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第46話 貪婪、そして貪官の徴求へ

 都から届いた書状、それは賄賂と利権の徴求だった。


「玄綏太守、龍輝に告ぐ。


 近頃、かの地にて都にも類を見ぬ『竹炭』なる品を専売し、

 私腹を肥やしているとの聞こえがある。


 正体不明の品をもって民心を惑わし、

 都の権威を軽んずる振る舞い、断じて看過できるものではない。


 其方が申すような至宝が真に存在するならば、

 その製法を携えて参内せよ。


 都にてその技を再現し、証明してみせるが良い。


 天下の智識や秘術というものは、

 一介の臣下が私すべきものではなく、

 天の理を司る帝お一人が統べるべきものである。


 龍家が長年培ってきた官への忠義の証を示せ。


 帝の命を疎かにするような不忠者が、

 龍家におらぬと信じているぞ」


 商人に卸し、噂が広まるにつれ、こんな日が来ると思ってはいた……。

だが、金銭では飽き足らず、製法ごと全て寄こせとは予想以上に酷い。


 著作や特許の侵害という考えなんてないのだ。

 帝政の権力があれば全て奪える――その傲慢を骨身に感じる。


 親父と龍紅に対応を相談せねばなるまい。

 その為には時間が必要だ。

 俺は以前の龍紅と同じ手を使うことにした。


「書状、しかと拝受いたしました。

 都の方々の耳を騒がせているとは露ほども存じず、とんだ非礼を。


 とはいえ、私は龍家にあって権限を持たぬ次男坊。

 国家の命運に関わる大事を、父上や兄上を差し置き即断すれば、

 龍家の法を乱す不忠。


 ゆえに実家の指図を仰ぐ猶予を頂きたい。


 その間、使者殿には当地方が誇る珍味と美酒を存分に用意させますゆえ。

「長旅の埃を落とし、この玄綏の地にて、ゆるりと英気を養ってくだされ」


 そう、接待をして時間を稼ぐ。

 現代社会も異世界も、やることは一緒か……。


 いや、大学生だった俺にそんな経験はないのだが。


 親父と龍紅に使者を出すと、書状で返事が届いた。


 親父・龍健からの返書


「事の仔細、聞き及んだ。

 ことの差配は、仁慧(龍紅)と熟議の上、良きに計らへ。


 父がなすべき『地固め』は、既に果たした。

 お主たちの才を示せ。


 ただし、龍家の血脈を絶やすようなことなかれ。

 二人の双肩に預ける。最善を尽くせ。」


 俺と龍紅に任せるから、良い感じにしろと言われた。


 兄・龍紅からの返書


「もはや都に『権』はあれど、四海を震わせる『威』はなし。

 書状など破り捨てたいのは山々である……だが、今は耐えねばならん。


 案ずる懸念は二つ。


 一つ、今すぐ牙を剥けば、都の一族郎党が悉く誅殺されよう。

 二つ、我らの版図は未だ瑛南と玄綏の周辺のみ。

   南部の平定を待たずに逆賊の汚名を着せられ、

   諸侯に討伐の詔を下されれば、今はまだ支えきれん。


 ゆえ、なすべきは『遅延策』だ。

 時を稼ぎ、その間に南を平定し、都の一族を救い出す。


此度の応対は一任する。

 私はその間に、南部の調略と制圧を推し進めよう。


 ……恐らく此度の密告、南部一帯の何れか勢力の差し金であろう。」


 都の一族救出と南部平定が済むまで時間稼ぎをしろ。

 俺に任せるから、良い感じにしろと言われた。


 俺は頭を悩ませる。こういう時に混乱してはいけない。

 事象を混ぜて考えてはいけない。

 一つ一つの問題を点で考えて、線で繋げるのだ。


 まず、弁明の書状を賄賂と共に届けてご機嫌取りが必要だ。

 俺は都からの腹が出た使者に書状を持たせた。


【龍輝よりの返書】


「謹んで上奏いたします。


 龍家、帝に対し奉り反逆の意図など抱いてはおりませぬ。

 我ら田舎者が用いる卑しき品が、高貴な都の皆様に必要などと思いも寄らぬこと。


 都の風雅には、竹炭より優美な木炭こそ相応しいと愚考しておりました。


 しかし至宝を独占していたとは、偏に我らが愚昧ゆえ天の理に気付けず、

 その誤りを正しき道へとお導きくださり、帝の御威光に感服いたすばかり。


 お詫びとして、財貨を献上し、製法を熟知した職人たちを差し向けます。


 ただ、この製法は仙人より授かりし秘術、龍家とて会得に多大なる年月を費やしました。

 この地特有の土と竹を用いねば、同様の品質を得ること至難の業。


 都の地にて再現は、試行錯誤が必要かと存じます。


 何卒、職人らを遣わせた後も、その成業を寛大なる御心で見守り、

 長き目でお待ちくださいますよう、伏してお願い申し上げます」


 木炭より劣る竹炭を都の人が使うとは思いませんでした。

 でも気付かせてくれてありがとう。

 感謝とお詫びを兼ねて賄賂と職人を送ります。

 でも技術の再現には時間がかかるから、多めに見てねって具合だ。


 ついでに、これを帝に告げた奴はどなたか知りませんが、

 「その野郎は、龍家と帝の仲を裂こうとしています!」

 と言っておいた。


 そして送り込む職人に言いつけた。


 窯の建設が難航しているとか、都の竹は湿気が多いとか、

 何かと理由を付けて失敗して時間を稼げ。


 最悪の場合、これ以上無理だと思ったら成功させても良いが、

 一族の救出と南部平定が間に合ったら、最後は窯を壊して逃げてこい。


 そして職人の護衛は、都にいる龍諂親子など親族を

 安全に連れ出すための工作員兼護衛部隊としての密使だ。

 以下の書状を持たせる。


【親族への密書】


「恆祥にて職務に精励される諸兄諸姉、いかがお過ごしか。


 我が龍家は更なる版図の拡大を期し、大いなる一歩を踏み出す決意を固めた。

 南部一帯を平らげ、永劫の安寧を築く日も目前である。

 断じて『画餅』に非ざること、玄綏の地の噂を聞き、

 その目で見れば自ずと知れよう。


 玄綏の活気は都・恆祥に比肩し、万民が治世を仰いでおる。


 諸兄の中に、卓抜した政才を新天地にて振るい、

 我ら一族の覇業を支えんとする志があるならば、

 書を届けし者と共に速やかに帰還されたし。


 追伸。

 長らく都の混迷なる政に身を置いては、心中お察しする。

 だが我が龍家に戻るからには、旧態依然とした振る舞い

 (腐敗や私欲)は断じて許容せぬ。

 民を愛し、公道を歩む不退転の覚悟で玄綏の門を叩かれよ」


 玄綏が発展するから、こちらで職に就かないか?

 その気があるなら使者と同行してね。

 ただ、玄綏で働くからには都みたいな不正や私欲は許さんからな、と書いてある。


 裏切って書状を漏らす奴がいる事を考えて、

 帝に対する叛意などは書いていない。

 あくまで、ヘッドハンティングだ。


  ……これで察せない奴は仕方がない。


 親族と言えば、紫音にも聞いてみた。


 「父に手伝う気はないか? と書状を送っておこう。

  だが都の官位と栄華を恐らく捨てる事はあるまい」

 との事だった。


 時間稼ぎと親族救出の手は打った。

 後は南部の平定に力を注ぐだけだ。


 しばらくして、瑛南から

 龍紅が南部勢力が支配する豪族の懐柔に向かったと連絡があった。


 竹炭の件では南部勢力に先手を打たれた。

 次は、龍家が後手を打つ番が来たのだ。

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