死ぬほどの後悔を
息をするだけで激しい痛みが走る。
そんな俺にそいつはゆっくりと近づいてきた。
立ち上がって戦う気力はもうなかったんだ。
俺とそいつの間にフワリとなにかが立ち塞がりった。
般若面を被った真っ赤な武者鎧だ。
両手には大刀が握られている。
それはチーノが使い魔だった。
ヤツの国の言葉で言うと式っていうらしいが、それが魔物に向かって切りかかった。
「に……ろ」
見上げとすぐ上にチーノがぶら下がっていた。
「逃げ……ろ。逃げて、助けを呼んできてくれ」
チーノの奴が俺を助けてくれたんだ。
「逃げろって言われても、左手に……」
糸が絡まって逃げれない、と言うことして左手を見ると、小さな蟹がたくさん糸に纏わりついていた。
こいつもチーノの式なんだろう。
小さなハサミで懸命に糸を切ろうとしていた。
「長くは保たん……、急げ」
武者鎧へ目を向けると、片腕を噛みちぎられているところだった。
俺は糸に向かって短剣を振り下ろした。
「そして、なんとか糸を切った俺は、その場を逃げ出した。で、どうにかここまで辿り着いたってわけだ。
救援要請だ。チーノと村人たちを助けてくれ」
ペペロンさんの話にはみんな、息を殺して聞き入っていました。
みんながペペロンさんの話をどういう思いで聞いているかは分かりません。
おそらくは半信半疑。あるいは何を言っているのか理解できない人もいたかもしれません。
でも、私は分かりました。
みんなに気づかれないように外に出た。
手近な建物の影に入り、変身する。
一気に空へ舞い上がる。
そして、1点に向かって全速で飛ぶ。
目指すはペルツ村だ。
《シア……》
オプティオンさんが頭のから呼びかけてきた。でも、今は何も答えたくなかった。
ただ、1秒でも早く村へ着きたい。
《……》
《シア……、聞こえているか、シア!》
でも、オプティオンさんも諦めない。何度も話しかけてきた。
ああ、いい加減うるさい。
《聞こえるわ! 分かってる!
これは私の責任です》
そうだ。あの時オプティオンさんにも言われていたのに、私は……、仕事があるって言って帰ってしまった。
もしもあの時、帰らずにペルツ村に行っていたら、こんなことにはならなかった。
村人も!
ペペロンさんも!!
もしも、みんなに万が一のことがあったら……私、どうしたらいいの?!
取り返しのつかない想像に心底震え上がった。
それこそ死ぬほどの後悔。
《シアーシャ! しっかりしろ!!》
オプティオンさんの声に私は我に返った。
《私、私……どうしよう。みんなにもしものことがあったら……、全部、私のせいだ》
《落ち着くんだ。
冷静になれ。そんなんでは助けれるものを本当に助けられなくなる。
いいかい。さっきの話しでは村人は糸にぶら下げられていたと言っていた。
まだ助けられ余地はあるんだ。
だから、今はやれることに集中するんだ。
……いいね》
《……うん。わかった》
《ほうら、ついたぞ。
先ず、村外れの林に向かおう》
《了解》
私は空から村周辺を見回した。村の外れ、確かに白い繭のようなものがあった。
きっとアレが話に出てきた魔物……、いや怪獣の巣なんだろう。
《この体では少し大きすぎるな。
体を縮めよう》
《体を縮める?!
そ、そんなことはできるの?》
《当たり前だ。君らはできないのかい?》
また、オプティオンさんはさらっと凄いことを言っている。
《いや、無理、無理、大きさを変えるなんてS級の魔法使いにだってできません!
どうやれって?》
《うん? 成りたい大きさの自分を想像するだけだ。本来の大きさより大きくなるのはものすごくエネルギーを消耗するが小さくなる分には幾らでもだいぶ小さくなれるぞ。さすがに分子レベルと言われると難しいがね。
なんと言っても、そのぐらいになると量子力学的なふるまいになるからね》
なんかオプティオンさんがまたよくわからないこと言い始めてる。
分子とか量子力学とか、なに?
ま、今はそんなことはどうでも良くて目の前のできることをやりましょう。
えっと、思えば良いのよね。
小さくなれ、小さくなぁれ。だいたい人の大きさぐらい……っと。
うわ、なんか変な気分。ちょっとめまいが……
あっ! でも、体が縮んでいくよ。
すごっ!
あっという間にガンツさんと同じくらいの身長になった。本来の私よりずっと背が高い。ギルより高いってのがちょっと優越感。
……ま、それはそれとして、これでいいよね。
私はそのまま林に急降下する。
糸で覆われた林の天井を突き破り、地面に降り立った。
目の前には話に出てきた大木があった。
確かに木の枝にたくさんの人がぶら下げられていた。
《すぐに助けなくちゃ》
ぶら下げられている人のところへ駆け寄ろうとした。
その時、オプティオンさんが叫んだ。
《危ない!》
目の前の地面がめくれ、怪獣が姿を現した。




