第59話 覇道、そして天下の統一へ(中)
恆祥に絶縁状を送ってから二年の間に
制圧した北東部、北西部の統治を盤石にして
富国強兵を推し進めた。
軍備改革だが、白門関の砦の制圧に
俺と深窮で黒色火薬による木樽爆弾を開発した。
「凄いわ、材料に使った粉末……完璧な配合比率です!
これやったら、どんな頑丈な門も“なかったこと”になりますよ!」
俺は不安になって、釘を刺した
「物騒な物だから、はしゃいで試すなよ?
もし、約束を破ったら次の開発に参加させないからな」
「あははは、しませんよ。でも試してみたくなりません?」
ちなみに北東部制圧~これまでの間に
深窮との間にも子供が三人産まれているのだが
母になっても、落ち着く様子はない。
母に似たら、発明好きになりそうなので
「人の役に立つものを発明できる世の中にしないとな」
そう、深窮に言ったら、窘められた
「どんな技術も使う人と目的次第やん?
今、戦に使ってるうちが言ってもやけどね」
「考えなしに、作って喜んでるわけじゃなかったのか」
そう、失言したらつねられた。
黒色爆弾を開発したあたりで、
呂魏が寝返りを企てた・・・と
監視させていた眉壮から連絡があった。
眉壮から聞いた話だと、
「龍家の秘匿していた技術はほぼ手に入れた。
これを持って帝の元に行けば、三公の地位も夢ではない。
眉壮よ、お主も我と一緒に来ぬか?」
と誘われたらしい。
そこで眉壮は話に乗ったふりをして、
後ろからバッサリ斬ったとのこと。
……今の恆祥に技術“だけ”持って行っても、
材料も技術者も揃わないだろうに。
呂魏は思っていた以上に大勢が読めない奴だったようだ。
憂いもなくなり、準備が整い白門関を制圧した。
俺の第一子、阿空・・・成人した龍翔を参軍させた。
恐らく、この世界の最初で最後であろう女将となるだろう。
紫音と約束していた子が望めば女でも将として・・・を叶えたのだ。
まぁ、参軍したのだが……。
砦の正門に続き裏門まで木樽爆弾で吹き飛ばした時点で、
白門関から降伏の使者が来て、戦にはならなかった。
龍翔は母の紫音に愚痴っていた。
「母上と約束した敵将の首を取る事、叶いませんでした!
父上! 恆祥攻めでは叶うでしょうか?」
そう聞かれたので、一回だけの約束だったので
恆祥攻めには連れて行かないと伝えたら、
しばらく口を聞いてくれなかった。
……英才教育、失敗したかな……?
白門関を制圧した後
親父が倒れたとの早馬がやってきた。
俺は急いで駆け付け、
横になっている親父の手を握る。
「父上、蒼賡が参りました
遅くなり、申し訳ございませぬ。」
久しぶりに見た親父の顔は酷くやつれ、
白髪だけになり、皺が随分と増えていた。
今で六十代だっただろうか・・・
親父がか細い声で姿勢を変えずに口にする。
「蒼賡か……。
馬鹿者が、天下の趨勢を決める大事な時期に何をしている」
力強く言い切る。
「父上、畏るるに足らず。
天下の趨勢は既に決しております。たとえ私が去ろうとも、
龍家の盤石なること、微塵も揺らぐことはございませぬ。
これも偏に、父上が築かれた
大いなる礎あればこそにございます。」
「左様か、ふふ……そうであったな。
最早この老いぼれの心配など不要であったわ。
今思えば蒼賡よ、お主は……不思議な倅であった。
豪族の生まれでありながら、儂とも仁慧とも違った。」
咳き込みながらも続ける。
「お主は……本当に儂の息……いや……
儂の自慢の息子であった。
あの甘かった次男が、よくぞここまで育ったものだ。
輝よ、後のことはすべて貴様に託した。
この健は、雲の彼方にて紅と杯を酌み交わしながら、
お主の覇業を見守っておる……こちらには緩やかに参れ。
もし急いで参ったりせば、
この父が直々に追い返してやるわ。
それまで、存分に天下を統べるがよい。」
俺は目を赤くし、安心させるように語りかけた。
「父上……この輝、父上の子に生を受けたこと、
生涯の誇りにございます。
進むべき道を示し、この愚息を導いてくださり、
言葉を尽くしても感謝の念に堪えませぬ。
黄泉の国では、どうか紅兄上と心静かに酒を酌み交わし、
平穏にお過ごしください。
この蒼賡、父上が待ちくたびれて痺れを切らすほど、
こちらで大業を成し遂げて御覧に入れます。
……父上、どうか、どうか安らかに。
この輝、決して歩みを止めはいたしませぬ。」
親父は微笑み、そして
静かに息を引き取った。
家長としての責任と覚悟。
父としての優しさと愛情。
今の俺に必要なものを注いでくれた父。
龍家に必要な版図拡大の先駆けとなり
筋を通す生き様を教えてくれた。
偉大な父に俺は義魁皇帝を追諡した。
喪に服すために、歩みを止めればきっと怒るだろう。
だから
俺は恆祥攻めを進めた、この世界の腐敗に終止符を打つために。




