ、はい、こ、こう……かな?』
目に意識を集中しながら糸を見る。また、目がチカッと光ったかと思うと糸が切れた。
やった、よし。反撃だ!
私は、怪獣に向けて指を向けると、バレットを放った。
バシュン バシュン
怪獣はバレットが当たる前に地面に隠れた。バレットは空しく地面を抉るだけだった。
え……? どこ?
わたしはきょろきょろとあたりを見回す。でも相手の気配がまるで感じられなかった。
と、右のあたりの地面がめくれて、なにかの塊が飛び出てきた。
避けることができず、右脇腹に命中する。
あ、痛ぁ……、なに、これ?
それは糸の塊のようだった。拳大ぐらいの大きさに固めた糸の塊をぶつけてきたのだ。
戸惑っていると、今度は背中に衝撃を受けた。
急いで振り返って、バレットを撃つが、もう怪獣は地面の下に隠れてしまっていた。
と、今度は左から、糸の塊が飛んできた。
何とか腕で防御できたけど、反撃のバレットはやっぱり遅かった。
ますい、まずい。
どっから攻撃されるか、分かんない。
三つ首の怪獣の時のように、探知できないかとおもって地面をあちこちみてみたけど、どこも同じような色で、上手く行かない。
ガツン
と、まともに顔面に糸の塊があたり、わたしは痛みにうめいた。
元の体だったら、鼻血でてるよ。これ……
このままだと、じり貧だ。いったん空に上がって仕切りなおす?
いや、駄目だ。相手の位置が分からなければ勝てない。
だとしたら……
「うがーー!」
私は地面に向かって、バレット無茶苦茶に打ち込み始めた。
『シア! 落ち着け。そんなことしても当たりはしない。
エネルギーを消耗するだけだ、やめるんだ。
それこそ相手の思うつぼだ』
オプティオンさんの警告が頭に聞こえてきたけど、私は構わずバレットをまき散らす。
どんどん、打ち込んでいる中、私の後方、やや右斜めのところが地面が微かに盛り上がった。
「そこ!」
私は振り返ると、めくれ上がりかけた地面に向かってバレット打ち込んだ。
グギャ
手ごたえあり!
私は、バレットにつけた糸をグイっと引っ張り、地面の下から怪獣を引きずり出した。
二つの丸い胴体に八つの脚ももつ怪獣。おそらくは暗黒波及体により怪獣化した蜘蛛なんだろう。
「そりゃ!」
力を込めて、蜘蛛を空中に放り投げる。もう地面には戻らせない。
「オプティマルバースト!」
空高く舞い上がった怪獣に向けて、必殺技を打ち込む。
まばゆい光を放ち、怪獣が爆散した。
『……見事だ。
しかし、よく、あいつの位置がわかったな』
『地面にばらまいたバレットよ。
むやみやたらにばらまいていたわけじゃないの。あのバレットで地面に網をかけたの。
それで地面の微妙な変化を察知したのよ』
『なるほど。シア……、君は、やはり……、いや。よくやった。
では、村人たちを助けよう』
その後、私は木につらされていた人たちを助け出した。その中にはチーノさんもいた。
村の人たちはみんなひどく衰弱していたけれど、幸い、死んだ人はいなかった。
オプティオンさんが言うには、今回の敵は、魔力を吸うタイプだったので奇跡的に最悪の結果はまぬかれたのだろう、と言っていた。
……本当にそう思う。
もしも捕食するタイプの怪獣だったら村人の大半はもう、帰らぬ人になっていた。
もしも、そんなことになっていたら、私はどうなっていただろうか。
『だから、言っただろう』
オプティオンさんの声が静かに頭に響いた。
『怪獣は冒険者たちでは対処できないんだ。
それができるのは、この世界では君しかいない。
だから怪獣に対しては君が戦うしか無いってことがわかったろう』
『分かりました。
分かりすぎるほど、分かりました。
今後は、怪獣に対して真面目に向き合います。
でも冒険者さんたちの生活を邪魔することもしませんので。
あと、私、受付嬢ですから。
そっちの仕事もきっちり責任を持ってやっていきます』
と、答えながら、私、本当にそんなことできるのかしら、と少し不安になった。
まあ、でも、とりあえずやるしかないんだろう。
おそらくは、これが私の日常なんだ。
ギルドの受付で、ちょっと鬱な気持ちになりつつ、そう思う、私だった。




