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水精少女ア  作者: クーラーつけたい
第一章 【始まり】
3/10

第一章3「よろしく」

 

「ぷはっ…!」



 これは一部の人にとって、夢ではない夢のような世界だ。

 しかし、


 ーー最悪


 そう思うは上から私を見下ろすケモ耳の少女のせいだ。



 最初こそ初めて見る獣人にワクワクしてた部分もあったというのに、それは見つめていただけで首を切ってくるいわゆる狂人だった。

 こんなのが大勢いるのだとしたら、この世界は私にとって地獄と言っていい。


「あなた、今、私のこと殺そうと…!」


 涙ながらに手を首に当てるが、ある。体もある。手も足もちゃんと動く。首を切られたはずなのに生きてる私も相当狂ってるのだが、今は生きてることに感謝だ。


「化け物…」


 そう口にしたのは先程私の首を飛ばした少女だった。「それはこっちのセリフだ」と、心に突っ込んだ。

 今すぐにでも逃げたいが、先程の恐怖感のせいか足が思うように動かない。そもそも運良く逃げれたとして、また理由もなく殺しにくるだろう。


 どうする?


 話し合いは言語道断、助けを呼ぶ?


 いや、この世界の住民が味方してくれるとは限らない。


 となれば選択肢は一つ




 一矢報いる。




「つ、次は私の番かしら!」


 そう、可能性はある。私のボディーブローはどんな屈強な体も貫く。かもしれない。


 それに、私が本当に化け物になっているのだとしたら、力の覚醒に期待はできるという物。

 私は「さぁ」とケモ耳少女に向かって大袈裟に手を広げた。


 私の異世界知識で言うと、さっきのは転移ボーナス。いわばチート能力なのだ…!

 我覚醒せり、今こそ力を見せる時だッ!


 ーー必殺!



『ウォーターボールッ!!』


「まさか!………………」





「「え?」」






『カメハメ…ハッ!!』


「ぐっ……………」






「「え?」」






『我が敵を穿てッ!エレメンタルアローッ!』


「まずい!…………………」






「「あれ?」」



 ーーあぁ……………察した。



「こ、今回は! み、見逃してや……ましゅ」


 この世界は私にとってハードモードである。



 ーーウロロロ、終わった、死んだ。恥ずかし過ぎて死にたい………………グベス



「き、君は…何を」




 そこから先の記憶はない。

 ただ、間違いのないのは最高にクールな黒歴史を生み出したと言うこと。






 ****************************************





 この国、ツァーシは周りを囲まれた海上国家だ。

 そして他国と比べて、特筆すべき文化と言えば封国体制が敷かれていると言うことだろう。

 その体制は変わらぬ国としての存在を望まれている。その国ではあらゆる異国人の侵略を許さない。

 偶にどこからか侵入してくる野蛮な奴らもいたが、それら全ては将軍達が討ち取ってきた。


 そして、今回も…


 将軍と呼ばれる獣人の少年、ハツ・ツァーラはため息をついた。


 ーー拷問をされる前に楽に死なせるつもりだったのだが…



「はぁ…どうしよう」


 あれだけ目立つ行為をしていたのだ。他の将軍にバレるのも時間の問題だ。

 しかし、


「見逃す…ね」


 そんなことを息巻いた化け物は首を切ってなお、体を再生してみせた。

 それは、人の領域を超えた芸術とも言える魔力操作だった。


 この化け物からは魔力を一切感じなかったのだが、それは魔力が使えないというわけではない。周囲には魔力で溢れているのだから、それらを操れば誰だって魔力は扱える。


 それでも魔力を溜め込む人が普通だ。わざわざ空にする必要はない。

 というか、周囲の魔力だけで体を再生するなんて聞いたこともない。


 きっとこの子が本気を出していれば私は塵一つ残すことなく吹き飛ばされていた。

 しかし、気になるのはそんな力を持ちつつも反撃一つすることさえしなかった、その理由だ。

 果たしてこの子は本当に何者なのだろうか?



 身に纏うはこの国では再現できそうにない白くて高級そうな布。

 持ち物からはハンカチに、きめの細かい櫛。材質はどちらも一級品だ。

 それから察するに、間違いないのは異国人であるということが分かる。それも、ただの異国人ではない。この国を滅ぼしかねない化け物だ。


 私が他の将軍に突き出せば、容赦なくこの子の首を刎ねるだろう。最悪、拷問行きかもしれない。


 ただ、「仇には仇、恩には恩を返しなさい」そんな母の言葉があるからこうして匿ってあげてるというもの。


 ーー逆に私の命が危なくなったのは否めない


 しかし、引き渡したところでいくら切ってもこの子は死ななそうだ。何故かそんな気がする。

 でも流石に…


「ユラ様なら…」


 と、口籠ったところで、目の前にいた化け物が…目を覚ました。




 ーーあの御方なら容易くこの子を殺してしまうことだろう





 ****************************************





「知らない天井…」


 どこかの部屋だろうか?


 それにしても、この和式感は日本人の私としても懐かしいものを感じる。そう、こんな畳とか障子とか、おばあちゃんの家にしかなかった。



 …和式…



「良かった……」


 ほっと息を下ろし、「夢だったのか」と呟やこうとした。


 しかし、そんな言葉はでなかった。それを言うと嘘になるのだから



「目を覚ました?」



 そこには…私の首を飛ばした狂人がいた。



「…………」


「ん、どうした? まだ体調でも悪い?」


 と、手をおでこに当ててくるケモ耳少女を黙って見ていた。

 なぜか少女の目には先程まであった敵意はない。それどころか警戒一つしていない。


 腰にあった剣がないのが証拠の一つとも言える。

 それにしても



「どういう風の吹き回しですか?」


「ん……聞きたいことがあったの」


「答えた瞬間にまた首を落とすんですか」


 と、敵意混じりに感情をぶつけると、少女は耳をしょんぼりさせ、「もう、そんなことしない」と答えた。


ーー今のは失敗した。


 一度殺しに来た人を信じるなんてあり得ない話だが、感情をぶつけたところで何か解決するわけでもない。それに、彼女の機嫌を損ねれば、また首を切られかねない。

 考え方を変えよう


 ーーこれは私にも利がある話だ。

 ーー私はこの世界について何も知らないのだから


「なら…私の質問にも答えてください」


「ん…君の質問ならなんでも答える」


 と、躊躇いもなく少女は答えた。質問をすると言ったが、何からするか……まぁ、一番気になるのは


「何で殺そうとしたの?」


「君が異国人だから」


 と、それに続けて


「ツァーシでは入出国が400年前から禁止されている。だから異国人がいるのはありえない」


「ツァーシ…うーん、鎖国みたいな…」


 鎖国というのは簡単にいうと、外との繋がりを断つという政策のこと。

 確か宗教で滅んだ国とかを見て、お偉い様が身の危険を感じて、国内に仏教以外の宗教を浸透させないようにするため…とかなんとか、そんな感じだった気がする。

 うーん、中学生ぐらいの時のうろ覚えの記憶だから、間違っているかも。


「そう…そしてーー」


 と、耳を震わせ、目を伏せた。


「それに違反した者は見せしめに殺される。」


 その表情は悲しそうで…苦しそうだった。

 その表情からは出会った時に抱いていた軍人という印象はなかった。むしろ、恐怖に怯える子供のようだ。


 ーー首を切ったくせに……


 心の中ではそう思ったが、口にはしたくなかった。


「話を変えよう、あなたは私に敵意はないってことでいいんだよね?」


「ん、私は今のあなたに敵意はない」


 大事な話だ。だが、これが聞けて何よりと思う。


「じゃあ、この国から出る方法はある? あるなら手伝って欲しいんだけど」


「それは無理」


 と、即答し、少女は苦渋の表情を浮かべた。


「それは協力したくないって言うこと?」


「そうじゃない。 結界を超えるのは難しい」


 そう言えば結界がどうとか言ってたね。しかし、それほどに強力なのだろうか?


「どうしても無理?」


「ん、結界に入れば永遠に海を彷徨うことになる」


 ーー怖っ


「どういう原理…いや、結界がある時点でおかしいけど…」


「ん、この国の神様が作った結界なの」


 またしても疑問が生まれる。神様?


「えっと…超常的な存在ってこと?実在する人?」


「ん、今も東の果てにある塔から私達を見守ってる」


 まさか…実在する系とは…神、か…やばい集団が作り上げた幻想じゃなく、本当にいるってことなのか?


「ん、私も聞きたいことがある。 君は何者?」


 と、背筋を伸ばし、真剣な眼差しを向けてくる少女。

 それに対し、私は


「私は………ごく普通の……コードネィム・ファルコン…です」


 と答えた。一体それは何なのか?と問われると私の好きな人の名前だと答える。彼は心に裏表のない生粋のヒーローなのだ。


「そう…あの時名乗ってたミズノアイは偽名だったの」


 悲しそうな目を見て、私は「冗談だよ」と、私が水野藍であることを再び明かした。

 信じないと言っておきながらも心を許してしまうのはきっと良くない。でも、今の彼女に嘘をつきたくないと思ってしまった。

 なぜかって言われると、わからない。

 ただ、私の経験上、このケモ耳少女は性根が腐っているわけではなさそうで…?


「じゃあ、あなたの名前も教えて?」


「ハツ・ツァーラ」


 ーー可愛いじゃん


「よろしくね、ハツさん」


「ん、よろしく? アイ」


「なんで疑問系?」


「ん、よろしくって…何?」



「そこは翻訳されてくれないのね、一緒に色々やっていこうね〜みたいな?」


 ーーあれ、私なんでこんなに人と喋れてるんだろう…


「ん、分かった。よろしく、アイ」


 ハツは「ところで……」と続けて


「これからご飯にする? お風呂にする?」


 と流れるようにーー


 ーーえ?


 ーーまてまて



「それとも」



 この流れは…!



「わ、た、し?」




 暖かく、柔らかい耳…「んにゃ」と口にする彼女。初めてこの世界に来て良かったと思った。次は語尾ににゃんを期待するとしよう。


 ーー異世界にもこの文化あるのね


 それにしても、なんでハツはこんなにも友好的なのだろう?

 首を切ったことによる謝罪? まぁ、何もしてない私に罪を問うのはおかしな話だもんね。




「んはぁぁ…良い湯だぁぁぁ…」



 心なしか体調が良くなった気がする。


 オランジの皮を浮かばせてくれたハツさんに感謝だ。首こそ切られたが、ご飯も寝床も用意してくれたし、いまは友好的にみえる。


 ーー体…あるよね?


 っていうか


「鎖国かぁぁ……」


 さて、私はこれからどうしたらいいのだろうか…


 異世界を楽しむ?

 母や父を探す………?

 この世界にいるのだろうか?


 ん?まてよ

 この世界では私のことを知る人は居ない。

 つまり、私は今この世界では赤ん坊のようなものだ。


 やり直す機会なのではないだろうか?

 前の世界でできなかった人付き合いをーー


「そうと決まれば…!」


 私は湯船から飛び跳ね、走り出した。目的地は言わずもがな




「ねぇ! これから一緒にお風呂に入らない?」


と、ドヤ顔で引き戸を開くと、唖然とした表情を浮かべるハツがいた。


「………理解できない……」


 その反応は私の好きな普通の流れでもある。




(びしょびしょに濡らした廊下はちゃんと拭きました)

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