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水精少女ア  作者: クーラーつけたい
第一章 【始まり】
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第一章8「嘘の絡み合い」

 何が起きたのか?

 それを理解したせいなのか、呼吸が苦しい。

 痛みを感じない体になったというのに


 ーー空気が気持ち悪い


「はぁ…ふっ…は…っ…はぁ…」


 首?顔?頭?切られた?

 くっついてる?

 治った?


「ーーーぅ」


 おとが気持ち悪い

 かんかくが気持ち悪い

 しかいが気持ち悪い


「あれー? 意外とダメージあったッスか?」


 手のひらにはのうみそを掴んでいたような錯覚が残っている。

 胃が回ってる。


「ーーーヴ」


「見た目以上に効いてそうッスね?! 良かったッスよ〜負け戦じゃなくて」


 グロさのレベルが段違いだった。

 自分の体をミキサーに入れたかのようだ。

 トラウマすぎる。


「はぁ…はぁ……ぅ、」


 間違いなく、普通のノコギリなんかでできる芸当ではない。

 よく見れば、ハツの持っていた剣と同じように金色に輝いて見える。


 ーー頭がおかしくなるかと思った


 それにしても、ペーニャはどうしてここに?

 今朝、私を置いてグーデア将軍に会いに行ったんじゃ?


「そいつだ! そいつがあいつの脚を…!」


 走り去ったはずの中年の男がいた。

 一体何が起きているというのだろう。


「分かってるッスよ! 危ないから引っ込んでて下さいッス〜!」


 ペーニャは男の声に応えるように、手を振った。

 高揚感を感じているのか、その表情には笑みが見える。


 ーー危ないから引っ込め? 何を言ってるの?


「……なんで…どうしてこんなことを?」


 何が目的でこんなことをしたのか?


 いや、知りたくないのに質問したのは失敗だ。

 私はペーニャが男に見せた反応からもう察しているのだから。



「困ってる人を助けるのは当たり前ッスから」


「………」


「誰に否定されても揺るがない思い…信念でもある…………ッス」


 ペーニャは胸に手を当て、呟いた。


 自分は何も間違ったことはしていない。と、言いたそうな目をしている。



 ーーいや、ただの勘違いなんだから話し合えばなんとなるよ… うん。 それにさ、敵を作っても良いことなんてないよね。


「ね、ねぇ…聞いーー」


 ーー殺されかけたのに?


「…なんでそんな最低なーー」


 ーー感情をぶつけても解決にはならないよ? 現実的に行こうよ


 ちゃんと物事を整理してから話し合いに挑むべきだ。

 敵対心を生むような行為はなるべく慎もう。私は化け物であっても、狂人ではないのだから。


 ーーそもそもどうしてここにいるの? ハツと一緒にグーデア将軍に会いに行ったんじゃないの? いや、情報を持ってきたのはペーニャだ。もしかしてそれすら嘘だった? 何のために? 最初から私のことを殺そうとしてた?

 なんだか


「……気持ち悪い」


 ーー感情を乱すのはよくない。落ち着いて、冷静になろう。


「………」


「あー、もうこの人はダメッスね…」


 ペーニャは息のない落武者の首に手を当てている。

 脈を測っているのだろうか?



「……ふぅ…その人達は…私を襲おうとしてたの」


 冷静。冷静。冷静。冷静。



「…そうなんスか?」


 ペーニャは視線を男に向けた。


「いや、ちげぇ! あいつがいきなり俺のダチを…」


 ーーは? いきなり、私が? 何をいってるんだろう


 私に指を差し、笑みを浮かべている。

 仲間が死んだというのに、その顔は歪んで見える。


 冷静。冷静。冷静。冷静冷静冷静冷静冷静冷静冷静冷静冷静


「俺のダチを…殺したんだ!」


 ーー殺した?


「嘘をつかないでよ!! この期に及んで嘘つくの? 本当にダサいよ?」


「クソッ…あいつ…後で晒し者にしてやる」


 息のない落武者の体に涙をこぼす中年の男。

 涙が流れているというのに、その表情からは喜びが見える。

 嘘が真実になった時、人々は表情に出るものなんだが、それにしても分かりやすい。


「ペーニャ、お願い、私を信じて! あいつらは私を襲おうとしていたの、本当だよ…」


「分かったッス、信じるッス」


「よ、よかっーー」


「あーーー! 人殺しの言葉なんてなーんにも聞こえないッスね〜」


 ペーニャは耳を塞ぎ、私の声に被せるように叫んだ。

 話し合いは無理そうだ。

 それにしてもまずい。気付けば流れの主導権を握られている。


 このままでは私が悪者になる。


「私は、殺そうとしてたわけじゃないの、それは助けようとしてーー」


「同じことッス。現に死んでるッスよね?」


「それは…」


 ダメだ。事実は変えられない。

 この話題は私にとって不利と言える。

 まるで勝ち目のない倫理だ。


「そ、そもそも、何でここにいるの? ハツは?」


「殺した…」


 ペーニャは俯き、手元を眺めていた。


 神と戦おうって時にわざわざ戦力を削るはずもない。


 ーーハッタリか


 いや…叛逆の話自体が嘘の可能性があるから…本当?

 だけど、何のために殺した? 動機がない。


「…殺したの? 最低だね」


「いや? 知らねッス。あんな売国奴死んで当然って思っただけッスよ」


ーー知らない…? さっき殺したって言ってたよね? それに、


「…売国奴?」


 何がそう言わせたのか。

 少なくとも私が知ってる限り、2人は仲が悪くなかった。

 何かきっかけがあった?


「異国人はどこ? これで理解したッス?」


 ーー私のこと?


「それで…私を殺すの? その嘘つきを助ける為に人を殺すの?」


 情に訴えかける苦し紛れの説得。


「当然ッスよ、犯罪者がのうのうと生きてるなんて、被害者が可哀想ッス」


「………被害…者…」


 ーーまたか


 私にとって悪い方向に物事が進んでいく。


 私が襲われたのも。

 ペーニャが現れたのも。

 救うことができなかったのも。


 全部…計算通りってこと?


「じゃ、断罪の時ッスね」


 ノコギリのようなものをこちらに向けてきた。距離は20m前後といったところ。

 さっきの指銃を使えばダメージを与えられるかもしれない。


 だが、戦うのは悪手だ。

 相手が何をしてくるか分からないのもそうだが、私が首を切り落とされても死なないと知っていながら挑んできたのだから、まだ手札を残してるはず。


 何より、殺さないように手足を狙うのは至難の業というもの。


 ならば選択肢は一つ。


「ーー!」


 ここから逃げる。


 ずっと遠くへ、どこまでも逃げよう。

 人のいない、誰にも話しかけられない秘境で生涯を終えよう。


 ーー人間に関わりを持ったのが間違いだった。


 誰とも関わらなければ、災いは降ってこないのだと思う。



「逃げるなんて…犯罪者らしくなったッスねぇ…」









「逃がさないッスよ〜」


 ペーニャはノコギリを振り回し、紙を切るように壁を切ってる。

 それも切り口は熊の爪痕みたいな荒い傷跡だ。


 ーー私より化け物…


 私は近くの民家に飛び込み、土足で畳を汚した。

 どこの家も和式が主流なのだろうか?


 中には獣人がいて「え?」という表情を浮かべているが、構ってる暇はなかったので、反対側に裏口があることを祈って走った。


「おー、こういうのも楽しいッスね!」


 他人の家だというのに、容赦なく周囲にあった家具を切り刻んでる。

 ただ、さっきと違い、ノコギリを振り回してるわけじゃない。周りにあるものが勝手に切り刻まれてる。



 窓が見えたので、指銃で破壊し、外に出た。

 土地勘がないので、どこに逃げれば良いのか分からないが、一方向に逃げていたらいつかは街の外に出られると信じるしかない。


 ーー失敗した。もっと、情報を得ておくべきだった。


 音に反応したのか、周囲の視線が凄い。

 こんなに注目されるのは久しぶりだ。


「誰かそいつ捕まえてくださいッス! 捕まえたら50万ダラ出すッスよ〜」


 周りの見る目が変わった。

 なんか賞金首になってしまった。しかも、50万ダラって…5千万円ってこと?


 ペーニャの性格的にお金を出すことはないだろう。

 偏見かもしれないが、捕まえることさえできれば何でも良いって思っていそうだ。


「50万ダラッ! ハハハ、良い仕事がやってきたぞ!」


 そうとも知らず、巨体のトカゲ人間が行手を阻もうと、大剣をこちらに向けてきている。


 肌を守る気のない鉄の飾りに、冒険者と言われたら納得する装備をしている。

 冒険者は大事なところ以外は守らないってイメージがあるのは偏見だろうか。


「ど、どいてください!」


 指先をトカゲ人間の足元へ向け、引き金を引いた。


「ーーなんだぁ!?」

「ーーッ!」


 驚いたように一歩後ずさるトカゲ人間。


 私は、遅れて振り回された大剣をスレスレで躱し、横を通り抜けた。


「ーーあぶな…」


 なんかゲームをやっていた頃を思い出す。


 ーーよくこんなことやってたっけ…


 まぁ、その時は容赦なく体に鉛玉撃ち込んでたけど。


「なに遊んでんだイ?」


 視線を右上に向けると、トカゲ人間がクロスボウを構えていた。


「ーーッ!」


 私は右前に走り込み、トカゲ人間の足下に向けてスライドした。


「あ、当たんなイ!?」


「……ッふぅ…」


 真下にいる人間に飛び道具を当てようとするのは難しい。

 それは私がよく知ってる。


 それにしても、あのトカゲは何がしたかったんだろうか? 声を出したものだから奇襲というアドバンテージを失っている。上にいるトカゲ人間は将棋で言うところの遊び駒だ。


 それでもこの状況で上にいることのメリットは情報収集に強いところだろうか?



「ーー!」



 近くにあった家の扉に体当たりし、中に強引に入り込んだ。

 上からの監視がある今、屋外をウロチョロするのは愚策だ。


 ーー視界から外れないと


 私は扉を閉めると、最初に見えた窓を指銃で割り、反対側へ走った。


「ーー!」


 外では驚いたかのような声が聞こえる。


 そして、扉が壊される音が聞こえたと同時に、別の窓を静かに開け


 逃亡したーー。




 追手の気配はなく、人目につかないようにすぐさま橋の下へ駆け込んだ。



「……ふ、ふふ…あはは! 何これ…超楽しいじゃん!」


 笑みが止まらない。

 罪悪感と背徳感。逃げ切れたと言う達成感がある。




「ふふふ」




「はは…」





「………」




 ーー私は…人を殺したんだ



 逃げた。


 罪を背負おうともしなかった。



 あの落武者にも家族がいたはずだ。


 そんな親族の悲しむ姿を見るのが怖かった。

 憎まれるのが怖かった。


 先に手を出してきたのはあいつらだ。なんて言い訳はもう言いたくない。


 人を殺すことに正義なんてない。

 正義のために人を殺し続ける人がいるのだとしたら、それは狂人だ。


 正義ではなく、殺すための理由を見つけているだけの殺人鬼だ。


 どんな理由があれど、殺すことだけはやってはいけない。そう思うのが普通だとも思う。


「………なんでこうなっちゃうかな…」


 どう転んでも悪い方向へ向かっていく。


 神の仕業を疑う他ない。人を殺してしまったのも全てそいつのせいだ。

 

 私にはどうしようもなかったはずだ。


 確か、東の果ての塔とか言ってたけど…


 いや、このことについて考えるのは辞めよう。

 もう関わりたくない。


「…夜早くこないかな」


 日が沈んだら遠くまで逃げよう。

 サバイバルとかキャンプとか、やったこともないけど調理実習で学んだ知識が…。

 いや、調理道具とか、食材がないと使えない知識だった。


 ーー調理道具か…


 思えば文明初期の人達って凄いな、と感じることがある。

 言語、学校。

 水道に電気、冷蔵庫にスーパー。

 生きるためのものが簡単に手に入る時代に生まれた私だが、彼らにはそんなものはなかった。


 水を汲んできて、毎日魚を釣ったり、作物を育てたりやっていたのだろうか?

 それでも、最初に魚を釣ろうとした人はどんな気持ちだったんだろう。

 作物を最初に育てた人はどんな気持ちで作物を育てていたのだろう。


 タイムスリップができるなら是非とも質問したい。

 便利な道具がない時代に生まれた人は何を考え、どう感じていたのか。


 それとも、私と同じことを未来人も思うのだろうか。

 未来人から見た私たちは不便な生活なのだろうか?

 食料が無限に手に入って、もっと便利な道具が開発されているのだろうか。


 私には現実味がなくてよく分からない。



 現実味がないと言えば、この世界も太陽と月に変わるものがある。

 大きさが違うわけでもなければ、色が違うわけでもない。

 どちらも感覚的には同じに見える。


 違うことといえば太陽は東から登って東に沈み、月は北から登って、北に沈むと言うことだろうか?

 同じ方向から上がって、元の位置へ戻る。

 私は宇宙に強くないので、そこら辺どうなっているのか皆目見当もつかないが、現実としてそうなのだから理由があるのだろう。


 月で思い出したのだが、近所の人と月を眺めていたことがあった。

 顔の輪郭すら覚えてない人だ。ただ、夜空を前にすれば口が止まらない人だった。

 それも望遠鏡をいくつも個人所有していたのだから、本気度が違う

 一つ百万とか言ってた気もする…子供の頃は「へぇ…」で済ませてたけど、今考えると異常だ。

 あの時うっかりレンズを割っていたら、どうなっていたことか。


 それで、その人に色々と星の名前を教えてもらった気がする。

 眠くなるほど沢山の星の名前を言ってたと思う。

 私が覚えているのはオリオン座とか、さそり座、七つ星ぐらいなのだが…


「………」


 残念なことに見当たらない。

 それでも



 いつみても空に浮かぶ星は綺麗だ。

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