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水精少女ア  作者: クーラーつけたい
第一章 【始まり】
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第一章5「成長の形」

 ーー誰かの為に戦うのが怖い


 そう思うようになったのはいつからだろうか。

 それはいつの間にか根付いていた感情の癖。


 ーー夢?


 そう思うや否や目の前には手があった。とても小さな手が。

 そして、その手は1人の男の子に向けられている。


 ーーあの時の私は憧れていた。1人のヒーローに。


 それはゲームの中に実在したプレイヤー。

 私はその裏表のない感情が、正義が好きだった。


「何つった?」


 男の子が振り向き、こちらに視線を向けてくる。それに対し、私は棘のある声で言った。


「大人数でいたぶるのは楽しい? そう言ったの」


 それがどれだけの後悔を生むのかも知らずに、私は続けた。


「そんなダサいことはやめて皆と仲良くして!」




 後に気づく。誰かを救おうとしても、それを助けてくれる人はいないということに。









 ****************************************








「ん、どうしたの? アイ」


「……いや、何でもないよ」


 こちらを覗き込む青く透き通った瞳。

 私は寝ていたのだろうか?

 感覚的にいうなら起きていたとも寝ていたとも言える微妙なラインにも思える。


 ただ、ぼー、としてただけ。そんな感じ。


「それで…直接会いにいくってどう言うこと?」


「ん、取り敢えず会って話を聞いてみる」


 意思の籠った声色でハツは答えた。

 てっきり、首を切り落としにいくのかと思ってたが、そこまで野蛮人ではないらしい。


「あぁ、そう言う意味ッスか…」


 同じことを考えていたのか、ペーニャも安心したように胸を撫でる。

 彼女から見ても、そういう印象なのか……。まぁ、初対面で首を切るぐらいだ。周りからの評価もなんとなく想像できる。


「ん、もしもの時はグーデア将軍を討ち取る」


「やっぱりそう言う意味っスか!」


 ーーやっぱりハツは期待を裏切らないね……


 予想通りの結論に微笑んでいると、ハツからジッと見られていることに気づいた。

 なんでそんなに見られているのか…


「ん、その為にもアイの力は必須」


 ??


「……え、私戦闘力皆無なんだけど」


 ハツのその目からは期待、そして信頼が感じ取れる。

 しかし、無力な私にどうしろと、戦力的な面では頼りにならないことを知っているだろうに…。

 それとも何か別の?


「ん? アイは魔法を使える」


 ーーそうなの?! いや、もしかして…


「あの体がモコモコ生えてきた話のことしてる?」


 ハツの衝撃発言に、少し期待したが…それが首から体が生えてきた現象のことを言ってるのであれば、当てにならないと思う。

 意識してやったことではないし、私の力なのかも怪しいのだから。


「モコモコ…って首を飛ばしても死なないって、やっぱり本当のことだったッスか!」


「ん、あと、うぉーたーぼーるとか、かめはーー」


 ーー!!



「ちょ、ちょっと待った!それ以上は口にしちゃうと世界が滅びちゃうからやめてぇー!」



 ーー忘れてた…


 そういえばこの世界に来て早々に超黒歴史を作ったんだった。


 あぁぁぁぁ…思い出しただけで死にそうだ。銃が手元にあったら頭を撃ち抜いていたかもしれない。


「そ、そんなに強力な魔法ッスか!?」


「ん、口にしてた」


「じゃあ世界滅びるッスー!」


 ーーやばい…これは…本当にやばい


 後から「え? あの時のあれ…嘘だったの?」なんて言われたらメンタルが死んでしまう。今、正直に「あれは冗談だよ〜」っとか言っておけば解決するかもしれないが、それはそれで「え…厨二病乙」って言われて死んでしまう…。


「それはーー意識してないとダメとか、なんか色々ルールあるからー!」


 私は、手振りで"これ以上の詮索はやめてほしい"という感情を表現した。

 あまりこの話題で攻められるのは良くない。それに、感情が乱れてしまうと、今後にも影響が出る。


 ーー落ち着いてーー。あまりこれ以上喋るとボロが出てしまう。この件で喋るのは控えよう。


「…そう、分かった。何か理由がある…ってこと」


「……まぁ、そう言うこと」


 勝手な解釈をしてくれたハツにすぐに会話を終わらせる。

 なんとか凌いだが、さっきの反応は迂闊だった。次からはあまり感情に出さないようにしないと…。


 ここまで慎重にする理由は簡単で、人間関係というものは繊細で、少しのミスから喧嘩や虐めに発展するのだから。


「ん、何にしてもアイが主力であることに間違いはない」


「……」


 しかし、何を勘違いしてるのか、私の何倍も強いハツは戦力での期待を向けてきている。っていうか、私が行くのは当然かのような言い方だ。

 彼女達とは仲良くなりたいとは思っていたが、おかしな人と関わろうとするのであれば、私も距離を置く。


 ただ、それを直接伝えるのは良くない。人間は拒否されると苛立ちを覚える生き物だから。


「……うーん、神様相手に反逆を企む人と関わるのは危ないかもしれないね。それに、人を集めているのも、何か理由があるのかもね」


 これは普通の考え方のはずだ。なりふり構わず人を集めているということは、何か理由があるということ。

 それも叛逆とかいう目標を立てているのだから尚更嫌な予感がある。


「ん…でも放置してたらユラ様が…」


 だからなんなのだろう?「私達には関係ないよね?」そんな言葉を心の内にしまった。

 そんなことを言えば、私はおかしな人に認定されてしまう。

 どうやって説得するべきか…このまま何も言わなければハツはグーデア将軍の元へ向かうことだろう。




「ユラ様ってさ、実は叛逆を企んでるなんて、とっくに気づいてるんじゃない?」


「それは…どういうこと?」


 私は頭を手で突き、推測を述べた。

 そう、これはただの推測。それもすぐに崩壊してしまうような適当なものだ。


「私達ですら知っているのに、この国の神であるユラ様が知らない? だとしたらユラ様の聡明さを疑うことになると思うの」


 これはバレバレの作戦に無策であるはずがない、「神様を馬鹿にしてるの?」という実質的に感情に訴えかける感情論ともいえる。

 だから、これは上手くない。なぜなら、私はユラ様と呼ばれる神のことなんてこれっぽっちも知らないのだから。



「それにさ」

「私達よりも凄くて強い人を助ける。 それっておかしくない?」


 私は言葉に圧力を持たせるために、考えるそぶりを作った。

 これは普通の考えのはずだ。神様は人を救う立場であって、人は神様を救う立場にないのだから。


「………アイ」


「いや、それは、おかしくないッスね」


「……」


 目を見開くハツに、ペーニャは否定するかのように首を振った。

 そして、その意味をすぐに理解した。


 ペーニャは昔の自分に似ているのかもしれない。

 それは聞き飽きたセリフで、嫌いなセリフ。


「それが誰であろうとーー」


「助けるのに理由は要らない。でしょ?」


「…ッス」


 私は有無を言わせぬように、声に力を込め、ペーニャの声に被せた。

 これはあまりいい行為ではない。人間は自分の心を見透かされると恐怖を覚えるのだから。

 つまり


 ーー失敗


「助けられる確証がないのなら自分を苦しめるだけだと思うよ」


 言ってしまったからには止められないので、俯くペーニャに思うことを伝えた。

 自分が思ってることを伝える。

 これは友達っぽくて凄くいいと思う。


 …だが、批判しすぎた。彼女達の為とはいえ、これだと敵意を生む可能性がある。


「ごめん、今のは忘れて」


 私は何もかもリセットするかのように謝罪した。

 経験上、このように謝罪されると「この人、悪い人ではないんだな」と思うようになる。


「ん…君の意見はわかった。でも、私は将軍に会いにいく」


 俯くハツの視線は虚だが、そこには決心が見える。きっといくら説得してもその意思は変えないことだろう。むしろ、これ以上は私の首を再び切り落とそうとするかもしれない。


 反応からして、もしかしたら私に対して失望しているのかもしれない。

 やっぱり喋らない方がいいよね…

 この癖治さないと…


「君はここに残ってて」

「でも…私が帰ってくる前には…出ていって」


「…………」


 ハツは立ち上がると、私を見下していた。

 私の心中は「やっぱりか」という言葉で埋め尽くされている。彼女の発言から察するに、私の心は一部読まれていたということが伺える。

 そもそも、「私は行きたくない」なんて口にしてはいなかったのだが、言葉や表情、雰囲気からそれを読み取ったということだろう。


 上手く隠したつもりだったのだが、流石の観察力だ。


 ーーやっぱり、私には友達作りなんて向いていなかった…。


 さて、これからどうやって生きていこうか…そんなことを考えていた時だった。

 もう私を見ないと思っていた青く透き通った瞳が、再びこちらを向いていた。



「君をここに招いたのは恩返しのためだったんだから……」


「…………」


 ーー恩? そんなことした覚えはないけど


 ハツの耳は萎み、目からは悲しみと、失望が見える。

 これまでが首を切ったことによる謝罪なら分かるが、恩返しだったとは…。

 しかもそれは私には覚えのないものだ。


「忠告する。私以外の将軍は貴方を殺そうとするから気をつけて」


「分かった。頑張ってね、ハツ」


 友好的な笑みを浮かべ、応援の声を向けると、さらに落ち込んでいくのが目に見えて分かった。

 最後まで私に期待していたということなのだろう。しかし、私が行ったところで死体が一つ増えるだけというのは変わらない。


 私と彼女の関係はそこまで深くないのだから、おかしいことじゃない。まだ出会って2日目だ。普通の考え方だろう。


「ん…ペーニャ、明日城まで歩く。ついて来て」


「了解ッス!準備するッス!」


 私は準備をする彼女らを背に、寝室へと向かった。


 ーーまだ起きたばっかりだと言うのに凄く眠たい。


 ーー明日からどうしよう


 ハツの言葉からして、指名手配されてる可能性だってある。

 今後はどうやって生きていくかが課題になりそうだ。



 ………。



 そうして2日目は何もすることなく、終わった。







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