第36話 撫民、そして秋の刈り入れへ
その後も、俺と龍紅は地方豪族の制圧を進めた。
南部で最も大きい勢力を崩した後は、
残りの二拠点が降伏勧告に応じた。
東・西部の小規模勢力も、包囲してしばらくすると
あちらから降伏の使者が送られてきた。
北部では、一つを水路を堰き止めた水攻めで陥落させ、
その惨状と陥落の事実が残る二つに伝わるよう、あえて工作した。
その結果、一つは降伏勧告に応じ、
最後の一つは──
俺と龍紅による正門と裏門の同時攻めで、あえなく陥落した。
こうして二ヶ月ほどで、すべての勢力を支配下に治め、
俺と龍紅は集落へ凱旋を果たした。
制圧した集落は、龍家の血縁が治めることになる。
親父が凱旋後の宴で、その封任を布告したのだ。
それが──実は俺が設定したキャラたちである。
名前はご覧のとおりなのだが、
龍買
龍椋
龍銅
龍耐
龍金
龍銀
龍紡
龍納
龍北
正直、覚えておらず、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
歴史シミュレーションゲームで将を増やしたいがために、
ほぼランダムで作成し、都市の発展に便利な
農業・商業・治安・技術・築城といった能力を
得意分野として設定した──
その程度の記憶しか残っていない。
恐らく、それが今回の補任に繋がったのだろう。
民にとって良い施政を行い、安寧ある統治を願うばかりだ。
戦地から戻った、その夜のこと。
静まり返った寝所で、紫音に此度の戦について語っていた。
「仁慧兄上の戦いぶりは、機転、武勇どれも龍家の跡継ぎに相応しかった。
精鋭たちも一糸乱れぬ進退で、手足のように動いてくれた。
だが──」
話の途中で、戦場の惨さが脳裏に蘇り、言葉が詰まる。
「……どうしても解せないんだ。
親の犯した罪を、何も知らない子にまで問うことを。
親は、なぜ己の死出の旅に子を道連れにするのか……」
瞼を閉じれば、攻め落とし奥へ向かった先の光景が浮かんでしまう。
そこには、すでに自ら命を絶った頭領と、傍らで横たわる幼子の小さな骸があった。
俺は紫音に問いかけてしまった。
「俺は、人の上に立つ者として“甘い”のだろうか。
「兄上のようにならねばならぬだろうか」
紫音が、はっきりと告げた。
「ああ、甘い。」
「命を助けられたからといって、すべての者が感謝するわけではない。
世の中はそんなに綺麗ではない。……もし、蒼賡様が逆の立場で、
親も、兄妹も、私も、すべてを斬り伏せられ、
敵に『お前だけは助けてやろう』と言われたとして──」
紫音が、俺の顔を覗き込む。
「その時、『命を救われた、ありがたき幸せ』と、
仇の足を舐められるか?
復讐の“ふ”の字も心に浮かべぬと言い切れるか?
……できぬはずだ。」
「それに、妻や息子だけを情けで助けたとして……その先はどうなる?」
「昨日まで顎で使っていた下男に、自分が使われる屈辱に耐え、
誇りを失い、泥水をすすって生きることが“救い”と言えるか。」
「まだ集落の中に住めればよい。
だが、敗軍の一族など疎まれ、住む家も焼かれ、
最後には流民として野垂れ死ぬ……。
そんな地獄なら、せめて家族と一緒に──となることを責められるか?」
紫音は静かに、だが重く問いかけた。
「龍紅様のようになれぬのなら、蒼賡様自身はどうありたいのだ?
幼子を救いたいと願う慈悲は、己が手の届く範囲、
目の届く場所だけで満足か?」
そこまで言って、紫音はふっと優しく笑った。
「まあ、何も考えずにただ生きておるよりは、ましだ。
立派な頭は何のためかと言いたくもなる。
悩み抜いた先にしか宿らぬ答えもあろうよ。」
「答えが出るまで考え続けるがよいのだ。それもまた務めだ。
……さて、もう寝るぞ。蒼賡様も戦から帰って、
身も心も疲れ切っているだろう。」
俺は、感謝を込めて紫音の温かい手を優しく握りしめた。
「……ああ。ありがとう」
俺はしばらく目を瞑り、答えの出ないまま考え続けていた。
しかし、戦の疲れもあって、気がつけば眠りに落ちていた。
しばらく戦後処理が続き、新しく支配した集落の統治が
ようやく落ち着いた頃には、季節は秋の実りを迎えようとしていた。
収穫が終わり、兵糧の蓄えも十分となり──
そして、瑛南攻めの日がやってくる。




