第53話 善後、そして英雄の追諡へ
俺は南部を平定した後、その対応に追われていた。
まずは虞業が治めていた南部の都市・穣坤の統治だ。
親父に連絡し、俺が設定していた将――
政治に長け、仁政を施す龍慈を赴任させるよう伝えた。
ちなみに龍慈には、同じ設定で
長男に龍恵、次男に龍靖がいる。
設定していても、戦死や病死している可能性はあったが……
どうやら無事なようで、俺は胸を撫でおろした。
その返書には、親父からこう記されていた。
――瑛南と玄綏の太守をお前に任せる。
また、龍家の跡継ぎを正式に龍輝とする。
今後の人事について、いちいち父へ確認する必要はない。
兄の分まで、後はお前に任せる。
……兄上の訃報を届けた時、親父は泣き崩れたらしい。
俺は返書をしたためた。
――後のことはお任せください。
父上が興し、兄上が拡げたこの龍家。
命に代えても安寧の地へ導き、
万世に輝く国とすることを、終生の誓いと致します。
次に瑛南の統治方針を決めるため、静零と潭沢を呼び出した。
静零とはすでに兄上の死の哀戚を共にした後だ。
「お呼びでしょうか、蒼賡兄上」
「ああ。今日は二人に、瑛南への赴任について話しておく。
正式な詔書はまだ先になるが、その心積もりでいてくれ」
静零と潭沢は無言で頷いた。
「静零には、瑛南の地で“現場監督官”を務めてもらいたい。
私が玄綏から政治を執る以上、
兄上を慕う者が多い瑛南には、龍家本流の血を引く者が必要だ。
兄上の長子はまだ幼い。
その間、静零が治めれば、将兵たちの士気も上がる」
「御輿でございますか?」
「いや、そういうわけでもない。」
実務と軍事執行には縁牛を据える。
龍家三代に仕えてきた縁牛に限って言えば、監視など不要だろう。
だが、それでも“監督役”は必要だ。
「つまり――統治者として、軍や内政が龍家の意向に背いていないか。
静零、お前が太守代理として見下ろし、判断するのだ」
俺は次に、潭沢へと顔を向けた。
「潭沢には、太守の跡継ぎとして培った経験を活かし、
現場の補佐と融和を任せたい。
静零の夫として、内政官として支えてやってくれ」
「承知しました。妻ひいては龍家のため、この身を尽くします」
「ああ、よろしく頼んだぞ。
……赴任早々だが、兄上の葬儀と追諡の準備を
任せることになるだろう……」
静零は寂しそうに頷いた。
こうして南部と瑛南の統治に関わる戦後処理が終わり、
ようやく兄上を追諡する日を迎えた。
瑛南の空に雲ひとつない青天の日。
築かれた巨大な祭壇の周囲を、
龍家が誇る精鋭たちが雪のような喪服で埋め尽くしていた。
彼らは「龍の旗」を高く掲げている。
だが、その喪服の上からは――
龍紅を偲ぶ、真紅の外套を羽織っていた。
俺は祭壇の最上段に立ち、
静かな眼差しで、眼下に並ぶ百官と将兵を見渡した。
一度、目を閉じる。
そして見開き、空へ響くように声をあげた。
「これより、先王の喪礼を執り行う」
「わが兄、龍紅は――昇紅龍と呼ばれるほどの武勇で名を馳せた。
だが、その本質は破壊にあらず。
この瑛南を治めた日、
兄は民に食を与え、闇に沈んでいたこの地を照らした。
兄がいたからこそ、瑛南の家々に灯がともったのだ。
そして、我ら龍家は小邑の豪族から、
天下を窺う階へと昇った。
これらすべて――兄の功績に他ならぬ!」
俺は懐から、兄上への
感謝と思慕、そのすべてを込めた一通の詔書を取り出した。
「よって――私は兄上に相応しい、最高の栄誉を贈る!」
「兄上を、『瑛南煌王』と追諡する!」
その瞬間、祭壇の四隅に置かれた燭台の炎が、
まるでその言葉に呼応するかのように、ふっと燃え上がったように見えた。
「煌兄上は、死してなお――
わが国を煌びやかに照らす赤熱の太陽である!
龍家の民よ!
兄上が照らしたこの道を、久しく胸に刻め!」
「挙哀ッ!」
その号令とともに、全軍が地を震わせるほどの慟哭を上げた。
瑛南の街では、民が兄を悼んで焚いた“赤い提灯”が
どこまでも連なり、夜を埋め尽くしていた。
その光景はまさしく――
「煌」という一文字を体現し、
やがて夜の闇を赤く染め上げた。




