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第六章 憧れのコンさん

 そして、僕は裏方へと運ばれた。またガラガラ……という振動が伝わってくる。

 そして。

「はははははッッ!!!!!」

 燕尾服の男は、裏方に到着するなり高らかに笑った。

「百億……!!まさか出るとはなアッ!!」

 どうやら余韻に浸っているようだ。

「過去に世界一の大きさのベニトアイトを出した時以来だから……五年ぶりかッ!」

「いやあッッ!!史上二回目の快挙ッ!!!」

 「よくやったぞッ!!私ッ!!」

 思いっきりガッツポーズを取る男。本気で心から喜んでいるようだ。

「このために大魔法サーカスを占領した甲斐があったなア……!!」

「!!」

 やっぱり。この男たちが犯人だった!!

 じゃあ。目的は。僕。ただ、それだけ。

 僕一人をさらうためだけに。

 何万人ものお客さんを巻き込み。

 トロンプくんの実家を占拠し。

 あんな楽しい場所を地獄みたいな空間へ変えてしまった。

「……ごめんなさい」

 思わず心の中で呟く。

 皆は悪くない。全部。僕が狙われたせいなんだ。トロンプくんのお兄さんたち。サーカス団の人たち。楽しみに来ていたお客さん。皆を巻き込んでしまった。胸が締め付けられる。そんな僕を見て、燕尾服の男はゆっくりとしゃがみ込んだ。檻越しに僕と目線を合わせる。その笑みは、どこまでも優しかった。だからこそ。余計に恐ろしかった。

「カゲエ……」

 男は静かに名前を呼ぶ。

「お前は、本当によくやったよ」

「……」

 何を言っているんだ、この人は。男は満足そうに頷いた。

「すべて、お前のお陰だ」

 そして、小さく笑う。

「いや」

「正確には——」

 男の口元がゆっくり歪む。

「お前と、ボスのお陰だな」

「!」

 兄さん。

 やっぱり。

 最初から兄さんまで利用するつもりだったんだ。

 その瞬間。

 男は右手をゆっくり持ち上げる。

 ブゥン……

 空中に淡い紫色の魔法陣が浮かび上がった。

 幾何学模様が幾重にも重なり、不気味な光を放っている。

「!」

 嫌な予感がした。

 次の瞬間。

 シュウウウウウ……

 魔法陣の中心から、白い煙がゆっくりと溢れ始める。

「(まずいッ!!)」

 あの煙。

 サーカス会場で皆を眠らせた煙だ。

 僕は慌てて息を止めようとする。

 口を閉じ。

 鼻を押さえようとした。

 だが。

 キィン——。

 拘束魔法が再び発動する。

「!!」

 顎が勝手に開く。鼻も。口も。

 まるで見えない誰かに無理やり押さえつけられたように、大きく開かれてしまう。

「(やめ――ッ!!)」

 必死にもがく。

 でも動けない。

 煙は容赦なく僕の顔を包み込んだ。

「(しまっ……!?)」

 大量の煙が肺へ流れ込む。

 一瞬で頭がぼんやりしていく。

 視界が揺れる。耳鳴りがする。手足に力が入らない。意識が、急速に沈んでいく。最後に見えたのは。燕尾服の男が満足そうに微笑む姿だった。

「ゆっくり眠るといい」

「お前の《本当の役目》は——これから始まるのだから」

 その声を最後に。

 僕の意識は、再び深い闇の中へと沈んでいった——


 ◇

 ——声が、聞こえる。

 遠く。

 どこか、とても遠くから。

 誰かが、僕を呼んでいる。

 ——くん。

 ——くん。

 ……誰だろう。

 ぼんやりとした意識の中で、その声だけが少しずつ近づいてくる。

 温かい声。

 優しくて、どこか慌てていて。

 でも、その声を聞いていると、不思議と安心できた。

 まるで、「もう大丈夫だ」と言われているような気がした。

 ——エくん。

 ——ゲエくん。

 ……ああ。

 この声。

 知ってる。

 何度も聞いてきた、大切な友達の声だ。

 そして——


「カゲエくんッッ!!!!!!」

「!!!」

 ガバッ!!

 勢いよく体を起こす。

 肺いっぱいに空気が流れ込み、意識が一気に現実へ引き戻された。

「……はぁ……っ、はぁ……!」

 息が荒い。

 夢……?

 いや、違う。辺りを見回す。そこには、真っ白でふかふかのシーツ。柔らかな枕。豪華な木製ベッド。どうやら僕はベッドに寝かされていたらしい。

 ……でも。

「……え?」

 手を動かそうとして気付く。

 カチャリ。

 冷たい金属音。

 僕の両手には、銀色の手錠が掛けられていた。

「……!」

 思わず目を見開く。逃げられないように拘束されている……!

 状況を整理しようとした、その時だった。

「カゲエくん!!」

「!」

 声のした方へ振り向く。

 すると——

「と、トロンプくんっ!? ミライ・ユくんまで!!」

 二人の姿が飛び込んできた。

 思わず胸が熱くなる。

 二人とも、生きていた。

 無事だった。

 それだけで、涙が出そうになる。

「カゲエくんッ!!ケガはないか!?どこか痛むところはない!?」

 ミライ・ユくんがベッドのすぐ横まで駆け寄る。

 その表情は、普段の冷静な彼とは思えないほど必死だった。

 トロンプくんも、

「大丈夫!?どこも痛くない!?変なことされてない!?」

 矢継ぎ早に質問してくる。

 二人とも、本気で僕を心配してくれていた。

 その優しさが嬉しくて、胸がじんわり温かくなる。

 すると突然。

 ミライ・ユくんが廊下へ向かって大声を張り上げた。

「コントラストニュアンス様ーーッ!!カゲエくん、目を覚ましましたッ!!」

 どうやら、誰かを呼んだらしい。

 それにしても——。

 僕は改めて部屋の中を見渡した。

 広い。とにかく広い。

 壁には金色の美しい装飾が施され、大理石の柱には繊細な彫刻が刻まれている。

 天井には巨大なシャンデリア。

 光を受けたクリスタルが七色に輝き、部屋中へ幻想的な光を散りばめていた。

 家具一つ一つも高級感にあふれ、とても捕虜を閉じ込めるような部屋には見えない。

 まるで王族の客室のような豪華さだった。

 ……でも。そんなことより。

「二人とも……無事だった……!」

 僕は思わず笑顔になった。

「二人こそ、ケガはない!?痛いところとかない!?」

 二人の姿を何度も確認する。

 傷はないか。

 ちゃんと立てているか。

 そればかりが気になった。

 すると。

「いや!?自分の心配もしなよ!?」

 トロンプくんが思わずツッコミを入れる。

「誘拐されて、手錠まで掛けられてるのカゲエくんなんだからさあ!!」

「はは……」

 ミライ・ユくんも呆れたように苦笑した。

「相変わらずだな、お前は……」

 二人は顔を見合わせ、小さく笑う。

 その笑顔を見て、僕もつられて笑ってしまった。

 こんな状況なのに。

 三人揃うだけで、少しだけ安心できる。

 すると、その時だった。

 部屋の隅に、青白い魔法陣がゆっくりと浮かび上がる。

 シュイイイイイイン……

 空気が静かに震えた。

 幻想的な光が部屋を包み込み、魔法陣の中心から一つの人影が現れる。

 ザッッ!!

 床へ静かに降り立ったその人物を見て、僕は思わず息を呑んだ。

 丸いシルクハット。

 帽子には美しいクリスタルが飾られ、光を受けて宝石のように輝いている。

 肩からは短いマントが揺れ、その立ち姿はまるで舞台に立つ紳士のようだった。

 そして。

 左胸には、見覚えのある紋章。

『VD』

 Venom Desireの証。

「Venom Desireの組員の人……!」

 思わず声が漏れる。

 するとミライ・ユくんが、小さく笑った。

「ただの組員じゃねえぞ……」

 その声には、はっきりとした敬意が込められていた。

 そして、トロンプくんが誇らしげに言う。

「この方はねえッ!!」

 二人は同時に背筋を伸ばえた。

「コントラストニュアンス様——」

「Venom Desireを支える、大幹部のお一人だッ!!」


「……大幹部……!!」

 思わず息をのむ。

 Venom Desireを支える最強戦力。

 兄さんのすぐ側で戦い続けている人たち。

 モノクロームさんやグラデーションさん、ゼーユ看護師長に続いて、また一人。

 そんな人物が、今、僕の目の前に立っている。

「そんな人が……僕を、助けてくれた……?」

 思わずそう呟くと。

 コントラストニュアンスさんは、柔らかく微笑んだ。

「……初めまして。カゲエご令弟」

 その声は落ち着いていて、とても穏やかだった。

 慌てる様子も、威圧する様子もない。

 まるで昔から知り合いだったかのような、安心感のある声色。

「私の名はコントラストニュアンス」

 一歩下がり。

 胸に手を添えながら、実に上品な一礼を見せる。

「以後、お見知りおきを。」

 その動作はあまりにも洗練されていて、まるで貴族のようだった。

「は、はいっ!!」

 僕も慌てて頭を下げる。

「こちらこそ、よろしくお願いします!!」

 勢いよく頭を下げたせいで、少し前髪が乱れてしまう。

 その様子を見て、コントラストニュアンスさんは小さく笑った。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。君は命の恩人なのだから」

「え……?」

 思わず顔を上げる。

 すると、コントラストニュアンスさんは静かに説明を始めた。

「今回の件は、ゼーユさんから直接連絡を受けた」

 その表情が少しだけ真剣になる。

「『カゲエくんたちが遊びに行ったサーカスに敵襲。カゲエくんが攫われた。敵は闇人間オークションの主催者』」

 部屋の空気が少し張り詰める。

 トロンプくんもミライ・ユくんも真剣な顔で話を聞いていた。

「そして最後に、こう言われた」

 コントラストニュアンスさんは少し笑いながら続ける。

「『コントラストニュアンスくん……あとは任せたよ』」

 肩をすくめる。

「ゼーユさんにそう言われてしまっては、協力しないわけにはいかない」

 そして。優しい目で僕を見る。

「それに——」

 一歩。また一歩。

 コツ。コツ。

 革靴の音だけが静かな部屋に響く。

「カゲエくん。君は以前、私を絵の中へ匿ってくれたね」

「!」

 あの時のことだ。

 敵から逃れるため、僕は《メイドインキャンバス》で皆を絵の中へ避難させた。

 その中に、この人もいたんだ。

「あの時、私は思った」

「いつか必ず、この恩は返そう、と」

 コントラストニュアンスさんは静かに微笑む。

「君は自分の身を危険にさらしてまで、我々を守ろうとしてくれた」

「本当にありがとう」

「い、いえいえ!!」

 僕はぶんぶんと首を横に振った。

「僕は皆さんを守りたかっただけですから!!」

「当然のことをしただけです!」

 すると。

 コントラストニュアンスさんは少しだけ目を細めた。

「……だからこそだ」

「その当然を、誰もが出来るわけではない」

「……!」

 胸が少し熱くなる。

 Venom Desireの大幹部。

 そんなすごい人に認めてもらえるなんて。

 なんだか夢みたいだった。

 ふと横を見る。

 ミライ・ユくんは腕を組みながら、

「……さすがカゲエだ」

 と少し誇らしげに笑っている。

 トロンプくんも、

「えへへ~!僕なんか嬉しくなっちゃった!」

 とニコニコしていた。

 なんだか三人とも照れくさくなってしまう。

 そして。

「さて」

 次の瞬間。シュッ。

 何もなかった空間から、コントラストニュアンスさんの手に一束の札束が現れる。

「えっ!?」

 まるで手品だった。

 いや、本当に何もないところから突然出てきたのだ。

 あまりにも自然すぎて、一瞬何が起こったのか分からなかった。

「す、すごい……!」

「トロンプくんがこの前やってくれたマジックみたい……!」

 トロンプくんも目を丸くする。

 ミライ・ユくんまで驚いていた。

「……?」

 僕は首をかしげる。

「なんですか、そのお金……?」

「まあ」

 コントラストニュアンスさんは余裕の笑みを浮かべた。

「少し待ちたまえ。」

 そう言って札束を軽く指で弾く。

 パチン。

 すると。

 札束全体が黄金色の光に包まれた。

「わあっ……!」

 紙幣が一枚、また一枚と光の粒になって舞い上がる。

 まるで蝶が空へ飛び立つように。

 光の粒はゆっくりと集まり、一つの形を作っていく。

 やがて、その光が収まると——

 そこには、一つの美しい銀色の鍵が握られていた。

「鍵……!」

 コントラストニュアンスさんは静かに、その鍵を手錠へ差し込む。

 カチリ。

 小気味よい音が響く。

 そして。

 ガチャン。

 僕の両手を拘束していた手錠は、まるで最初から存在しなかったかのように、静かに外れたのだった。

「おお……!!」

 ガチャン、と音を立てて手錠が床へ落ちる。

 僕は恐る恐る両手を動かしてみた。

 自由に動く。握って、開いて。腕を回してみても、もう何の抵抗もない。

「ありがとうございますっ!!」

 思わず勢いよく頭を下げる。

 拘束されていた緊張が一気に解け、胸の奥から安堵が込み上げてきた。

「やっと自由になれた……!」

 手首をさすりながら深呼吸する。

 その様子を見て、ミライ・ユくんも安心したように小さく息を吐いた。

「よかった……」

「本当に外れたねぇ!」

 トロンプくんも自分のことのように嬉しそうだ。

 僕は改めてコントラストニュアンスさんを見る。

「あの……。」

「?」

「これが……コントラストニュアンスさんの魔法能力なんですか……?」

 恐る恐る尋ねる。

 するとコントラストニュアンスさんは腕を組み、少しだけ考え込んだ。

「……ふむ」

 数秒の沈黙。

「まあ」

 静かに口を開く。

「君たちになら知られても困らないか。」

 少し笑う。

「……なんなら、トロンプには昔から知られていることだしな」

「え?」

 思わずトロンプくんを見る。

 すると。

「……にひひっ♪」

 トロンプくんは悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべていた。

「実はねぇ~!」

 勢いよく前へ飛び出す。

「コントラストニュアンス様……いや!」

 途中で首を振る。

「コンさんの魔法能力はねぇ!!」

 名前を言い直した。

 その呼び方があまりにも自然だったので、僕とミライ・ユくんは同時に目を丸くする。

「コンさん!?」

「そんな呼び方していいの!?」

「もちろん!」

 トロンプくんは胸を張る。

「コンさんの能力はね!」

 ビシッ!

 人差し指を立てる。

「いくらでもお金を生み出せる、最強無敵の魔法能力なんだッ!!」

「!!」

 僕もミライ・ユくんも同時に固まった。

「……え?」

「しかも!」

 トロンプくんのテンションは止まらない。

「生み出したそのお金を使って!」

「どんな物でも!どんな現象でも!どんな概念でも!」

 大きく両手を広げる。

「《購入》できちゃうんだッ!!」

「購入……?」

「そう!」

「時間でも!魔法でも!能力でも!契約でも!」

「価値さえ存在するなら、何だって買えるんだよ!!」

「いくつか制限や流石に買えないものもあるけどねえ」

「……」

 僕はしばらく言葉が出なかった。

 いや。

 何それ。

「す、すごい……!!」

「そんなチートみたいな魔法能力、本当に存在するんですかッ!?」

 思わず叫んでしまう。

 モノクロームさん。

 グラデーションさん。

 ゼーユ看護師長。

 そして今度はコントラストニュアンスさん。

「相変わらず……大幹部っていう人たちは、全員チート能力じゃないですか……。」

 思わず遠い目になる。

 すると。ゴツン。

「痛ぁーーい!!」

 トロンプくんが頭を押さえた。

 コントラストニュアンスさんが軽く拳骨を落としたらしい。

「トロンプ」

 少し呆れたようにため息をつく。

「……お前、全部説明してしまうな」

「えへへ……」

 頭をさすりながら笑うトロンプくん。

「サービス精神だよぉ!」

「サービス精神で済ませるな」

「いたたたた……」

 二人のやり取りを見ていた僕は思わずミライ・ユくんを見る。

「……なんか」

「うん」

 ミライ・ユくんも同じことを考えていたようだ。

「仲良くない?」

「それ、俺もさっきから思ってた」

 さっきまでの堅苦しい雰囲気はどこへやら。

 コントラストニュアンスさんは全然噛まずに話しているし、トロンプくんも遠慮なく「コンさん」と呼んでいる。

 どう見ても初対面同士の距離感じゃない。

「!」

 するとトロンプくんが勢いよく振り向いた。

「コンさんはねぇ!」

 満面の笑みを浮かべる。

「うちのサーカスの支配人なんだーー!!」

「ええっ!?」

 僕とミライ・ユくんは同時に驚いた。

「支配人!?」

「そうそう!」

「僕が小さい頃からずーっと知ってるんだ!」

「へぇ……!」

 なるほど。

 それならこの距離感にも納得だ。

「どうりで仲がいいわけだ……」

 ミライ・ユくんもうなずく。

「それだけじゃないんだよ!」

 トロンプくんはさらに話を続ける。

「僕がサーカス辞めてVenom Desireに入った理由も!コンさんに憧れたからなんだッ!!」

「えっ!」

「そうだったの!?」

「うん!」

 照れくさそうに頭をかく。

「小さい頃からずーっと見ててさ」

「この人みたいになりたいって思ったんだ」

「だから必死で頑張った!」

「家族のみんなにはね」

 少し苦笑する。

「『トロンプなんかじゃコントラストニュアンスさんみたいな人に相手してもらえない』って反対されたんだけど……」

 ぐっと拳を握る。

「だから負けたくなかった!」

「いっぱい努力して!」

「いっぱい訓練して!」

「いっぱい失敗して!」

「最後にはボス直々にカゲエくんの護衛役へ指名されるところまで上り詰めてやったんだーーッ!!」

 胸を張るトロンプくん。

 その笑顔は、自信と誇りに満ちていた。

 すると。

 コントラストニュアンスさんが静かに口を開く。

「……まあ、そこは褒めてやろう」

「!!」

 トロンプくんの動きが止まる。

「……え」

 数秒固まったあと。

「今……」

「僕のこと……」

「『褒める』って言った……?」

 目がどんどん潤んでいく。

「……」

 コントラストニュアンスさんは少し照れくさそうに視線を逸らした。

「聞き間違いではない」

 その一言で十分だった。

「やったーーーーーーッ!!!!♪」

 トロンプくんは部屋中を飛び跳ね始める。

「コンさんに褒められたぁぁぁぁぁ!!」

「やったーーー!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 その喜びようは、以前新作のジャズのレコードを手に入れた時よりもずっと大きかった。

 まるで子どものように何度も飛び跳ね、満面の笑みを浮かべている。

 それほど、この一言が嬉しかったのだろう。

 その姿を見ていると、僕まで自然と笑顔になってしまう。

 憧れの人から認めてもらえる。

 それはきっと、どんな賞賛よりも嬉しいことなのだと、改めて思った。

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