第25話 新章、そして阿刀の成人へ
あれから、二年弱が経った。
しばらくは無気力な日々を送ってしまったが──
いつまでも立ち止まってはいられない。
龍紅や師範と鍛錬を重ね、阿玲と語らい、
その日その日を必死に生きているうちに……
心の傷には、いつしか薄いかさぶたができていた。
能力もスキルも、順調に伸びていると思う。
龍紅と模擬戦をしても、今では十本に四本は取れるようになった。
勝ち越すには、もう少し時間がかかりそうだ。
龍紅は「兄の威厳があるからな」と涼しい顔をしていたが──
阿玲から聞いてしまった。
……初めて一本を取ったあの日から。
夜になると、龍紅は誰にも見られぬよう、ひとりで鍛錬していると。
好感度やイベントの方は、正直あまり効果が出ていない。
無理に狙う必要もないと判断していた。
一度だけ、街で酔っ払ったおっさんに絡まれていた女性を助ける──
そんなイベントが発生したが、展開が読めたので
おっさんを蹴り倒して、そのまま逃げた。
その後、「俺を探している女性がいる」という噂を聞き、
しばらく市場に行けなくなってしまった。
アイテム集め──あるいはアイテムの“格”上げも、思うようには進まなかった。
市場に行けなかったという理由もあるが、
さすがに穆山の旅で出費させすぎたのか、
親父にせびることができなかったのだ。
一度だけ、「これ絶対、名品だろ……」という剣が
市場に流れていたことがあった。
試しに親父におねだりしてみたら──殴られた。
……出資者がいない状況では、どうにもならない相談だった。
俺の状況は、だいたいこんな感じだ。
そして今も鍛錬場で素振りをしていたのだが──
今日もどうやら、邪魔が入るようだ。
「たーっ! とーっ!」
「こら、阿及!
ここには来ちゃ駄目だと言っただろう」
「及もやる! 及もやる!」
「こら、阿及。
小叔のお邪魔をしてはいけませんよ。
……いつも、ごめんなさいね。
貴方に憧れているみたいで。
そのせいか、夫君は少し寂しそうにしていますが」
そう言って、揚迪はクスクスと笑った。
俺の隣で、短い腕を振り回しながら素振りを真似しているのが阿及。
そして迎えに来たのが揚迪──龍紅の妻であり、阿及の母だ。
龍紅が成人して、まもなく他所の地方勢力から嫁入りしてきた。
……まぁ、俺が設定したんだけど。
揚迪は俺と同じ年齢で、阿及は今で二歳弱だったか。
正直、三百人も作ると“出会ったら思い出す”って感じなんだよな。
歴史シミュレーションゲームで、年の離れた武将を登録しておいて、
ゲーム開始から数年後に加入してきて──
「ああ、そういや登録してたな……」ってなる、あの感覚だ。
「兄上は天賦の才に溢れ、一族の麒麟児と目されるお方です。
嫡子が父である兄上を差し置き、私にこれほど懐くとは……妙なものにございます」
「ふふ、過度に謙遜なさらずとも。
貴方も十分、兄上に劣らぬ一族の麒麟児。
さすがは龍家の血筋。阿及は、貴方の中に──
夫君にもない輝きを見抜いているのかもしれませんよ」
「とはいえ、私にとって夫君こそがこれ以上なく尊きお方。
英明な旦那様を支えることができて……
天が結びし良縁に、日々感謝しております」
「御馳走にございます。揚嫂上ほどの良妻を迎えられた兄上は、
まさに天下一の果報者です。
……私には、毒が強すぎるようです」
「何を仰います。貴方も龍家の血を引く身。
一族の未来を担うため、早く良き伴侶を迎え、家を盤石にせねばなりませんよ」
「それは……」
「その心に、消えぬ火影があること──夫君より伺っております。
けれど、乱世を往く武人が後ろを振り返っていては、
守れるものも守れませぬ。執着を断ち切る覚悟を持たねば」
……いるよな、こういう“自分の正義”を
真っ向から人にぶつけてくるタイプ。
性格の根源を設定した俺が言えたことではないかもしれないが。
「御忠告、痛み入ります。
とはいえ、龍を見渡せば、嫂のみならず、
阿母に第二・第三の夫人と、生歯日繁。
一族の血脈は絶えることなく、次男の私が
急いで身を固める必要もございますまい」
そうなのだ。阿及以外にも──
阿母と、第二夫人である麋崔、
そして第三夫人として迎えた流民長の娘・呂衹が
ほぼ同時期に子をなして、
阿真、阿圭、阿凛
と産まれていた。
自分にとって初めての弟妹たちで、
阿玲のかわいがりようが凄かった。
会話もほどほどにして、
揚迪に俺から阿及を引きはがしてもらい、
鍛錬場をあとにした。
来旬は、ご先祖様が初代皇帝の挙兵に応じた──
龍家にとって特別な日だった。
そしてそれは、つまり──
俺が成人の儀を迎えようとしている、ということでもあった。




