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第十一章 どんどん自己紹介

 自己紹介は、まだまだ続いていく。

「ン……次は俺か」

 低く落ち着いた声が響く。

 一人の男性が、ゆっくりと椅子から立ち上がった。

「!」

 この人は初めて見る人だ。

 肩まで伸びた長い髪を後ろで一つに結び、どこか大人の余裕を感じさせる雰囲気をまとっている。

 そして何より目を引いたのは、その顔と髪だった。

 頬や額、首元に至るまで、小さな宝石やデコレーションシールのような美しい装飾が散りばめられている。

 キラキラと光を反射し、まるで一枚の芸術作品のよう。

 派手なのに、不思議といやらしさがない。

 むしろ洗練されていて、とても綺麗だった。

「(わあ……)」

 思わず見とれてしまう。

 その人は片手を軽く上げながら口を開いた。

「俺はアールデコ。Venom Desire全体の事務作業全般、そのリーダーを担当してる。」

 短く、それでいて堂々とした自己紹介。

「よろしく」

 少しだけ考え、

「好きなんは……ビール。」

 その一言で会議室が一瞬静かになる。

 そして。

「それ食べ物じゃなくて飲み物じゃないか」

 誰かが冷静にツッコんだ。

 一瞬遅れて、

「あははは!」

「確かに!」

「またそれ言ってる!」

 会議室中から笑い声が上がる。

「……うるせえ」

 アールデコさんは少しだけ頬をかきながら視線を逸らした。

 どうやら照れ隠しらしい。

 その様子が少し可愛くて、僕も思わず笑ってしまった。

 パチパチパチパチ……。

 温かい拍手が会議室へ響く。

 そして。

「ん」

「次は私か」

 聞き覚えのある声だった。

「!」

 コントラストニュアンスさんだ!

 相変わらずシルクハットを綺麗に被り、背筋を真っ直ぐ伸ばして立ち上がる姿は、とても上品だった。

「私はコントラストニュアンス。Venom Desireでは主に経営全般のリーダーを担当している。君たちとは、なかなか直接会う機会はないと思うが」

 少しだけ僕たちの方を見て、

「これからよろしく頼む」

 静かに一礼する。

「好きな飲み物はワインだ」

 その瞬間。

「よっ!!」

 誰よりも大きな拍手が響く。

「コンさーーーーん!!」

 トロンプくんだった。

 立ち上がりそうな勢いで両手をパチパチ叩いている。

「頑張ってーー!!」

「かっこいいーー!!」

「最高ーー!!」

 完全にファンだ。

 その様子を見た大幹部たちからクスクスと笑い声が漏れる。

「相変わらずだな」

「微笑ましいね」

「本当に懐いてるな」

 一方。

 肝心のコントラストニュアンスさんは。

「…………」

 無表情。

 いや。

 ほんの少しだけ眉がぴくっと動いた。

「(怒ってる……)」

 トロンプくんは全く気付いていない。

 ニコニコ笑顔で拍手を続けていた。

 そして。

「む。次は私か」

 今度は大きな黒い翼がゆっくりと広がる。

 翼が椅子へ当たらないよう慎重に身体を起こすその姿は、とても優雅だった。

「モノクロームさん!」

 思わず僕の口から名前が漏れる。

 モノクロームさんは軽く僕を見て、小さく頷いた。

「私の名前はモノクローム」

「現在は戦場観察班のリーダーを担当している。今日はよろしく頼む」

 一呼吸置いて。

「好きな食べ物は人間の血液」

「「「え゛」」」

 僕たち三人の声が見事に重なった。

 会議室も一瞬だけ静まり返る。

 背筋がゾワッとした。

「(やっぱり悪魔だから!?)」

 そんなことを考えた瞬間。

「ちょっとバカモノクローム!!」

 グラデーションさんが勢いよく立ち上がった。

「カゲエくんたちが怖がるくらい分かるでしょ!?」

「もっと他に言い方あるでしょうがッ!!」

「む……」

 モノクロームさんは少しだけ困った顔になる。

「……すまん」

 素直に謝った。

 すると僕たちも慌てて手を振る。

「い、いえいえ!!」

「だ、大丈夫です!」

「ちょっとびっくりしただけですから!」

 その様子を見て会議室からまた笑いが起こる。

「はいはい」

 ゼーユ看護師長が手を叩く。

「夫婦漫才はそこまでね」

「次、グラデーションさん」

「……あ、はーい♪」

 ふわり。

 春風のような優しい笑顔を浮かべる。

 グラデーションさんだ。

 その姿を見ただけで、どこか場の空気が柔らかくなる。

「私はグラデーション」

「レディース組員全体のリーダーを担当しているわ」

「今日はよろしくね」

 にっこり微笑む。

「あ、そうそう」

 何かを思い出したように僕たちを見る。

「三人に一つだけ伝えておきたいことがあるの」

 ゆっくりと目を開く。

「!」

 そこには。

 キアロくんとそっくりな、透き通るような青い瞳。

 宝石のように美しく。

 海よりも深く澄んだ瞳だった。

 思わず。

「……綺麗」

 心の声がそのまま口から漏れる。

「ふふっ♪ありがと」

 グラデーションさんは嬉しそうに笑った。

「私の信者にはね」

「この私と同じような、大きな青い瞳があるはずなの」

「だから、その人たちだけは」

 先ほどまでの柔らかな笑みが少しだけ真剣になる。

「何があっても」

「絶対に殺さないようにしてね」

 ——殺す。

 その単語が出た瞬間。

 会議室の空気が少しだけ張り詰めた。

「私の魔法能力が発動しちゃうから」

「その人を殺した相手はね」

「死ぬまで絶対に消えない幻聴が聞こえ続けるの」

「まあ」

 すぐにいつもの笑顔へ戻る。

「私が解除できるんだけど。いちいち現場まで行くの面倒だし♪」

 さらっと恐ろしいことを言う。

「(怖い……)」

「(やっぱり怖い能力だ……)」

 僕たち三人がそろって小さく震えていると。

「あ」

「好きな食べ物はパンでーす♪」

 最後だけいつもの明るい調子で付け加えた。

 そのギャップがすごい。

 すると。

「……まったく」

 隣から小さな声が聞こえる。

「面倒くさい魔法能力だな」

 モノクロームさんだった。

「はあ!?」

 グラデーションさんが勢いよく振り返る。

「今、面倒くさいって言った!?」

「事実を言っただけだ」

「なによそれーーッ!!」

「はいはいはい!」

 ゼーユ看護師長が苦笑しながら二人の間へ入る。

「二人とも、その辺まで」

「カゲエくんたちがまたびっくりしちゃうでしょ?」

「……む」

「……はーい」

 二人は少し不満そうにしながらも席へ座り直した。

 その様子を見て、会議室の皆は「また始まった」と言わんばかりに苦笑している。

 どうやら、このやり取りは大幹部たちにとっても、すっかり見慣れた日常らしい。

「……よし。自己紹介も終わったところで!」

 先程まで浮かべていた優しい笑顔が、少しずつ消えていく。

「早速……本題に入ろうか」

 その瞬間。

 空気が変わった。

 まるで、別の場所になったかのようだった。

 さっきまで。

「好きな食べ物は唐揚げだよー」

 なんて笑っていたゼーユ看護師長。

 モノクロームさんとグラデーションさんが、いつものように言い合いをして。

 トロンプくんがコントラストニュアンスさんに手を振って。

 皆が笑っていた、この場所。

 だけど今。

 そこにいる全員が、一瞬で表情を引き締めていた。

 巨大な机を囲む大幹部たち。

 それぞれが違う雰囲気を持っている。

 戦場を知る者。

 組織を支える者。

 命を救う者。

 情報を操る者。

 経営を動かす者。

 そんな、この世界でも限られた人たちが。

 今、同じ目的のために集まっている。

 僕は思わず背筋を伸ばした。

「……」

 隣を見る。

 ミライ・ユくんも、いつもの明るい表情ではなく、真剣な顔で前を見ている。

 トロンプくんも、さっきまでの楽しそうな笑顔は消えていた。

 ふざけているように見えることもあるけれど。

 この瞬間だけは。

 彼も、Venom Desireの一員なのだと感じた。

 ゴクリ。

 自分でも分かるくらい、大きく喉が鳴った。

 一体……。

 これから何を話すというのだろう。

 Venom Desireの未来に関わる話。

 ゼーユ看護師長がわざわざ僕たちを呼んだ理由。

 そして。ここにいる大幹部全員が集まった意味。

 僕にはまだ分からない。

 でも——。

 きっと。

 今から語られることは。

 僕の知らない、Venom Desireの大きな秘密に関わることなのだ。

「……」

 誰も声を出さない。

 全員が、ゼーユ看護師長の次の言葉を待っている。

 静寂が部屋を包む。

 そして。

 ゼーユ看護師長はゆっくりと口を開いた。

「今回、皆に集まってもらった理由は——」

 その声が、広い会議室に響き渡る。

「Venom Desireの……これからについて話すためだ」

 その一言で。

 僕は思わず息をのんだ。

 一体、どんな————

 秘密の内容なんだろう。

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