外伝・第6話 日常、そして眉壮と補職へ
有能な人材の流入を狙い、眉壮を補職した日のことだ。
俺は胸の奥で父の姿を思い浮かべながら、
威厳が滲むように声を張った。
「元・山岳警備、眉壮──前へ!」
壮が一歩進み出る。
その背筋は、かつて山に潜んでいた賊のそれではなく、
すでに“兵”のそれだった。
「壮よ。お前の湿地帯や山岳での道案内、戦働き……いずれも見事であった。
これまでの忠烈、誠に天晴である。
その功を称え、汝を曲長に任ず。
今後も龍家の盾となり、力を尽くせ!」
「ははっ! 身に余る光栄……感涙の至りにございます!」
「これが証だ。受け取れ」
壮は跪拝し、震える手で「曲長の印」と「軍旗」を受け取った。
「良いか。出自を問わず、手柄を立てる者には等しく報いる。
これが我が龍家の志である。
山賊の頭領から、一軍の曲長へ。
才ある者は、この『壮』に続け!」
授与が終わり、俺は壮に近づく。
「……泣いているのか?」
「はっ。一度は賊に身をやつし、生きてきたこの私が、
名高き龍家の曲長に任じられようとは……。
流民として明日をも知れぬ日々を送っていた頃には、
夢にだに思いませなんだ。
すべては若君の御慈悲ゆえにございます!」
「よせ。俺はただで職を授けたわけではない。
積み上げた手柄で印綬を勝ち取ったのだ。
信賞必罰は世の常。功ある者に報いるのは当然だ」
「若君……何故、それほど慈悲深いのでしょうか。
賊に身を落とす前、都の役人が我らを見る目は、
害虫を見るがごときでした。
なれど若君は、私を人として扱ってくださった……」
「……何度も言わせるな。
俺だって誰彼構わず情けをかけるわけではない。
もし賊として対峙したお前の瞳が濁っていたなら、
あの訴えが偽りと感じたなら、俺は斬っていた。
今のお前があるのは、お前自身の『誠』だ」
「……ありがたきお言葉」
「与えた役職に感謝があるなら、
今まで以上に働き、その忠義と戦果で示せ。
励めよ、曲長」
「ははっ!」
少し間を置き、俺はふと思い出したように口を開く。
「……ところで。飢饉で妻子を亡くしたと聞いていたが、
新しく妻を娶ったらしいな?」
「はっ。若が集落にお戻りになった折、
流民の中にいた未亡人の娘を……。
十も年若き者を娶ってよいものかと悩みましたが、
仲間の勧めもあり、お受けいたしました」
「龍家の曲長が独り身では示しがつかぬ。
娶ったからには、それを強さの源とすればいい」
「ありがたきお言葉……。
実は、その妻との間に、今度子が生まれます」
「……そうか。それはめでたい。
であれば──その命、軽々しく扱うな。
泥をすすり、汚くあがいてでも、生きて帰れ」
帰ろうと背を向けたとき、壮の声が響いた。
「若様……私の命を救ってくださり、誠にありがとうございました!」
胸に温かいものが込み上げる。
それを悟られぬよう、俺は軽く手を振り、その場をあとにした。




