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戦士の自覚

 今、私は山の頂よりも高いところをものすごい勢いで飛んでいた。

 飛行術、それはA級の魔法使いが行使する超高度な魔法だ。いや、このスピードはS級の超飛行に匹敵するかもしれない。


《どうしたシア、気分が悪いのか?》


 頭の中で男の人の声が響く。オプティオンの声だ。


《いえ、ちょっと感動しただけ。こんな魔法が使えるなんて思っていなかったから……》


 私も頭の中で答える。オプティオンとは脳内会話で意思の伝達ができるのだ。


《これは魔法ではなく思念で重力場を操作することによるものなんだ。いったん自分にかかる重力をすべて遮断して、今度は行きたい方向の重力のみがかかるようにするんだ。重力は遠隔力なので宇宙のすべての重力がわたしたちの体に干渉しているからね。その気になれば一気に光速にまでできないことはないのだけれど、地上付近ではソニックブームが発生するからマッハ10ぐらいで抑えているよ。はっはっはっ》


 なんか、また聞きなれない単語が頻出するよくわからない会話が始まったので、適当に流しておくことにした。最近、こういうのにも慣れてきた。要は心を無にすれば良いことに気づいたのだ。無だ!


《……シア、シア? 聞いているかね?》

《ええ、聞いている。わー、すごいのね(棒)》


 少し小高い丘を越えると四方を山に囲まれます盆地のような所に出た。何軒かの家と畑が見えた。どうやらエント村の着いたようだった。


《ほんとだ。本当に1分もかからずにエント村に着いちゃった》


 オプティオンさんに20秒ぐらいで着くと言われたけれど本当だった。


《それで、魔物はどこかしら……》


 周囲の空を見回してみる。話では金色の首が3つある竜と言う話だったけれど、青い空に転々と白い雲が浮かぶだけでそれらしい魔物の姿は見えなかった。


《魔物ではない。暗黒波及存在、通称怪獣だ》

《私には未だに魔物と怪獣の違いが分からないわ》

 

 オプティオンさんが言うには暗黒波及存在の破片が私たちの世界の生き物などに取り憑いて狂暴な怪物になるらしいのだけれど、それって結局魔物ってことじゃないのかと思うわけ。


《魔物は君たちが魔力と呼ぶ力でできた疑似生命体。一方怪獣は暗黒波及存在がなんらかの生き物に取り憑いて、さらに魔力を取り込んで怪物化した存在だ》

《……おんなじものじゃない?》

《いやいや、全然真逆だよ。魔物は魔力の塊だから、魔力をぶつけてやれば変質、つまり壊れるけれど、怪物は魔力をぶつけても吸収してより強くなってしまうんだ》


 だから、魔力を力の源としている魔法や技では怪獣を倒すことはできないとのことだった。ま、私は未だに半信半疑なんだけどね。

 それに、今は怪獣を見つけて倒すことが先決なのだ。


『う~ん、見当たらない』


 そりゃそうだ。いくら怪獣だって日長一日空を飛んでもいないだろう。


『どこかで寝てるのかしら』

『かもしれない。聞くことに集中してみたまえ』

『あー、それね。ヤダ』


 耳に神経を集中すると異常に聴覚が良くなるのだ。オプティオンさんに言わせると1キロ先で針の落ちる音が聞き取れるとって話。なにそれ、怖いって思いつつ、やってみたら周囲の生活音がドラゴンの咆哮、ま、そんなS級魔物の咆哮なんて聞いたことないんだけれど、とにかくそんな感じで頭がガンガンしたのでやりたくないのだ。


『っな! 何を言っているんだ』

『だって、あれ頭が痛いもん。やりたくない』

『シア、君は『光の楽園』の戦士の自覚をもう少し持つべきだよ』

『別に私、『光の楽園』の戦士になったつもりはないですから。

ただの冒険者ギルドの受付けですから。

そりゃ、冒険者になって冒険して魔物と戦ったりしたいけど、これなんか違うく思うわけ。

この姿見てよ! 

銀色ののっぺりした肌とか、真ん丸で光る目とか、まるで自分が魔物になったみたいじゃない!

これは私の思い描く冒険者では断じてないわけ』

『しかし、シアもみんなのために戦うと承知したではないか』

『承知はしたわ! したからここまで来たんじゃない。でも、それと頭が痛くなるのは別よ』

『いや、だから平和を守る戦士としては……』

『イヤなものはイヤなの!』


 本当にあの辛さは体験したものにしか分からないんだから。


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