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第39話 瑛南、そして内政の発展へ

俺は別司馬として兵の部隊を取りまとめながら、

龍紅に「試したいことがあります」と許可をもらった。


そして当面の間は、以下の基準に沿って

改良を段階的に導入することにした。


一、敵対勢力に真似された場合でも脅威度が低いもの

二、兵や民のためになること

三、自分のためになること


まずは盾部隊の防御の「安定性」を図るため、

盾の二点支持──持ち方を“手”から“肘”で支える方式へと改良した。


これにより、長時間の防御姿勢および

陣形の維持力が向上するはずだ。


「重い一撃を食らっても、手首を挫かずに済みました

 まるで盾が体の一部になったかの様です!」

 

兵達の反応は上々だった。


次に壮に持たせて試した、槍に横手を付けた十文字槍風の改良。

戦場で“刺しすぎて抜けなくなる”という最悪の事態を避けるための工夫である。


壮で試した後は、龍紅と俺の専用に特注品を作り、

その後、槍兵の武器として正式に導入した。


最後が、高品質な竹炭の安定生産による燃料供給と、

そこから生まれる副産物の恩恵だ。


これが一番悩んだ部分だった。


龍紅に窯と製法の秘匿について相談した結果、

「領地内の深い山奥に炭焼きの特区を設け、塀で囲む」と決まった。


出入りは信頼できる龍家の古参兵に任せ、

働き手は流民や困窮者の中から器用な者を選抜する。


衣食住は手厚く保証し、技術の漏洩を防ぐための規律も徹底する。


「ここで行うは、龍家が興す産業の礎となる

 決して口外せぬことだ、漏らした場合は家族と共に刑に処す。」

 

兵に命じて、脅しではないぞと震え上がらせた。


「それにしても蒼賡は、不思議なことを考えつくものだ。」


「仁慧兄、何故、私の“出来るかもしれない”程度の提案を、

こうも簡単に受け入れてくださるのでしょうか?」


「蒼賡が進言した盾と槍は良い物だった。

言われてみれば、何故気付かなかったのかと思うほどの工夫で、

効果は覿面に高い。


治績もある信頼の厚い弟が、

瑛南の地と龍家のために進言したことを斥けるほど、

私は狭量ではない。


とはいえ、挫折したとしても成否は問わぬ。

案ずることなく、値遇を存分に振るってくれ。」


「仁慧兄……ありがとうございます。

必ずや御期待に副い、良き結果で報いてみせます。」


そして出来上がった竹炭を龍紅に報告する。


「これは……本当に竹でできているのか?」


出来上がった竹炭を前に、龍紅が言葉を失うのを見て、

俺は会心の笑みを浮かべた。


「私が知っている竹炭と違い、手で触っても崩れず、

硬く火持ちが良い。煙も臭いもなく、爆ぜることもない。見事だ。」


「蒼賡よ。秘匿したいと言った気持ちが分かるぞ……。

この“黒き宝”は、より一層厳重に秘匿し、城の専売としよう。」


俺が竹炭の陰に隠れた副産物の“価値”を伝えると、

龍紅は竹炭を見つめ、驚きの様子で首を振った。


「信じがたいが……蒼賡が言うのであれば、疑う余地がないな。」


龍紅の反応を見ていて、内心、

敵対勢力に真似された場合の脅威度が

自分で考えていたより高いのではないかと焦りがよぎった。


だが、秘匿の徹底によって、

当面は竹炭の製法は龍家の重要な資源として守られるだろう。


これで竹炭、竹酢液、草木灰──

灰から作る「灰汁石鹸」に、竹酢液で作る「リンス・トニック」が出来た。


竹酢液由来のリンスとトニックだから、

林酢りんす戸入酢とにっくでいっかと名付けだのが──


「蒼賡様、効能が分かり辛い上に……

 何で出来ているか秘匿する気はあるのか?

 髪を潤す潤髪露じゅんはつろ

 髪を通す通髪露つうはつろにでもしておけ。」

 

紫音から駄目出しを受けた。


あぁ……念願の入浴習慣がこれで叶う。


俺はその習慣に、真っ先に龍紅とその妻・揚迪、

そして紫音を巻き込んだ。


最初は道徳的な考えや時代の価値観から、

龍紅ですら難色を示したが、

疲れが取れ、衛生的であることを説き、


「我ら豪族は、都出身の者と違い実利を取るべきだ」


と熱弁した。


龍紅の考えを変えた、最後のとどめ。


「我が主、いかがでしょうか?」

「いつも美しいが……今宵は格別だ」と


それは揚迪の風呂上がりの姿だったのだが──

龍紅の名誉のために秘密にしておく。


「肌の汚れが取れて、髪艶が素晴らしい。」

紫音は入浴より、石鹸と潤髪露が気に入ったようだ。


民の衛生のために、城下には沐浴施設を建設した。

将来的には階級別の入浴施設を段階的に整備していくつもりだ。


流通は、一部の大商人には高品質な竹炭を「高級品」として高く卸し、

民には焼き損じの竹炭などを現物支給で普及させた。


「これが竹炭とは……信じられませぬ」

 城下で沐浴できるとは何と、贅沢な……」

 

商人たちは争って竹炭を買い求めた。

 

また草木灰と竹炭を土に混ぜ込み、

沃土へと変える農法の試行を始めた。


「今までは繰り返し育てると枯れていたのに……」

 こんなにも見事な根の張りが……!

 龍家のご加護に感謝致します!」

 

民から喜びの声が聞こえた。

いわく、龍家は仙術に通じているに違いないと。


こうして湯屋発祥の地となった瑛南は、

他の都市と一線を画した発展を遂げていく。


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