そんなはずではなかったのに
「どこ行っていたんだ!」
ギルドのドアを開けた途端、怒声に迎えられた。見ると受付でギングルさんが仁王立ちして睨んでいた。まるで茹で上がったタコのようだ。
「ほうら、サッサッと受付をしてくれ」
「あっ、すみません。只今」
《ほうら、怒られた》
と、オプティオンさんに愚痴ってみたけど、返事はなかった。
「えっと、サルハ湖沼付近の調査ですね。
最近この辺でゴブリンの目撃情報があるので、その実態調査が依頼になります。
ランクは調査なのでDです」
「おうよ。で、実際にゴブリンがいたら討伐していいんだよな」
「はい、状況に応じて判断いただければよいです。そのまま討伐依頼に移行して構いません。
ですがゴブリンは知能があり、群れる習性がありますから難度は場合によってはBクラスに達することもありますから判断はくれぐれも慎重にお願いしますね」
「分かってるよ、それぐらい。何年冒険者やってると思ってんだ?!」
「す、すみません。で、ではここにサインしてください」
ギングルさんって、わたしに当たり強いんだよね。なにか気に障ることしたかしら?
ま、それはそれとして、依頼書を確認してっと……あれ?
「あの……すみません。パティーメンバーの記載をお願いします」
「あん? いつものメンバーだよ。そっちで書いておいてくれよ」
「いえ、困ります。これは契約書でもあるのですのでギングルさんの方で書いてもらわないといけません」
「知ってるよ。だけどライラちゃんならちゃんとだまって書いてくれるぜ。あんたも見習いなよ」
ライラさんかぁ
あの人また勝手にそういうことする
ライラさんは先輩受付嬢。美人さんでナイスバディ。愛想も良いので冒険者さんたちの人気が高い。それに比べてわたしは子供体型の地味顔で規則に小うるさい。正反対だ。
「いえ、だめです。これは規則ですので。
少なくともパーティリーダーの直筆で参加メンバー全員の名前を過不足なく書いてください」
「……なんだよ。相変わらずめんどくさい姐ちゃんだなぁ」
どうせわたしは面倒臭い奴です
でも、これは……
「おおい! 全員注目してくれ!!」
ギルド中に響き渡る大声がした。
その場に居た全ての人がその声の主へと目を向けた。そこにはギルマスのガンツさんがいた。その横に例のエント村の人が立っていた。
「緊急の依頼案件だ。大物の魔物退治。クラスはB以上。本来はAかもしれん。なのでBクラスの複数パーティでの応募だ」
ガンツさんの言葉にギルド内でざわめきが起こった。本来Aクラスの依頼なんて滅多にない。危険も大きいけど報酬も破格になる。例え複数パーティでの山分けでも1月ぐらいは遊んで暮らせる報酬になる。冒険者さんたちが色めき立つのも無理はない。
エント村の人を見る。いたって質素な身なりだ。空からチラッとみただけだけどエント村もそんなに大きな村にも裕福そうにも見えなかった。そんな報酬が払えるのか疑問だった。
「依頼者はあんたの横にいる人かい?」
冒険者さんから質問が飛んだ。
B級冒険者のコルビットさんだ。コルビットさんは言葉を続けた。
「失礼な言い方だが、本当にそんなに気前よく報酬が払えるのか?」
「も、勿論。退治さえしてくれれば村としてはお払いします」
その男の人は少し緊張しながらもはっきり答えた。
「エルドアンさんはエント村の代表として依頼してきた。報酬はギルドとしても保証する。
さあ、やる気のある奴は依頼してくれ。直ぐにでも出発したい。
シア!」
「はっ、はい!?」
び、びっくりした。突然名前を呼ばれたので返事の声が裏返っちゃった。
「直ぐに依頼書を作ってくれ。簡易でいい。内容はBクラスの魔物退治。魔物の種類はロック鳥。応募クラスはBクラス以上。複数応募可。
後の細かな条件はそこのエルドランさんから聞いてくれ。
場所はエント村だ。馬車の手配はギルドの方でする。
じゃあ、シア、依頼書を作ったら直ぐにクエスト応募をしてくれ。
俺は馬車の手配をしてくる。メンバーが8人以上集まったら応募は一旦打ち切って出発だ。
滅多にない大仕事だ。早い者勝ちだぞ、野郎ども。気張れよ!」
おうっ! と言う掛け声がギルドのどこと言わずに聞こえてきた。
「さ、さあ、お嬢さん。依頼書とやらを直ぐに作ってください」
エルドアンさんの村を救う期待の目と、クエストを応募を虎視眈々と狙う冒険者さんたちの目に囲まれて、わたしは内心白目を剥く。
だって、この魔物はもうわたしが倒しちゃってるんだもの。みんなガッカリするだろうなぁ~。
そんなはずではなかったのにぃ~!!




