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第27話 下嫁、そして婚姻の懊悩へ

「まずは蒼賡に、恆祥の華家より室を迎える。


華家は尚務監、すなわち龍諂の上司筋にあたる名門だ。


都との気脈を通じ、龍家の威光を都にまで及ぼすつもりである。


恆祥からは直進ではなく、安全な帰路を伝い、


こちらへ向かう手筈もすでに整えておる。


蒼賡は次男ではあるが、正室として遇す。


「名門とて、礼遇に不足はなかろう。」


──勿論、知っている。


だって彼女は、俺が“ゲームの中の俺”のために設定した人物なのだから。


華珠かしゅ。字は紫音しおん


俺が決めたのは、都育ちの官吏の娘で、褐色の美女──


(※顔グラはめっちゃ課金した)


という外側と豪胆・男勝りという内面だけだ。


だが、余白の部分はどうやら自動的に補われるらしい。


そりゃそうだ。


一人ひとりの好きな食べ物や癖まで細かく設定していないのだから、


世界の方で埋められていくのだろう。


……自分好みの女性を設定して、


それを“自分の嫁”にしたという事実が、


今となってはすさまじく胸に重くのしかかっていた。


「次いで、龍玉──静零せいれいの縁付きだがな。」


父は続ける。


「熟考を重ねたが、時勢を読むに、近隣の豪族へ血縁を結んだところで利は薄い。


ゆえに矛先を転じ、亘江かんこうで勢力を拡大している


潭家たんけ』の長男に嫁がせる。


「水に臨む両家が手を結べば──


この地はいよいよ盤石になろう。」


龍玉の嫁入りが、俺が仙人の逸話を聞かせてもらった


あの潭家に決まったのか……。


設定では“有力な一族に嫁ぐ”とだけ書いた記憶がある。


だが、俺の曖昧な設定と、親父の現実的な計画が


妙に噛み合ってしまったらしい。


……これまた、なんとも言えない気持ちになった。


この世界では妹の龍玉──静零。


どうか、幸せになれればいいのだが……。


親父の話が終わると、


重鎮たちが次々と祝いの言葉を述べに来た。


俺はそのたびに、心ここに非ずのまま


表面だけの謝辞を返していた。


ふと、龍玉に目を向ける。


宴席の端で、親父の言葉を静かに聞いていた龍玉は、


ただ、淡々と──しかし確かに覚悟を決めた顔をしていた。


……俺なんかより、よっぽどしっかりしている。


宴会の後、部屋へ戻る前の龍玉に声をかけた。


「静零……不安はないか?」


「蒼賡兄、何を?」


「何をって……お前の婚姻だよ。突然だったから、戸惑っていやしないかと。」


「そっか。うん。字を授かった頃から、近いうちにこの日が来るとは覚悟してたよ。


でも、亘江の潭家とは……さすがに驚いたけどね。


てっきり、同郷の豪族へ嫁ぐものだと思っていたから。」


龍玉は一度だけ小さく息をつき、


それから、ふっと微笑んだ。


「……でも、河の近くなら、珍しい魚や、この地にはない宝もあるかもしれないし。


そう思うと、あちらの暮らしにも少し興味が湧いてくるかな?」


「……本当に、よいのか?」


「蒼賡兄。私たちは龍家の本流だよ。


「家名を背負う覚悟は、この数年でちゃんと固まった。」


「あぁ……。いつの間にそんなに成長したんだ。妹ながら、頼もしいな。」


「ふふ。でも、心配してくれるのは嬉しいよ。


……ねぇ、蒼賡兄。あの日の約束、覚えてる?」


龍玉は少しだけ視線を落とし、


それから、まっすぐに俺を見上げた。


「もし私に万一があれば──必ず助けに来てね?」


「あぁ……必ず違わないと誓うよ。」


龍玉との話を終え、


胸の奥に重いものを抱えたまま振り返ると──


龍紅が、静かに待っていた。


「……少し、鍛錬場で話をしないか。」


龍紅の言葉に従い、俺は静かに頷いた。


鍛錬場へ移り、兄の言葉を待つ。


「蒼賡……此度の下嫁に、お前の心に曇りはないか?」


龍紅は、月明かりの下でまっすぐ俺を見据えていた。


「今ならまだ、お前が幼き頃に想いを寄せた阿京に迎えを遣わしても構わぬ。


昔の多少の諍いなど、龍家の威勢を以てすれば、どうとでもなる。」


そして、少しだけ声を落とした。


「……正室は無理だが、側室として傍らに置く分には差し支えはない。」


「仁慧兄上。今さらこの蒼賡、どの面を下げて彼女に相見えることができましょうか。


ましてや、権勢を笠に強いるなど……男の廃りでございます。」


龍紅は短く息を吐き、目を伏せた。


「……分かった。もはや重ねては言わぬ。」


そして、兄らしい厳しさを帯びた声で続けた。


「だが、一度己が道と決めたからには、心得ておけ。


都より来る彼女も、不慣れな異境の地へ身一つで嫁いでくる。


悲しませる真似はするな。それこそ、龍家の恥だ。」


「……肝に銘じております。仁慧兄上。」


龍紅が去った後、


鍛錬場に静寂が戻った。


俺はふと、夜空を仰ぐ。


月の光が冷たく降り注ぎ、


彼女──阿京の顔が、ほんの一瞬だけ脳裏に浮かんだ。


心のかさぶたが、


少しだけ痒くなった気がした。

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