外伝・第1話 日常、そして阿玲と楽器へ
穆山から帰り、阿京が集落を離れてしばらく経った頃。
俺は阿玲から、都・恆祥について聞かれていた。
「二兄、都は賑やかだった? この集落の屋敷とは違うの?」
「そうだな……阿玲の琴で例えると分かりやすいかもしれない」
阿玲が首を傾げる。
「琴は楽器だから、音色の良い木材を選ぶだろう?
それに装飾や絵を施している。
音を出すだけなら必要ないけど、綺麗だから施す。
──それが都の建物だ」
「……じゃあ龍家の集落は?」
「もし琴から装飾をすべて取り除き、
“音さえ出ればいい”と最も硬くて頑丈な木だけで作ったとしたら……
それが龍家の屋敷だな」
俺は石を二つ積み上げる。
この下にある石が、生きていく為に必要なもの。
そしてその上にあるのが、生きる為には必要ないが、
楽しく生きる為に必要な物──「文化」だ。
阿玲が学んでいる琴も、だから「文化」なんだよ。
そして、都はそれが集落よりも多いんだ。
「何となく、わかった気がする。
それじゃ、お屋敷以外にも“文化”は色々あった?」
「そうだな。阿玲が好きなのは……やっぱり楽器かな?
色々あったぞ」
俺は龍諂の説明を思い出す。
「あれが翼竪琴。鳳凰が翼を広げたような形よ。
曲線は瑞鳥の如く優美で、弦をなぞれば
羽ばたきのような清らかな音がこぼれ落ちる。
そして方響琴。方の形ゆえに力強く、四方へ響き渡る。
あれが双龍吟。二本の笛を同時に吹く。
二柱の龍が天へ昇り、競い合うように咆えておるだろう?」
阿玲が目を輝かせて反応する。
「どんな音色なんだろう? 私にも弾けるかな?
阿父にお願いして手に入らないかな?」
「阿玲ならきっと弾けるようになるさ。
ただ、集落の市場に流れてくる可能性は低そうだな……」
俺は苦笑する。
「そっか、残念だね。
でも、もし手に入って練習して弾けるようになったら、
二兄にも聞かせてあげるね」
「あぁ、楽しみにしているよ」
こうして、俺はこの後も阿玲に、
都で体験したことや様子を話して聞かせたのだった。




