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第31話 青廬、そして初めての契りへ

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用意された青い天幕に二人で入ると、

薄暗い帳の中には蝋燭の火が揺れ、

一杯の酒と一切れの肉が静かに置かれていた。


まずは婚礼の服を脱ぎ、白い薄衣だけの姿になる。

すると紫音の褐色で美しい健康的な肌が露わになり、

蝋燭の光に照らされて浮かび上がる。

それは思わず息を呑むほど妖艶だった。


俺は緊張で心臓の鼓動が高鳴るのを抑えられなかったが、

紫音の顔を見ると、頬が紅く染まっている。

……紫音も緊張しているようだ。


紫音は結ばれていた髪をほどき、ゆるりと撫でおろす。

この時代、この姿を見られるのは夫となる男だけだ。

思わず見とれてしまった。

そんな俺の様子に気づいた紫音が、そっと微笑む。


一膳の前に二人で座り、

俺は紫音と共に酒肉を分け合い口にして、誓いの言葉を述べる。


「行く末に如何なる幸い、

 如何なる苦難あろうとも、

 此度の酒肉の如く二人して分かち合わん。

 比翼連理の契り、終生変わらぬことをここに誓う」


紫音は静かに応じる。


「貴方が光り輝く陽ならば、

 私はその足元を支える影となりましょう。

 光と影が分かたれぬように、この身もまた、

 貴方様より片時も離れぬことを天に誓います」


次に、お互いの髪を白銀の鋏で切り、

赤い糸で硬く結び合わせて袋に収めると、紫音に手渡した。


「束ねし髪は二人の魂。

 この赤縄に結ばれたる縁は、たとえ刃を以てしても断つこと叶わぬ。

 我ら、今より終生一徳一心なり」


紫音は袋を胸に抱き、深く頭を垂れる。


「この結髪を貴方様と心得、

 いかなる時も、いかなる地にあろうとも、

 終生の宝として肌身離さぬことを誓い奉ります」


誓いの儀を終え、

二人は静かに寝所へと向かう。


紫音は恭しく指を揃え、伏して誓った。


『今よりは、

 この身はこの魂の影。

 すべては君が御心のままに。

 どうか、末長く愛でていただけますよう』


そして、互いの頬にそっと触れ合い、

静かに寄り添うように身体を重ね──

二人は、初めての契りを迎えた。


その夜、俺の胸には様々な感情が波のように押し寄せていた。


設定した紫音と、自由意思を奪った婚姻。

その上、初めてを奪ったという罪悪感と贖罪の念。

紫音の肌に触れた温もりと、胸の奥に残る心地よさ。

そして、これから歩む未来への不安。


それらが渦を巻き、言葉にならぬまま胸を締めつける。


気づけば俺は、眠りながら静かに涙を流していた。


「……寝たまま、泣いているのか?」


紫音は小さく息を漏らし、ふっと微笑む。


「ふふ……剣はあれほど強いのに、不思議な奴だ。

 何か抱え込んで、言えぬ悩みでもあるのだろうな……」


そう呟くと、紫音はそっと俺の頭を胸に抱き寄せ、

包み込むように優しく抱きしめた。


「……婚姻の誓いを立てたのだ。

 私が支えてやる」


その言葉を落とすように囁き、

紫音は静かに目を閉じ、再び眠りについた。


それから、二人の新婚生活が始まった。

とはいっても、成人した俺は本格的に

兄・龍紅を支えるべく、

朝から晩まで私兵の訓練や領地の見回りに追われ、

鎧姿で常に砂埃にまみれている。


紫音は麋寧や揚迪に、

使用人や兵糧の管理、一族の冠婚葬祭の作法などを教えられている。

そのうち、一人で取り仕切ることも出てくるだろう。


紫音に頼まれ手合わせもしているのだが、

最初こそ余裕だったものの、

だんだん手加減が難しくなってきた。


そんな姿を見た兵たちは、

「流石、龍輝様の奥様だ」と持て囃している。

弓腰姫ならぬ、剣腰姫といったところか。


紫音を打ち据えないようにしていたら怒られたが、

俺が「お前の太陽みたいに美しい肌に痣を作りたくない」と言ったら、

紫音は豪快に笑いながら、


「そうか、なら仕方ないな。

 この身体はお前のものだからな」


と許してくれた。


……ただ、その晩の寝所では、

別の意味で許してもらえなかった。


そうしてしばらく経ち、

俺は龍紅と共に、親父に呼び出された。

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