外伝・第4話 日常、そして紫音と切望へ
紫音を瑛南に呼び寄せた後、
俺は息抜き――主に紫音のための――として剣の相手をしていた。
俺の腕を狙って、紫音が下から上へ円を描くように切り上げる。
それに剣を吸い付かせるように引き流し、紫音の剣を空へと跳ね上げた。
「参った。蒼賡様、また腕を上げたな」
お手上げと言わんばかりに、紫音は両手を挙げる。
「いや、紫音も強くなっている。
以前よりさらに、俺の余裕もなくなってきた」
最近は紫音の剣の相手をするために、
膂力に頼らない技術を磨いていたりする。
おかげで、以前より“加減”が上手くなった。
怪我をさせたくないからなんだが。
そして、また剣を合わせながら会話を始める。
「蒼賡様。龍紅様と古参の方々、兵たちだけを呼び集めて
人目を忍んで密談しているそうだな。
私にまで隠して……何か企んでいるだろう」
「軍の枢機に関わることなんだ。
古来より『大事を成す者は妻に漏らさず』と言うだろう。
心配してくれるのは嬉しいが、今は見守っていてくれ」
「仕方ない……いいだろう。その言い訳に乗っておくとする。
でも本当は、私が心配で、枢機が漏れた時に
私を疑いの目に晒したくないという気遣いなのだろう。
……隠し通せると思わぬことだ」
俺は“お見通しか”と思いつつ、肯定も否定もしない。
「前々から思っていたが、蒼賡様の考え方は、
世の豪族の男たちと少し違う。
普通の男は、女にここまで気を遣うことはない……。
荒々しい戦場に身を置きながら、身内の心に敏感だ……。
不思議なお方だ」
「悪いか?」
「悪いとは言わん、甘いとは思うが。」
俺は甘いと言われ、苦笑する。
そしてふと、紫音の過去が気になって、
なぜ武芸が好きになったのか聞いてみた。
「そうだな……最初は興味本位だったのだが」
紫音は少し遠くを見るように言葉を続けた。
「白粉をして肌の色を隠して勉強しているより、
無心に剣を振っている方が楽しかったのだ。
剣を振り始めた頃は、父上も苦い顔をしていた。
母上などは倒れんばかりだったが……」
紫音は小さく笑う。
「続けているうちに、私の肌の色を見て
“血かもしれん”と思ったのか、
そのうち何も言われなくなった」
以前、神様が言っていた
“結果から因果に結びつく” という言葉を思い出していた。
設定が、そういうふうに導くのだろうか。
紫音は剣を下ろし、少しだけ視線を落とした。
「それでだな……蒼賡様。
私はそろそろ、子供が欲しいのだ。
沢山産んでみせると約束したのに……
もう半年がたった」
「……すまん」
そう言って紫音が、少し暗い顔をする。
詳細が知りたければ腕輪を使えばいいのだろうが……
相手の内面を覗くようで気が引ける。
俺は自分の記憶を辿り、設定を思い出す。
確か、時期的にはもう少し後だったはずだ……。
「天の授かりものだ。気にするな。
そもそも紫音と結婚してすぐから、
賊の討伐に、地方豪族の制圧、瑛南攻めに統治と……
一緒に過ごす時間が少なかったじゃないか」
「ふっ……そうだな。
私は最低でも六人は産みたいぞ!」
紫音は胸を張って言う。
「そして、もしその中に娘がいて……
その娘が“将軍になりたい”と言ったら、
私の代わりに、その夢を叶えてやってくれないか?」
女将軍か……どうだったか。
そう設定した記憶はあるのだが、
誰をどうしたか、大分朧気だ。
「考えておくよ。
しかしなぁ……自分を差し置いて娘がそうなったら、
紫音が娘を羨ましがる、なんてことはないんだろうな?」
「やぁっ!」
紫音が鋭く剣を振る。
「はっはっは!
そんなこと、するに決まっているだろう!」
「全く、困った母上だな!」
俺は紫音の剣を受け流す。
「さて、蒼賡様。そうと決まればだ」
そう言うと、
紫音は剣を放り投げて、俺の腕の中に身を預けてきた。
俺は優しく抱きしめ、紫音の瞳を見つめ返した。




