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水精少女ア  作者: クーラーつけたい
第一章 【始まり】
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第一章4「定まらない形」

 

 ーー人が嫌い。そう思うようになったのはいつからだろう


 それはいつの間にか根付いていた感情の癖だった。


 しかし、自分では気づいていた。人が嫌いなわけではないということに。

 さっき、人が嫌いとは言ったものの、私は人が好きだ。


 好きだけど、嫌い?


 この言い方だと矛盾している。


 言い換えるなら好きな一面もあれば嫌いな一面もある、ということ。


 それらを天秤にかけた時、好きより嫌いの方が重かった、ただそれだけ。

 だからーー


 ーー私を含め、人が嫌い。



 ーー?



 ーー夢?


 そう気づくや否や、目の前には男、私の数倍の大きさの男が現れた。

 その手には教科書が…握られている。いや、握られているというより握りつぶされているという表現が正しいか。


 男は柔らかそうな顔を歪ませた。


「お前はーーーんだ」


 しばらくして、それが自身に向けられた言葉だと気づく。

 しかし、私には何を言ってるのか分からない。


 どうしてそんなに怖い顔をしているのかーー分からない。


「ど、どうしーーー!」


 言葉を発した時、ふと痛みを感じたような気がした。

 何が起きたのか分からない。

 ただ、見覚えがあるような気が、懐かしいような気がしてならない。


 でも、何故怖い顔を向けてくるのか理解できーー


「ーー!」


 2度目の痛みにようやく気づいた。

 それは体から来るものではなく、男の持つ教科書から来た痛みだということに。


 咄嗟に頭を抱え、机に顔を隠す。

 すると、男は手を止め


「お前のためを思ってのことなんだ」


 と、言った。

 俯く私には男の表情は見えない。


 しかし、その声色は優しいものだった。

 私は気づいた。


 男はーー藍のことを心配してくれていたんだと。








 ****************************************








「んーん、起きて、アイ」


 ーーうぅん…


「起きないと熱々の雑煮口に突っ込む」


「あっつー!」


 唇に感じる痛みに、布団から飛び跳ねると、ハツの姿。

 しかし、その表情…いや、尻尾にはあの時見た警戒色が見える。それが私に向けられたものか、入り口に立つ見知らぬ獣人の女の子に向けられたものか分からない。


 赤く輝く宝石の指輪に、金で装飾されたネックレスで身を飾る。

 それは“金持ち”という言葉を体現したような猫の獣人だ。

 ブロンド色の髪に合った顔立ちで、現代のコスプレイヤーに引けを取らない美人の塊ーー転移する前の私なら絶対に関わらない類の雰囲気を持っている。

 例えるならクラスカースト上位のお嬢様って感じ。


「ぁ………」


「ん、アイ?」


「いや、何でもないよ! それで、この人は?」


 初めて見る人影につい、言葉が詰まる。

 友達作りを捗らせたい私にとって、人と話すのは難関だ。むしろ、どうしてハツと話すことができるのか分からない。


「ん、私の配下みたいなもの」



 ハツが私の言葉に耳をピンとさせた。それはまるであの時に見た軍人、のような……。

 それにしても配下とは…ハツは意外と上の立場だったりするのだろうか?

 まぁ、街中で私の首を簡単に切り落とすのが許されるぐらいなのだから相当偉いのかもしれない。



「いやー、将軍様の命令を受けれるなんて光栄ッス!マジやべぇッス!」


 と、猫の獣人がハツに飛びつき…パチン、と頭を叩かれた。

 それは恐ろしく早い手刀だーー私じゃなきゃ見逃さなかっただろう。


「ん、近い」


 猫の獣人はじゃらじゃらと金細工を鳴らしながら「いてぇッス…」と頭をさすっている。

 ハツも猫のようなものなんだから、叩くことはないだろうに…同族嫌悪か、縄張り争いみたいなものなのだろうか?

 ーーハツって猫なの? 犬なの?


 今はどうでもいいか…


 それよりも将軍とは…?



「挨拶が遅れたッス…自分はペーニャッス。仲良くしてくださいッス」


「ぅ………ん」


 声を出そうとするが、勇気が出ない。本当にこれでいいのだろうか…


 ーーいや、いいはずがない


「? 何かあったッスか?」


 と、視線をずらす私の瞳を見つめるペーニャはとても純粋そうな目をしている。

 生まれてきて一回も嘘をついたことがない。と言いたそうなぐらい純粋な目だ。

 


 ーーこの世界で生まれ変わるって決めたんだ


「よろしくね! ペーニャさん」


「お、おぉ、よろしくッス?」


「あ、よろしくってのは一緒に色々やってこ! みたいな意味だよ〜」


「へぇ、そッスか…」


 ーー何でそんな薄い反応なの?


 困惑の表情の見えるペーニャに、私の心中はーー"失敗した"という言葉で埋め尽くされている。

 今のペーニャの反応からして私の印象は悪くなったのは間違いない。

 結局は喋らない方がいいのだ。口を開くほど私の評価は悪くなる一方なのだから…


 ーー自分を変えようと思った私が嫌い。喋るのが下手な自分が嫌い。空気の読めない自分が嫌い。


 馬鹿な真似をしてしまったと自分の心中では黒い何かが動いている気がした。

 それは私の嫌いな一面なのだろう。


 ーー私は私が嫌いだ。



「ん、本題に移る」


 と、ハツは空気を変えるように手を叩いた。

 周りを見渡し「これは他言無用…」と前置きを作り、真剣な表情で


「数日もしないうちに戦が起きるかもしれない」


 と……戦??


「……………」


「そ、それ、…本当ッスか!?」


「ん、アイが驚かないのは意外……実は我らが神、"ユラ様"への叛逆を企む連中がいる」




 ????





「………ユラ様ってのは?」


 喋らないでいるのも分からないことが増えていきそうな予感がしたので、必要なことだけ聞くことにした。

 これからはちゃんと考えて発言していこう。


「ん、この国の神様」


 ーー結界を張った人ってことか


「ほ、ほ、ほんとうッスか? ユラ様と戦おうとする連中がいるなんて……」


 ペーニャはまるで信じられない。といった表情で「考えられねぇッス…」と漏らした。

 そこから見れる表情は恐怖、驚き、好奇心だ。

 どうして好奇心を抱いているのか分からないが、碌でもない気がする。


「ん、当然、そんなことをすれば殺される」


 淡々と答えるハツに、私は


「……それ、かなり怖くない?」


 と、答えてみた。

 感情の表現なのだからそこまで違和感がないはずだ。

 それにしても殺される…とは物騒だ。神というのは聖人か何かだと思っていたのだが…



「怖いなんてもんじゃねぇッス、数百万の侵略者を一振りで蹴散らしたマジ、やばい人ッス」


 俯くペーニャに、


「……侵略者?」


 と問いかけた。これも違和感はないはずだ。


「ん、それは異国人のこと」


 ーーえ? 私蹴散らされるのでは?


「……一振りで数百万の侵略者を蹴散らしたって本当なの?」


「ん、それは本当。 実のところ結界はその一振りから次元が歪んで生まれた副産物みたいなもの」


 ーー本当にやばい人だ……剣で次元歪ませるって何よ…


 結界を見たことがないので何とも言えないけど、それが事実なら関わりたくない。

 というか叛逆しようなんて考える人の心情が全くわからない。


「……叛逆の情報ってどこから?」


「ん、それが……ペーニャ」


 と、気まずそうにハツは目を逸らした。



「………………」




 ーーさっき知らなそうな雰囲気出してなかった??


「ごめんッス! でも、驚かないんスね」


 目を細め、こちらを伺うペーニャの視線を受けーー失敗。と、心でつぶやいた。

 確かに驚かないのはおかしい。


「……それで、ペーニャさんはどこからその情報を?」


「グーデア将軍!……ッス」





 ペーニャの話をまとめると、グーデアという将軍がユラへの叛逆の為、兵士をなりふり構わず募集しているという。

 まぁ、しかし、そんな集め方ではユラって神様に耳が入るのは必然だ。

 つまり、戦は時間の問題ということ。

 巻き込まれるのは勘弁だが、戦争が起きればそうも言えない。

 果たしてこの国で神と呼ばれる存在に勝算があるのだろうか?

 それに


「……動機は何? 何がしたくてそんなことを…」


 話を聞く限り、ユラはこの国を守る守護神的な者だ。

 なぜ命をかけてまで叛逆などと…


「ん……それは…圧政のせい」


「……あぁ、私の首刎ねるような法律もあるようだしね」


 と、ハツに首切られたんだけど?というジェスチャーを込めて視線を送る。


 ーーこれは良くない行動だ。敵対心を芽生えさせる可能系がある。


 ーー今のは失敗


 耳を萎ませたハツは、静かに口を開いた。


「そう……それに…………」


 言葉は途切れ、静寂が二人の間を満たす。沈黙ののち、彼女は小さく吐息をもらし、かすれるような声で続けた。


「……私たちには、自由が許されていないの」


 その言葉は、重く冷たい鎖のように、周囲の空気を締め付けた。





 この国の主なルールとしては


 1.異国との交流、文明を取り入れることを許さず

 2.新しい発明を許さず

 3.人を増やしすぎるのを許さず

 4.財を貯めすぎるのを許さず

 5.助け合うことを義務とする。


 というものがある。


 これを定めたのはユラって神様。

 助け合うのを義務とするのはいいとして、その他は圧政と言える政策だ。

 ただ、疑問もある。私はハツに視線を向けた。


「……あの水路付近にあった建物…あれって外国から取り入れた建物じゃないの?」


「ん、それは…」と、ハツが口を開こうとしたその時ーー


「?? あれはツァーシ独自の文明ッスよ?」


 そう答えたのはペーニャだった。

 そして、それが気に食わなかったのか、私の心には嫌な感情が芽生えた。

 そもそも


 ーーハツに聞いたつもりだったんだけど?


 私は「空気が読めないのかな?」と言いそうになった口を閉じた。

 だが、ここは異世界。

 生まれ変わると決めた今、私は敵を作りたいわけではない。

 だから空気を読んで…


「………洋風の建物だったけどね…」


 と、お茶を濁した。

 いや、窓から外を見てみると…やはり洋風の建物…

 っていうか、この家…


 ーー外は洋風、中は和風って…


 ーーなんでこうなった??



「400年より前は外国との交流もあったらしいッス」

「だから…その時の文化も一部残ってるのかもッス」


 この有り様を否定するわけでもないので、別に構わないのだが…うーん、外見によらずということか。


「それよりも〜」


 と、ペーニャがまじまじとこちらの様子を伺うものだから、なんなのだろうと見つめると。


「首を飛ばしても死なないって本当ッス?」


「……嘘だね」


 咄嗟に嘘をついた。

 

 どうしてそれを知っているのか?っていう疑問は投げない。ハツが伝えたのか、現場を見ていたのか…簡単な推察ができるから。


「ん、本当」


「え? え? どっちが本当ッスか!?」


 手足で混乱していることをアピールするペーニャ。


 その慌てた様子のペーニャが、私には"演技"にしか見えなかった。

 さっきのこともあって、この子を信用するのはやめた。


 それよりも


 ーーここは面白いことをしないといけない雰囲気



「いや、私の目を見てーーほら、嘘言ってないじゃん」


 私はペーニャの肩を掴み、真剣な眼差しで彼女の目を見た。

 さっきは目を見るのも怖かったのに、なぜだか今はそんな気がしない。


「そ、そんな目じゃ嘘ついてるなんてわからないッスよ〜」


 と、目を逸らすペーニャ。

 しかし、これは普通の反応なので問題はない。


「じゃあ私を信じれば救われます〜」


「何言ってるのか分かんないッスー!」


 私の行動に違和感はなかったはずだ。そう、何も問題はなかった。

 ペーニャも空気を読めたし、私も空気を読んだ。

 これでいい。


「ん…話がズレた。これからの方針について話す。ペーニャ、君もそれでいい?」


「うッス…」


 と、話を戻そうとするハツに不満そうな表情を浮かべるペーニャ。

 私としてもこれ以上詮索されるのは気持ちが悪い。それに、叛逆の件にどう立ち回るのかは気になるところでもある。


「ん、このままだとユラ様の身が危ない…かもしれないのも事実」


 ハツは手を握りしめ「でも」と、続ける。


「圧政を変えたいのも事実。だからーーグーデア将軍に直接話に行く」


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