野良依頼
「おっ。ようやく治癒が効いてきたようだぞ」
ソファに寝かせてペペロンさんの治癒の魔法を再開させたプルリラさんは呟きました。確かに腕の腫れや傷が癒えていきます。
やがてペペロンさんは意識を取り戻しました。
「一体なにがあったんだ?」
ガンツさんが尋ねました。ぺぺロンさんの周りにはいつの間にか野次馬と言う名のギルメンたちが集まってきていました。
冒険者は基本的に好奇心旺盛なのです。まあ、わたしも人のことは言えませんが……
「化け物だ。化け物に襲われた」
ペペロンさんの言葉にみんな首をかしげました。
「化け物って魔物のことか?」
皆を代表するようにガンツさんが聞きました。するとペペロンさんは首を横に振り、弱々しい声で答えました。その声は少し震えていました。怯えているのです。どんな恐ろしい魔物相手にも戦いを挑む冒険者でも恐怖に震えることがあるのをわたしは初めて見ました。
「俺たちはあの怪鳥の話を受けて村に行ったわけだ。それは全くの空振りに終わったわけなんだが、それがなんとも癪に触り俺はチーノと一緒になにが、その村でなにか仕事がないものか聞くことにしたんだ」
ペペロンさんはゆっくりと話を始めました。チーノと言うのはわたしたちギルドに所属する冒険者さんで良くペペロンさんとコンビを組んでいる人です。2人合わせてペペロンチーノと呼ばれています。
「あいにく平和な村で冒険者が必要な案件は例の怪鳥ぐらいしか無いって話だったんだ。そんで仕方ないから帰ろうかってなったところでその村の先にもう一つ村があるって話を聞いたんだ……」
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「行方不明? 村人が?」
「はい、ここから北に少し行くとペルツという名の村があるのですが、そこの村人が言ってました。
突然、村の中で人が行方不明になって捜していると」
「村の中で? 森とかで魔物に襲われたっていうのではなくて村の中で行方不明になったっていうのか?」
無駄足が嫌だったんで、俺はなにか良い仕事の種はないかとエント村での聞き込みをしたんだ。そしたら思いがけず隣村の話題がでてきたんだ。俄然乗り気で話を続けたね。
「いや、あっしも町に行く時に一緒になった時に聞いた話なんで詳しくは知らんのだがね。なんでも村の外れに住んでた婆さまが行方不明になったんで村総出で探してるって言う話でした。もしも見つからなかったら冒険者を雇って探してもらうかみたいなことも言ってたな」
「で、冒険者ギルドには登録したのであろうか?」
相棒のチーノ、本名は千野英心と言う東の島国出身の男、も興味を持ったのか途中から割り込んできた。 相変わらず変な喋りかただなって思うが、ま、これはこれで言わばこいつのトレードマークみたいなもんだ。
「さあ、どうだか。それが2、3日前の話でしたから、もう依頼してるか、解決してるかどっちなんでしょうねぇ……
そういやぁ、あれからペルツ村の人たちを見掛けないな」
村人に礼を言うと俺たちは今後の事について話し始めた。
「今朝のギルドの掲示板にそのような依頼はなかったでござる」
「ふーむ、ならもう解決しちまったか、それともこれから依頼がされるのかどちらかだな……
無駄足になるかもしれないがちっと行ってみるかい?」
北、ベルツ村へ続くと教えられた一本道を見やりながら俺はつぶやく。道はあいにくすぐに森に分け入っており先を見通すことはできなかった。
「それはその仕事があれば受けると言う事でござるか?」
「う〜ん、状況次第だな。
無駄かもしんねぇけど、どうせ無駄足ついでだ。このまま、手ぶらで帰るのもなんか癪だろ?」
「野良の依頼は危険でござるよ。なにかあった時に助けを期待できないでござろう」
「そりゃそうだが、逆の言い方をすればギルドを通せば俺たちの取り分が減るってことだ。そもそも、いなくなった婆さん探すのなんて迷子の猫探すのとそう変わらんと思うがな。
俺だっていつもならこんなのところまでチンケな依頼を受けるなんてしねぇけど、今回は来ちまったんだからちょっくら寄ってみてもバチは当たらんだろ?
上手くすりゃ、今日の手間賃ぐらいは稼げるかもしれん」
始め難色を示していたチーノだったが結局は俺の提案に乗っかってきた。俺たちはエント村で食料を調達すると意気揚々とペルツ村へと向かったんだ。
歩くこと約1時間。俺たちは特に何事もなくペルツ村に着いた。
ペルツ村もエント村と似たようなものだった。森を切り開き、家と畑を作って暮らしている、典型的な村だった。が、すぐに違和感に襲われた。
人がいないのだ。
「面妖……、でござるな」
「おう……」
チーノの呟きに俺も囁き声で答えた。冒険者としての警報がビンビン鳴り始めていた。
「どう思う?」
「日はまだ高いのに道を行く人の姿がまるでないというのは……はてさて、村人総出で野良仕事をしているのでありましょうか。あるいは祭りかなにかの準備とか」
「なるほど。
あり得ねぇ! とは言わねぇが、俺なら別の方に賭けるな」
「別の方とは?」
チーノの質問に俺は答えなかった。あるのはヤバい案件に首を突っ込んじまったかも、という後悔の念だった。このまま、回れ右して帰りたい気分だったが、知っちまった以上、放置はできねぇ。冒険者の辛いところだ。
「飛ばすでござるか?」
チーノが言った。手には1片の紙が握られている。チーノはいわゆる召喚師なんだが魔法陣ではなく呪符を使う珍しいタイプのサモナーだった。奴さんの国ではオンチョージ……、いや、オンミョージだったか、とにかくそう呼ばれてるらしい。
「いや、お前さんは文字通り切り札だからよ。今は止めとこう。
斥候はレンジャーたる俺の領分だ。任せな」
俺は腰のナイフを手に近くの家に向かった。




