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冬の章・10話

なろうに入れなくなって早1年近く・・・漸くパスワード思い出したのと、まだ待っててくださる方がいらっしゃるならと、久々投稿です。


・・・シュレイアには、当主とその座に近い者しか読めない資料が存在する


初めてソレをセルゲイから渡され読んだときレインは、嬉しいような泣きたくなるような、そんな複雑な気持ちになったことを、今でも鮮明に覚えている・・・








真冬のシュレイアは雪に閉ざされる事が多いのだが、今日という日は運が良いのか晴れていて積もった雪に太陽の光が反射してキラキラとまぶしい




窓に手を当て、部屋の中にまで聞こえる外のざわめきに、緊張のためにか柄にもなくソワソワとしているレインだったが、扉が開く音に振り返った


そこには予想通りの2人が、白がベースの軍服のような衣装に水色の裏地のマントを身に纏って立っていた


「レイン、大叔父様が到着したわ。一族、賓客の準備は整ったわ」


「黒龍様、赤龍様もすでに準備は出来ているそうだよ」


当主交代の儀の為に誂えた特殊な、やはり軍服のような真っ白の上下に裏地まで白いマントを身に纏ったレインは、キリクとアリアの言葉にそう、いよいよねぇ、と微笑んだ


「いよいよだな」


「楽しみね」


にやりと笑うキリク、アリアに本当に楽しみね、ともう一度窓の外を見てからバサリとマントを翻し部屋を順に後にした












「おーい、クリス、そろそろ時間だ!!」



「兄様!もうそんな時間ですか」



「おう。今日は鍛錬は控えろって言ったろう?」



汗をぬぐったクリスから鍛錬用の剣を受け取ったアーノルドは、困ったやつだと笑う



「今日だからこそ、居ても立ってもいられなかったのです」



へにゃりと笑うクリスに、ああ、まあそうだな、と頷いて見せた



「かくいう俺も、先ほどまでは鍛錬していたさ。


だが、着替える時間はもっと考慮すべきだろう?


今からだと身体を拭くくらいしか出来ない」



「あ」



「全く、汗臭いまま式に出る気か?急いで支度しなさい」



「はい!!」



雪に足を取られながら着替えに行くクリスを眩しそうに見送ったアーノルドは、そのまま大きく伸びをした




気持ちの良い朝だ、希望に満ちた朝だ・・・



「いよいよ姉上様が、当主か」



優しくて、穏やかで、賢くて、無鉄砲な色々矛盾した大事な姉



「・・・さて、俺はどこの国に行こうか」



当主が交代すれば、余計な諍いが起こらないようにある程度の年齢に達したら国を出る



年少のマリアとクリスは暫く残るだろうし、フェリシアはあと2年もすれば結婚するだろう



アリアとキリクはレインの補佐をする為に残るが、自分たちはすぐにでも出ることになる



長い旅になるかもしれないなぁ、とぼんやり思いながらも不安より楽しみが勝るのはシュレイア家の血筋だな、と1人納得して冬の晴れ間の青い空を見上げた









「マリア、準備は整って・・・て、全然準備出来てないじゃない」



「フェリシア姉様!この子、急に産気付いちゃったの!」



「あらあら・・・大変だわ」



こんな日でも厩舎に通う妹を困った子だと迎えに来たフェリシアだったが、産気付き、気が立っている愛馬の周りを焦りながらちょろちょろしているマリアに、あら!と声を上げる



「誰か、影の子居る?」



「・・・何事ですカ?あら!」



「お願い、スティーブ兄様を呼んできてちょうだい」



「承知」



影の中に溶けるように消えた自分付きの護衛役を見送って息を吐く






「・・・ふふ、おめでたい事が続くわね、マリア」



「!!はい!姉様!」



大きく頷くマリアに、私たちは交代の儀に出席が出来ないと伝えてくるわぁ、とフェリシアは笑って厩舎を出て行く



入れ違いで厩舎に駆け込んできたスティーブは既に白衣を着ている



「全く、何度も言うけれど僕は動物は専門じゃないんだからね!!」



「兄様!お願い!!助けて!!」



「あー!!!!もうっっ!!」



白衣の袖をまくり上げたスティーブに、マリアは目を輝かせる



人間専門だという兄が、動物も、亜人達も看る修行を重ねていることはシュレイア家周知の事実だ



そんな兄が居て、安心すれど不安はない



「もう大丈夫よ」



元気な赤ちゃん産もうね、と愛馬を撫でて微笑んだ










「何?スティーブ、フェリシア、マリア欠席?!」



「あらあら。馬が産気付いちゃったのねぇ。


ソレじゃあ仕方ないわ」



「母上!!のほほんとしている場合ですか!



どうされるんです?3人分の空席は目立ちますよ」



「イライラしちゃあ駄目よ、サディク。



そうねぇ、でも仕方ないわね。3人は一身上の都合で欠席にしましょ。


席をとっぱらっちゃったら分からないと思うのよ」



「わかりますからね?!」



サディクの突っ込みもスルーして、フェリスはのほほんと笑う



「大丈夫よぅ。主役がいなければ問題ですけど、主役の2人はいるんだし」



「ああ、もう!」



三つ子の中で研究馬鹿だと称される自分だが、そんな自分の方がほかの2人より絶対マシだと拳を握る



「それにしても、サディク、せっかくなんだもの。不精髭は剃っておかない?」



「え・・・っ剃り忘れました!!」



ダッと慌てて洗面所に走るサディクに、フェリスは慌てん坊ね、とのんびり笑った



「やあ、フェリス。準備はどうだい?」



「私は準備万端ですわ、あなた。


ふふ、その衣装を見るのも今日で最後なのねぇ」



入れ違いに入室したのはレインと同じ、全身真っ白の衣装に身を包んだセルゲイは、うん、と晴れやかな表情で微笑んだ




「父から受け継いだ領主位・・・どうなることか、と思ったことは数知れなかったよ。



けれど子供達は何処へ出しても恥ずかしくないし、領民の生活も少しは良くすることが出来たんじゃないかな、と思う。たくさん友人も出来たしね。



すべて、君がいてくれたからだよ。ありがとう」



すっ、とフェリスの手を取り、流れるように傅いたセルゲイはその手の甲に口付けを落とす



「私の愛しい人、どうか残りの人生も私と共に生きてほしい。



どんな楽しいところへ行ったって、どんな魅力的な友人が出来ても、君がいなければまるで意味が無い。



君が私の傍に居てくれるからこそ、私の毎日は溢れんばかりの幸福で満たされるんだ。



君がいなければ世界はあっという間に褪せてしまう。



君の笑顔をどうかこの先も一等良いところで守らせてほしい」




真面目な表情で、心を込めたそのセルゲイの言葉に、フェリスはほんのり頬を染めてええ、と少女の頃と変わらない表情で嬉しそうに頷いた。



「セルゲイ、私のただ1人の旦那様。


貴方が許して下さるなら、ずっと傍に居させて下さいませ。



貴方のお側が良いの」



「ありがとう、愛おしい人。



さあ、あと少し頑張るよ」



「ええ、ええ。長い間のお勤めも、もうじきです。



あの子なら、レインなら、きっと今以上に明るい未来へ領地を導くことでしょう。安心ですわね、旦那様」



「ああ。レインならきっと。




覚えているかい?あの子が初めて僕らに心の内を打ち明けてくれた日のことを。



僕はね、きっと一生忘れることが出来ない。



弱みを見せないあの子が、初めて僕らに心を開いてくれた瞬間だったし・・・なにより、彼女の存在がシュレイア家の祖とのつながりを感じさせてくれたからね」



瞼を閉じれば思い出す、小さな娘の不安な表情



あれからどれほど月日が経ったろうか



小さな娘は素敵な淑女…ちょっとお転婆が過ぎるが…になった



「そうですねぇ。ふふ、今後がますます楽しみですわねぇ」



「うん、楽しみだ」








「ああ、とうとうあの子が領主になるんだな」













「いやぁ、我等の両親は何時までも仲睦まじく良いねぇ」



「おかげで、部屋に入れないけどね。まあ両親の仲が良いことは何よりだけど」



「ふふ。素敵ねぇ」



部屋の外で、中の様子をうかがっていたキリク達は笑いながら扉に背を向け別室に向かう



もちろん、控えていた影に誰にも両親の仲を邪魔させないよう見張りをお願いして




「それにしても、レインは気負っている様子が相変わらずないなぁ」



「あら、そうでもないわ。さすがに、いよいよかと思うと緊張しているもの」



緊張している様子は欠片も見せないレインは普段通りゆるりと笑う




「緊張しているのよ?でもね、ふふ」



レインの言葉に不思議そうな顔をしているキリクとアリア、2人を見て窓の外の賑やかな様子を見て目を細める




「兄様と姉様がいて、家族がいて、今日までに応援して、お祝いしてくれた一族の者達がいて、優しくて頼りになる領民達がいて不安を感じるなんて申し訳ないわ。



私、本当に恵まれてるな、って・・・ずうっと思って生きてきたのよ」



転生したことに対する驚きと異文化に対する戸惑いに溢れていた赤子時代も、レイン・シュレイアで生きていく為にはイロイロ利用しようと開き直り、力をつけるために努力した幼少期も、本格的に治領について学び、多くの人や文化に触れた青年期も




何時だって、レインを認め、困っていたら手を貸し、絶大の信頼を寄せてくれた存在達



どれほどレインの心を救ったか、きっと誰も知らないのだ





「だから私は緊張はしているけれど、楽しみでもあるのよ。



今日から私はこのエーティス東端のシュレイアを守る領主。精一杯勤めるわ」










交代の儀の会場では、そわそわと落ち着かないのはシュレイア家のみならず招待客も同じようで、セルゲイとレイン、2人の門出を祝う為に、また、その晴れ姿を楽しみにしている大国の王達、周辺国の王やそれに連なる者、世界中に散っているシュレイア一族等は同じ一族なのに滅多に顔を合わせないからか既に再会を慶び話し込んでいる一団もいる





「落ち着かれませ、陛下」



「可愛いレインのハレノヒじゃぞ?これが落ち着いてられるかい」



「魔王の威厳はどこに捨ててきたのですか」



ソワソワとした雰囲気ぐ魔力に現れるクラウスにウェルチとフェルトは溜息を吐く



「懐かしの姿や珍しい姿が多いな」



会場を見渡せば、見知った大国の主人達のみならず、普段は自国に引きこもっているような亜人達の長も緊張しつつもどこか楽しそうに時を待っている



「まこと、期待の高まる交代というわけじゃ」



「セルゲイも中々優秀であったが、レインとは比べられぬからねぇ」



「そりゃあのう」



ツユリが音もなく現れるが、頓着することなくクラウスは頷く



「レインの優秀さは、ある種、セルゲイのソレとは種類が違う。



2人とも生きてきた年数を考えればキレ者には違いないが、な」



「懐深く、身分に頓着しないのは親子だけどねぇ」



「それに関しては、親子であり一族の性質でありましょう」



劉も加われば、最も豪華な一団である・・・目立つともいう



「先程耳にしたところによると、鳴国のキレ者、梁領主にも気に入られている者や、異種族異人を嫌うパメロの女帝に気に入られている者もいるとか。



相変わらず凄まじい交友関係だと思いませんか」



「梁といえば、金剛石の一大採掘場を持つ変人領主ではなかったか」



「キレ者ですよ。彼の方は。


鳴国の国王のアドバイザーでもある。


彼の方が止めたから、鳴国は影の民を追うのを止め、結果、あの国は国として現存しているのですから」




もう1つの国は、無くなりましたからね。と、劉は微笑んだ





「さて、そろそろ席に戻りますか」



「刻限かぇ?」



「みたいです」











赤龍と黒龍もまたソワソワと落ち着かない様子であった…



正確には、落ち着かない様子なのは赤龍のみで黒龍は、あの赤子が領主か、と感慨深そうにしているのだが



「そういえば赤龍、祝いの品は渡したのか?」



「…あ、あ。先日親書とともに送った」



「そうかそうか。結局何を送ったのか、など、不粋な事を聞くのはやめておこう」



微笑ましいとばかりに生温い視線を送る黒龍に、照れてそっぽを向いた赤龍はざわめく周囲にそろそろか、と姿勢を正す。



列席者の視線は一箇所に集まり、用意された壇上の脇にレインとセルゲイ以外が立つ。



いずれも、真白い衣装に女も男も帯剣している



「交代の儀とは初めて出るが、皆帯剣するのだな」



「赤龍、どこの領地も誰も彼も帯剣すると思うなよ」



「違うのか?」



「武を誇る家でも中々無い事だ。



交代の儀は各家の特徴がある。というか衣装も含め特徴しかない。



後日、隣の領の儀に参加した感想を聞いてみると良い。


ちなみに、セルゲイの時もその前も、シュレイア一族の交代の儀は全員帯剣する」



「帯剣するのは理由があるのだろう…?」



「当然な。



シュレイア一族は全員、老若男女問わず戦える一族だ。



全員手段の一つ手習いの一つで武術を習う。



まあ、バルクスも習うだろうが、シュレイア一族ほどではある意味無いな」



「?」



「シュレイア一族が帯剣するのが正装なのは、その剣で強さを知らしめる為じゃない。



武を誇る為じゃない。



いざという時、先頭に立って剣を抜き、領民を守る為に最後の1人となっても立つ事を証明する為に全員が帯剣しているのさ。



あの姿は、シュレイア家の覚悟だよ、赤龍」



「覚悟」



セルゲイの妻でありレイン達の母であるフェリスから、レイン達の末弟のクリスまで全員が身の丈にあった剣を帯剣している



それこそが、儀礼の為の飾りでないことを示していた












セルゲイと共に現れたレインは、セルゲイとは意匠の異なる衣装を身に纏い、やはり、帯剣して壇上に上がる




集まる視線に臆さず、笑う




自信に満ちた声で、溢れる覇気で、声高らかに






「私は歴代の領主、領民、各国の皆様、そして何より黄龍様をはじめとした八龍の皆様にこの命と名と誇りに掛けて誓いましょう。




この日この後より、シュレイアを全身全霊で護り慈しみ栄させることを」





歓声が上がった、祝福の声が上がった



レイン・シュレイア・・・領主兼当主の誕生である











寂しくはある、レインが遠くなってしまった気がして…



しかし、レインの細腕に連なる紅い輪を見て知らず知らず赤龍の頬は緩んでいたようで目敏い黒龍にニヤリと笑われてしまった




「装飾品にしたのか」



「ただの、装飾品ではない。



レインはよく危険な目にも遭うから呪いを込めたものだ。


我の鱗をベースにして守護の呪いを掛けている。



黄龍様に習った」



「なるほどな」



「危険な目に会って欲しくない。



欲しくないが、領主として立つ以上危険は付き物と聞いた。



なら、せめて少しでも護れるように」




精一杯の祈りを込めた贈り物は、たしかにレインに受け取って貰えた。と赤龍は安堵の息を吐いた




「なにかを贈るのに、これほど緊張するとは思わなかった」



「特別な相手への贈り物は、緊張するに決まっているさ。



自分で悩んで悩んで決めたなら特にな」





ふ、と笑う黒龍に、そのようだと赤龍は頷いた


黄龍への願いは呪の掛け方でした

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