第44話 草創、そして権礎の邁進へ
俺は御瀾を玄綏に相応しい地とするべく、
内政・軍備・都市開発の三本を推し進める。
瑛南でも行っていた、盾の二点支持、槍の横手、竹炭──
それらに、この時代でも可能な施策を更に取り込んでいくつもりだ。
まずは亘江沿いの川賊や運送業者の頭領を呼び出した。
「新しい、城主様が一体我々に何の御用で?」
頭領がこちらの表情を伺うように尋ねてきたので、
有無を言わさぬ口調で告げる。
「今後は略奪など賊の真似は許さん。
もし付近で賊の襲撃があった場合、貴様らの仕業だと見做して殲滅する。」
「それでは我々の生計が立てられない!」
俺は口角を吊り上げる。
「それが嫌なら、荷役の権利を認める代わりに“情報の運び屋”となれ。
賊を見かけたら即座に伝えるのだ。
応じぬ様であれば……わかっていような?
話は終わりだ。帰って部下たちに伝えよ!」
川賊・水運業者を組織化して
賊ではなく“亘江水運組合”として互いに監視させる。
これで亘江の物流の治安が安定化し、
「通行税」が龍家に入るようになるはずだ。
次に、流民や食客に向けた職業安定所として、
城門の近くに炊き出し所を兼ねた「登録所」作り、
技能によって適性を判断させた。
「流民とひとまとめにせず
自らが手に余らぬ業が何たるか、
その口より明らめさせよ!」
鍛冶や製紙、大工などの技術を持つ者。
人医・馬医などの知識がある者。
都の政争に敗れて没落した元官吏など、
読み書きや計算ができる者。
経典を学び、人に道徳を教えられる者。
体躯がよく、屯長や兵として見込みがある者。
何もない者、あるいは申告した結果が奮わない者は、
屯田に回せるだけ回した。
有能な人材が流入するように、
眉壮の功績を認めて役職に就け、その噂を広めさせた。
「壮よ、これまでの忠烈、誠に天晴である。
その功を称え、汝を曲長に任ず!
今後も我が龍家の盾となり、力を尽くせ!」
「ははっ!身に余る光栄、感涙の至りに存じます!
この壮、粉骨砕身、龍家のためにこの命を捧げる所存です!」
龍家では流民や賊上がりであっても評価される──
そう示すことで、野心ある者たちの士官を推進したのだ。
亘江沿いの要衝に堅固な要塞を築き、
都市を守る防御拠点とした。
また、運河の整備を進めて経済と物流を循環させ、
軍事拠点と経済都市の両立を目指した。
「この様なものが必要になるのでしょうか……?
今でも十分に御瀾の地は栄えております。」
「今はわからずとも良い、だが築き上げた時、
龍家は土だけでなく水をも統べる水龍と成る。」
軍備については、御瀾の地元豪族の次男や三男など、
跡継ぎではない者たちを手厚く遇し、近衛兵として募集した。
教養のある兵士を効率よく集めると同時に、
地元豪族との「結束」を固めることが狙いだった。
「家督を継げぬ勇士たちよ、聞け!
この蒼賡もまた次男、行き場のない焦燥を抱えたその心、誰よりも理解しておる!
今こそ我が龍家の門を叩け。その燻りし力を、
この地の安寧のために捧げようではないか!」
そして、南部の広大な土地を版図に加えることを構想し、
秘匿体制のもと、人里離れた地に「工廠」を築き、次代の鉄を打たせた。
「石灰で病(不純物)を抜き、炎の色で刻を測り、油でその魂を定着させよ」
現代の冶金学の一文は、鍛冶屋たちの手で敵の鎧を引き裂く「鋼」をもたらした。
同時に、機動戦の装備刷新も進めた。
幾重にも重ねた紙を漆で黒々と塗り固めた「漆塗り紙甲」。
矢を弾き返す硬度と、鉄甲の半分にも満たぬ軽さが、騎馬の速度を引き上げる。
馬の面輪にも幾層もの和紙を漆で固めた漆黒の馬面を合わせ、
鉄より軽く、革より強靭。降り注ぐ矢を弾き、軍馬の疾走を微塵も妨げない。
鞍の左右に「両あぶみ」を設け、兵たちは馬上で大地に立つが如き安定を得た。
太守直轄の軍用農地では、馬の「燃料」となる大豆と塩を徹底管理し、栽培させる。
狙いは明確だ。
鉄を凌ぐ軽さと防御を誇る「紙甲」。
人馬一体を可能にする「新式馬具」。
そして、栄養価の高い給餌がもたらす、底なしの「持久力」。
「掲げよ漆黒! 我らは黒鋼の意志、疾風の牙!
鋼の鋭さで貫き、黒風の速さで敵を蹂躙するのだ!」
後に龍家の黒鋼驍騎と呼ばれる部隊の誕生となる。
そして、都市開発と同時に
都から流れてきた職人達の技術と知識の粋を合わせた宮殿を築く。
俺はその宮殿を弥安宮と名付けた。
それは愛する妹を命を賭して救ってくれた侍従への
俺からせめてもの餞だった。
「弥安、お前の忠心と犠牲を忘れない為に名を借りた。
天に昇っても、どうか妹とこの龍家の行く末を見守っていてくれ。」
手向けの花にしては、大きすぎて笑われるかもしれないな。
俺は少しだけ可笑しそうに笑みを浮かべた後、
完成した宮殿の前で誰にも見られぬ様、黙祷した。
「これらの富国強兵を推し進め、四年後ついに
『御瀾』が『玄綏』として産声を上げる日が訪れた。」




