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外伝・第7話 日常、そして紫音と出産へ(前)

俺は御瀾を玄綏に相応しい地とするべく、

内政・軍備・都市開発の三本を推し進めていた。

本来なら迷わず前へ進めるはずなのだが……頭を抱えていた。


人材が足りない。


いや、御瀾の職人たちが怠けているわけではない。

むしろ皆、必死に食らいついてくれている。

だが──俺が“知識として知っているだけ”の技術は、

実際に形にする段階で必ず壁にぶつかる。


試行錯誤を繰り返すしかない。

判断するのは俺しかいない。

完成形を知っているのは、俺だけなのだから。


あぁ……天才が欲しい。


その時、俺は内政パート用に設定していた三兄弟のことを思い出した。

それぞれ、舗装・鍛冶・治水に秀でている、

ゲームでは優秀な内政官が担当するとボーナスが付くのだ。


……親父に、人材の派遣を頼んでみるか。


【龍輝から父・龍健への書状】


謹んで申し上げます、父上。


此度、仰せつかりました御瀾の経営、

蒼賡、粉骨砕身の思いで励み、

この地の礎を築くべく日々差配しております。


しかしながら、街の発展には

私の右腕となるべき専門の才を持つ者が

未だ十分とは申せませぬ。


つきましては、一族のなかでも内政に聞こえ高き

龍道・龍錬・龍治の三名を、

私の部下としてお迎えしたく存じます。


三名の知恵と技があれば御瀾において、

天下に誇れる基盤を築けるものと確信しております。


父上、どうか三名が御瀾へ参じ、

私と共に働けるよう、お口添えを賜れますでしょうか。


一族の力を結集し、必ずや父上のご期待に応えてみせます。


蒼賡 拝。


【父・龍健からの返書】


蒼賡よ、書状、確かに受け取った。


しかしお前がなぜ、

分家の端々にいるあの三兄弟の名を知っておる?

どこから耳に入れたかは知らぬが、

噂を聞きつける速さだけは大したものよ。


……まあよい。

御瀾を龍家の要衝とするは一族の悲願。

三兄弟の親父(分家当主)には、

私から直々に話を付けておこう。

龍家の未来のため、息子を貸せとな。


遠縁とはいえ、我らと同じ血を分けた一族だ。

単なる配下と思うて無下に扱うてはならぬ。

それ相応の礼を尽くし、遇せよ。

一族の絆にひびを入れるようなことがあれば、

この私が許さぬぞ。


励めよ、蒼賡。


龍破正


俺は親父の快諾に感謝した。

そして、赴任してきた三兄弟を迎える。

喜色満面の笑みを浮かべ、

歓迎の気持ちが伝わるよう、声を張り上げた。


「遠路はるばる、よく来てくれた。

 そなたらの才は、この蒼賡の耳にも届いている。

 御瀾の発展に、その知恵を惜しみなく貸してほしい。期待している。」


三兄弟が拱手をしながら、真剣な面持ちで俺を見つめる。


「お初にお目にかかります、輝殿。

 此度は大殿を通じてのお招き、

 恐悦至極に存じます。

 御瀾の地を豊穣の地へと変えるべく、

 我ら三兄弟、命に代えても成し遂げてみせましょう。」


その後に少しだけ、眉間に皺をよせて続けた。


「……ところで、蒼賡殿。

 我らのように遠方に身を置く分家の者の名を、

 何故これほど克明にご存じなのですか?


 本家の若君の御心に留めていただけたことは、

 一族としてこの上ない光栄にございます。


 しかし、我らの名など木の葉のごときもの。

 それを聞き及ばれるとは、仙人のごとき聡耳を

 お持ちとしか思えず、まことに不思議でなりませぬ。


 一体、いかなる縁あって、

 我らを見つけ出されたのでしょうか。」


俺は「設定したから知っている」とは言えず、

狼狽した様子を見せぬよう取り繕った。


「道殿、そう不思議がることはない。

 真に能力ある者の名は、

 本人が思っている以上に遠くまで響き渡るものだ。


 私が特別な耳を持っているわけではない。

 そなたらの功績が、それほどまでに際立っていたという証よ。


 分家の隅々にまで頼もしい才が育っており、

 龍家の将来は、まことに安泰だ。


 道、錬、治──改めて頼む。

 この御瀾の地を一族の揺るぎない礎とするため、

 どうかその知恵と力を私に貸してほしい。」


「……ははっ! 勿体なきお言葉。

 この命、蒼賡殿の志に捧げる覚悟にございます!」


三兄弟の働きは、「流石」の一言であった。

俺が語る抽象的な絵図を、彼らは瞬時に汲み取り、

具体的な形へと変換していく。

現場は次第に俺の手を離れ、彼らが自ら判断し、

次々と御瀾の姿を塗り替えていった。


俺が作りたいものを伝えると、

彼らは興奮冷めやらぬ顔で目を輝かせる。


「蒼賡様、貴方様はまことの天才にございます!

 我ら専門の徒が一生をかけて辿り着く答えを、

 いとも容易く示される。なぜ、

 このような理を思いつかれるのですか?」


前世の歴史ゲーム好き故の知識なのだが、

そうとは言えない俺は、

平静を装い、何事もないかのように口を開く。


「買い被りすぎだ。私は天才ではない。

 常に、より良い先へと繋げる術を考えているだけだ。


 例えば、この一振りの剣でさえ、どうすれば

 もっと硬く、鋭くできるかを突き詰めれば、

 自ずと火の温度や鉄の混じり気に至るのではないか?


 その考えは、全ての道具、食物に通ずるだろう──」


尊敬の視線が痛い。だが俺は、不敵に笑って見せた。


その後、漸くかねてより考えていた計画を進めるべく、

龍道を呼び寄せた。


「龍道、瑛南から御瀾へ至る街道整備の全権を握る大役を任せたい。

 半年後、妊娠している妻をこの地に呼び寄せる予定なのだ。


 まずは悪路だ。徹底して路面を均し、叩き固め、

 一切の揺れを感じさせぬほどに道を整えろ。


 この工事は無駄にはならん。

 完成すれば、陸路の輸送を劇的に変える宝となるだろう。」


俺は懐から、小指ほどの厚みがある「板」を取り出し、龍道に手渡した。


「……小石でしょうか……?」


「従来の版築のみではない。要所には、この秘奥を使う。」


現代では糯米石灰と呼ばれる、石灰に砂利、そして煮たもち米の汁を混ぜたものだ。

これを表面に薄く塗り拡げる。乾けば、このように石のごとく硬く、水を弾く。


「ただし──この製法は一切漏れぬよう秘匿せよ。

 これを『龍石膏りゅうせっこう』と名付ける。


 龍道、龍石膏で、この地を真の『礎』へと変えてくれ。頼んだぞ。」


「これは……素晴らしい。何という硬さでしょう。」


「はっ! この龍道、命に代えても秘法を守り、

 半年で御瀾までの道を平らげてご覧に入れます!」


俺は次に龍錬を呼び出し、一枚の図面を広げた。

道の次は馬車だ。この時代の馬車は揺れが酷すぎる。

……妊娠半年の身体では、にわかに舗装した道だけでは厳しいだろう。


「車大工をまとめ、新しい馬車を作ってほしい。」


「新しい馬車……でございますか? 今ある最上の輿では不足だと?」


俺は懸架式シートの説明を始めた。


「そうだ。妻と子のための特製だ。座席を車体に直接固定せず、

 厚く鞣した牛革を用い、座席を四方から『吊るす』のだ。」


「吊るす……? 座面が宙に浮くのですか?」


「あぁ。こうすれば、車輪が石を跳ねても衝撃は革が飲み込み、

 車体に揺れがあっても、中の座席は少し揺れるだけで済む。

 この『浮き椅子』を試行錯誤して形にしてほしい。」


「はっ! この龍錬にお任せください!」


俺は街道と馬車に「龍家式馬車」「龍家街道」と名付けるよう命じた。

これで半年後には紫音を迎え入れる準備が整うだろう。

人心地つき、肩を撫でおろす。


しかし、後にこの街道整備と馬車の事業は

「龍輝愛妻移動」と語り継がれ、

紫音為馬車しおんいばしゃ』『紫音為街道しおんいかいどう』と、

正式名称で呼ばれることはなかった。


俺は何とでも呼んでくれと、

千年の恥を受け入れることになったのであった。


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