184.双子の秘密②
「どうですか、雛菜ちゃん」
神楽を舞い終えて水音さんが背筋を伸ばして正座していた妹ちゃんの前で膝を屈める。
「すっっっっごく綺麗で格好良かった」
「え、ええと……そういうことではなくって」
でも言いたいことはわかる、とてもわかる。
俺も見るの好きだしな、と内心で呟いていると補助をした上で控えている妹分二人も良い感想です、と言いたげに満足そうな顔をしている。
「体調の方、何か変化はありましたか?」
「とりあえず、すっごい興奮しちゃってる!」
水音さんの手を両手で握り褒め言葉を連打しながらテンションをぶち上げているのがもう一目でわかる。
まあ、その調子なのだから間違っても具合が優れていない訳はない。
「効き目はあった、のかな? って」
「んー、確かになんかスッキリしたみたいな?」
「ほんのちょっとだけど、黒いものが抜けて行った気配はあったね」
脱いだヴェールを纏めながらレオさんが言う。
「勿論、弟クンの方からも、ね」
「本当にですか?」
「うん。ただしこのくらいなら何かの弾みで受けてしまってそのまま日常生活を送ってる人もいるくらいのレベルだよ。多少の体調不良とかは出るかもしれないけど」
後ろで虎がこっそり首を捻っているように、得意な人でもかなり注意しなければ視得ないものだった。
俺も事前知識なしで見ていたら分からなかったと思う。
「どういうことなんでしょうか?」
「まあ、どちらにしろおじさまのことですから何かご存知なんでしょう?」
「で、俺らが頭抱えてるとこを見て楽しんでるっすね」
何かを考えながら呟く水音さんの後を栗毛ちゃんと虎が引き取る。
って、人聞きの悪いことを言うなよ。
「そりゃあ、朝から調べに回った上で詳しそうな人に意見聞いてまとめていますから」
とりあえず戻りますか、と拝殿をお借りした以前猫憑きの件で縁があった神社の神主さんに挨拶してから社用車のワンボックスに皆を詰め込んだ。
「さて」
本社に戻り道場に入ってから戦闘時に時々利用する障壁を下敷きくらいの大きさで展開する。
「虎、こいつ割れるか? 素手でな」
「おっちゃんには悪いけど割と簡単っすよ?」
ふんっ、と正拳突きを繰り出せば一瞬耐えたが池に張った氷のように砕けて割れる。
「それを踏まえて……二人とも少し触ってもらえるかな?」
「え?」
「はい」
今度は二枚作り出したそれを双子にそれぞれ触ってもらう。
軽く端っこを握る弟くんに、べったりと手の平を付ける妹ちゃん。そこら辺もキャラ出るな。
「じゃあ、こっち……も頼む」
「うっす」
ちょっと迷ってから、弟くんが触れた方を差し出してそれに虎が拳を突き出す。
「ありゃ?」
「わーぉ」
結果はさっきと異なり、接触した時点で何の抵抗もなく粉みじんに砕け散った。
「で、次はこっち」
「流れとおっちゃんの顔からしてめっちゃ嫌な予感がするんすけど……」
「何ならこれ使え」
手渡した木刀を虎が振り抜くと、良い音をして弾き飛ばされたそれはブイ字に凹んだものの原形は留めていた。
「え? どーいうこと?」
「一番わかりやすいので行くと陰陽ってやつだね」
役目を終えた障壁を分解しつつ説明する。
「鷹史郎君のは魔力などを弱める力、雛菜さんの方は強化する体質……だから僅かな活性化もしていない霊障でも全く気にならない人と、身体の調子を崩すほどになったりする結果に分かれていた」
「「……」」
互いに両手を見た後、顔を見合わせる双子。
「それって雛菜たちが双子だから?」
「そうなのかもしれないし、そうでないかもしれない。でも確実なのは君たちが双子として産まれているという事実」
「「……」」
「今更他の誰かと双子だとか嫌では?」
「まあ、それはそうかも」
「確かに」
同じタイミングで頷き合った後。
「あ、でも、水音お姉さんみたいなお姉ちゃんなら欲しかったかもー」
くるりと振り返って水音さんの所に行こうとする、も。
「流石にそれは見過ごせませんよ?」
「ねえさまは杏のねえさまなんだからね!?」
元祖? 本家? 妹ズが割って入って牽制する。
そのやいのやいのする女性陣を見つつふと考える……水音さんがお姉さん、か。
間違いなく優しいいいお姉さんだろうけど、俺は無意識にそこに甘え過ぎてしまうだろうからたまにチョップやらお玉が飛んでくるあのくらいの人が良かったんだろうな。
「えー? ちょっとくらいいでしょ?」
「昨日から『ちょっと』が過ぎますよ」
「そうそう、ねえさまがいくらいい匂いがするからってベタベタし過ぎ」
……って、何を考えている、俺。
内心で自分の後頭部を叩いてから、姦しい三人を見ながら困ったように笑っている愛され系女子に軽く声をかける。
「モテモテですね」
「すっごく嬉しいんですけど……どうしましょうか」
多分、彼女と同種でそれより枯れた顔で肩を竦める。
「好きにさせておくしかないのでは?」
「雛菜、その辺にしておきな。あんまりお姉さんたちを困らせるんじゃないよ」
「えー」
そのまま三分ばかり経過した辺りで弟くんが止めに入る……やっぱりこの双子は兄妹でいいんじゃないか?
いやでも、反面教師で弟の方がしっかりするというパターンというのもあるのか?
そんな感じで、妹選手権とかも併せて傍観者モードでのんびり見ていたので。
「ところで、先生」
「……」
「あの?」
「……ああ、俺?」
顎を触っていた手で自分を指す。
咄嗟に反応が遅れてしまった。
「その、他の皆さんが学生の中に一人だけ……なのでそういう立場なのかと」
生真面目な顔でそう言ってくる弟くん。
「一応教員免許は持ってるが……それはそうと君の方はよく学級委員やらされるだろ」
「まあ、よく推薦はされます」
「来年は生徒会長もかもねー。おーしが出れば女子票ガッツリ入りそうだし」
「他人事のように言うなよ、雛菜」
混ぜっ返す妹に端正な顔をしかめてからこちらに顔を向き直す。
いや、ホント、真面目か。
「ちなみに、それならばどのようにお呼びすれば」
「ん……」
改めてそう言われるとどうなんだろう、と顎に手を当てていると。
「おっちゃんでいいんじゃねっすか?」
「ねー」
虎の呟きとそれに頷く栗毛ちゃんとワンコちゃんが耳と目に入り……実は前々からちょっと思っていたことへのスイッチが入る。
「……今更っちゃぁ今更なんだけれど」
「うん?」
「どうかしたっすか?」
「俺ってそんなに歳じゃあない気もするんだが」
「「「……」」」
え? 何? 皆、その顔は。




