第38話 瑛南、そして国令の印綬へ
瑛南を落としてからしばらく経ち、
親父が都へ贈っていた賄賂がようやく効いたのか、
龍紅のもとに帝から正式に太守の印綬を授けるという使いがやってきた。
「瑛南太守・龍仁慧よ。
この度、前太守が帝に対し抱きし叛意をいち早く察知し、
これを速やかに平らげ、民を塗炭の苦しみより救いし功績、真に殊勝なり。
よって、そなたを正式に瑛南太守へ任ず。この印綬、篤く拝受せよ。」
「ははっ。この龍仁慧、帝の広大無辺なる御慈悲に深く感謝いたします。
帝の御威光を汚すことなきよう、この仁慧、粉骨砕身してこの地を治め、
太平を築いてみせましょう」
「うむ。して……龍仁慧よ。
わしは都からの長旅にて、少々骨が折れておってな……」
「ははっ。はるばる都より大任を果たされし使者殿、
そのご苦労、誠に頭が下がる思いにございます。
別室に美酒と佳人を揃えておりますれば、何卒、旅の疲れを癒やされますよう。
お帰りの際には、この瑛南が誇る数々の名産を、手土産としてお持ち帰りください」
「おお、それは忝い。心遣いに感謝いたすぞ。
お主のその忠義、わしがしかと帝へ奏上しておいてやろう」
使者を手厚くもてなさなければ、
「龍家に反抗の兆しあり」と帝や都宰侍に報告するだろう。
本当に腐りきっている……。
使者が帰った後、しばらくして親父が瑛南の様子を見にやってきた。
龍紅の統治に感謝している瑛南の民たちは、熱烈な歓迎でこれを迎えた。
俺は、親父が今度は何を言い出すのかと、その姿を見つめていた。
「うむ、仁慧、蒼賡よ。
民の心を掌握し、よくぞこの地を平らげた。
積年の宿願、ついにこの瑛南を我ら龍家の手に収めたこと、誠に重畳である。
今後とも精励し、統治に励むがよい。
前の太守は苛政を敷き、民の余力を削り取る愚を犯したのだ。
だがな、取り違えるな。民に媚びる必要などない。
民とは馬と同じよ。長く働かせ、長く利を生ませるよう、
手綱をさばいて管理せねばならんのだ。」
この時代の統治者としては優れているのだろうが、
あまりにひどい言い方に俺は顔をしかめそうになった。
慌てて見られないように少し下を向く。
「仁慧よ。お主に次男が授かった折には、集落(本拠)へと連れてくるがよい。
長男をこの瑛南の跡継ぎとし、次男を我が後継として集落の長に据えるのだ。
この地一帯を我が龍家の直轄とし、本家が盤石の態勢で固める……
これこそが、我が一族が悠久に栄えるための礎となる。」
親父はまだまだ領土を広げるつもりらしい。
一体どこまで突き進む気なのだろうか。
この半年から一年での拡大の速さは急ぎすぎている気がする。
滅びゆく世界は、立ち止まれないほどに既に狂い始めているのかもしれない。
親父が帰った後、
俺は歴史好きな自分の現代知識で、この時代で活かせそうなものを模索し始めていた。
とはいえ、そこまで複雑なものは俺程度の頭脳じゃ無理なんだが……
こんな時が来るとわかっていれば、ちゃんと勉強していたのにな……
いや、こんな時が来るなんて想像できるわけがない。
「さて、現実的な問題。
これから城攻めや内政を考えれば、武具や道具の改良は避けられない。
とはいえ、どこまで研究を進め、どれほど普及させるべきか……。
新技術が敵に漏れれば、それはすぐに自分たちを襲う凶器になる。
技術を磨くだけでなく、流出にも神経を削らねばならない。」
とりあえず、何をするにも龍紅に相談だな……。
知識の出所は……夢や占いとでも言っておくか……。
さて、何から手を付けたものかなぁ……。
そうして選りすぐりの信頼できる者だけを集めていたら、
呂魏が難癖をつけてきた。
「蒼賡様、なにやら古参の重臣らとのみ密かに謀ごとを巡らせておられるご様子……。
いささか水臭うございますな。我らもすでに龍家の旗の下に集いし同胞ではありませぬか。
それとも、我ら降将などは端から信用に値わぬと仰せか!」
(ああ、その通りだ。特にお前はな)
「お主らを疑うなど、決してそのようなことはない。
軍の機密とは、広め方ひとつで勝敗を決するもの。慎重を期さねばならぬ。
また、我らが赤子の頃より尽くしてくれた古参の臣をないがしろにしては、龍家の義理が立たぬ。
お主の武勇、頼りにする折も必ず来よう。その時は力を貸せ。」
「はっ……合点いたしました。
末席の者が過ぎたる口を叩き、失礼つかまつった。それでは、これにて御免!」
やれやれ、どこから耳に入ったのか。
とはいえ、この時代にセキュリティポリシーなんてものもないだろうし。
酒でも奢って飲ませでもしたのだろうな。
俺はその後、アイテムの新たな検証を進めていた。
以前、龍玉がまだ成人前の阿玲だった頃、
「格」のアイテムをあげて返してもらったら没収扱いになって好感度が下がった。
不便すぎるので回避する手段を探していた。
「壮。この特注の横手を付けた槍を“貸して”やる。使ってみてくれ。……どうだ?」
「はっ……。こいつは、とんでもない傑作ですね!
穂先の根元で止まって刺さりすぎて抜けないということがございません!
こんな槍、今まで見たことも聞いたこともありませんよ!」
「そうか、ならいいんだ。一度返してもらおう。
……それで、俺に対して違和感とか何かないか??」
「へい……? 何もございませんが」
「本当に、どこか冷めた気持ちとかないんだな?」
「若にそんなことがあるわけないです!」
「ふむ。なら、大丈夫そうだな。……いや、それならいいんだ。」
(悪いな、壮。
好感度が下がるかもしれない実験を、龍紅や紫音で試したくなかったんだ。
実験台にして申し訳ない)
なるほど。「貸出」なら没収扱いにならないから、
好感度……この場合は忠誠度?を下げることなく能力を上げることができるんだな。
つまり、兵達の装備はこれと同じ原理が動いてそうだ。
こうして瑛南での実験や統治は、ゆるやかに進んでいった。




