183.双子の秘密①
「さて、みんな揃ったかな?」
「はい」
通常であれば週二回、多くて三回な第三会議室への集合だけれど今日は昨日に引き続いて、という形になる。
理由は今日の日中調べてきたことを共有するためのもので、当然ながらフルメンバーに加えて当事者の双子も。
準備していた飲み物を配りながら様子を見れば少なくとも表面上は二人とも問題は無さそう……というか。
「おーし、ミックスオレ取って」
「はいはい」
妹ちゃんの方は絶好調だな、理由は何となくわかってきているが。
まあ、全てはおいおい、だな。
「では征司さん、お願いします」
「ええ」
「まず一番重要なことから言いますと、今回雛菜さんの病室にアレが現れたのは七……いや、八割方偶然であろうという形です。特段誰かを狙って放たれたような形跡はありませんでした」
言いながら目線を動かせば心から安堵するような息を吐く水音さんと、あからさまではないものの緊張を緩めている弟くんの様子が見えた。
水音さんは自分が狙われていることの飛び火かと密かに思っていたんだろうな……俺も可能性は低そうだと見積りつつも一瞬考えたから。
「でも、ならどうしてそうなったの?」
「残りの二割というのは?」
レオさんと弟くんの問いは当然の疑問。
「まず昨日のヤツの解析の結果から……昨日の件で発現が促進されたのか、雛菜さんが持っている魔力はかなり優秀な模様で」
「あら、素敵ね」
「才能がありそうだとは思っていたけれど本格的に覚醒するまで刺激することは避けたかったのでこちらの認識が甘かったと言われればそうなります。怖い思いをさせて申し訳ありませんでした」
「ううん。キッチリ助けて貰ったし、水音お姉さんの所にお泊りできちゃったし結果オーライじゃなぁい?」
ならそういうことにしておこうか。
一瞬後ろの方の席で静電気が散ったのは見なかったことにしよう。
「ともあれ、養分を求めて流れていたのがある程度まで近付いて……大体病院の敷地くらいまで入れば間違いなく吸い寄せられることになった、というのが理由の後半」
では前半は? と当然のように全員の目がそう言うが。
「その前に一つ確認したいんだけれど、雛菜さんは鷹史郎君と同じ学校、でいいのかな?」
「うん。出席日数かなりヤバいけど」
「……」
本人は「ここ笑うトコよ?」って感じに指を振るものの、どう反応したものやら。
いや、それよりもこっちだな、言いにくいの。
「そこから、二人が通っている学校から病院の方までほんのりですが……」
「「「?」」」
「怨念、というと大袈裟にはなるんですが微妙に向けられていたものがあり……糸に引っ掛かった独楽が誘導されるみたいに病院に辿り着いたのでは、と」
どちらも呪詛系で親和性があったのもあるだろうけれど。
病院を調べているうちから……いや、到着する前から清霞さんが覚えのある方角を気にしていたから調べたらコレだ。
「あー……おーし、たぶんそれってアレだよね」
「……多分」
「「「?」」」
肩先で髪の毛を回しながら言う妹ちゃんに額を押さえる弟くん……いや、どっちがどっちかわからなくなるがどっちも年下だからそれでいいか。
「何か心当たりが」
「うん。ほら、うちの弟、雛菜と双子だけあってお顔が良いでしょ?」
「「……お、おぅ」」
虎と一緒になって呻いてしまう。
確かにそれは間違いなく認めざるを得ないんだが……自分で言っちゃうかい? それ。
「だからお熱な子も多いんだけど、肝心のおーしはお姉ちゃん好き好きで他の子なんて目もくれないから」
「誰がだ、誰が」
妹に面倒が掛かっているのにそんな場合じゃないだろ? 額を押さえたまま低く呻く弟……いや、王子くん。
成程色んな意味で苦労しているんだな? 必要税だろ、と心の狭い部分では思わずそう呟いているが。
「だから、雛菜ももらっちゃうのよね、女の子からのラヴレター……せめて面と向かって言いに来いっての」
「同感ですね」
「ありゃ、千弦お姉さんと初めて意見一致したじゃん」
「珍しいこともあるものですね」
二人ともめっちゃ笑顔で頷き合ってる。
おー……怖い怖い。
「あの、ちづちゃん? 雛菜ちゃん?」
「うん、どうしたの? 水音お姉さん」
「お姉さまは何も気にしなくて大丈夫ですよ?」
とりあえず、下手に触れない方が良さそうなので……気にしなくていいと言われたのでそのまま話を続けるか。
軽く首を捻りながら清霞さんが判じていた言葉を借りるなら。
「あー……確かに漠然とした強くはない悪意、との判定なのでそれが妥当かもしれませんね」
普段俺たちが相対しているものに比べれば全然弱い、けれど雛菜さんへと向けられた確かな負の感情、それが導火線のようになってしまった、という訳だ。
「さって、それならどうしちゃおっかな? 雛菜、今日はものすごく調子が良いから明日辺り久し振りに登校してぇ」
「頼むから穏便にしてくれよ……」
まあ、弟くん共々命の危機にも瀕したので怒ってもいいとは思うんだが。
何で登校しようという話の中でバットか何かを素振りする仕草が出てくるんだろうね?
「元気なのは非常に結構ですが、話はまだ全部終わってないよ」
「え? どゆこと?」
「何故いきなりそんなに元気か、も検証したいんだけれど」
今日は一日水音さん宅に預けられた上で水音さんの(手持ちの中でも一番大きいサイズと思われる)ワンピース姿だが、それ以外は入院患者らしいパジャマにカーディガンといった装いしか見たことがなかった。
他にも病院や看護師さんに馴染んでいる様などから言ってもかなり入院のベテランなのだが今日に限っては全然そう見えない。
「確認ですが、昨日はあの後ほぼ水音さんと一緒に?」
「うん、そうよ。あと、ここに来るまでも」
ニコッと笑ってブイサインを。
それだけしているなら可愛い子だということを認めるのも吝かではないが。
「あ、セージ。それってやっぱり」
「レオさんは昨日で薄々感付いていましたよね」
「うん」
そう確認し合っている内にもそれが呼び水になったのか女子高生トリオも何かを察した顔をして……。
最後に虎が一休さんみたいなポーズをしながら呻る。
「えーっと、つまり……隊長と一緒だと体調が良くなる?」
「まあ、レオさんや鳴瀬さんとでも同じような傾向は出ただろうけれど水音さんが一番浄化の力強いからな」
「ということは、霊障とかのろ……」
そこまで言いかけてから、慌てて虎が口に手を当てる。
デリケートな話ではあるんだが、でも。
「この際はっきりさせた方が良いと思うので……雛菜さん、大変失礼ですが入院していた理由を差し支えない範囲で教えて頂けますか? 男が聞くとまずい場合なら俺たちは席を外します」
そう口にすると、ケロッとした顔で。
「え? なんか、何でもない時に高熱が出たり血が止まらなくなったりいきなり失神したり? あとは先生が首を捻っていたけどぶつけてもいないのに痣が浮いてきたりとか」
「「「……」」」
心得のある面子がほぼ全員「もしかしてほぼそれじゃないか」という顔になる。
そしてその直後、水音さんが血相を変えて妹ちゃんの手を握る。
「雛菜ちゃん」
「う、うん」
「今から準備をするから、すぐにでも、御清めをさせて貰っていいですか?」
「も、もちろん」
珍しく、というかこの二人でほぼ初めて主導権が逆転したのを見るな。
普段はそんなに押しの強い方ではないし。二人の時だともう少し違うんだが……ってそうじゃねぇよ。
それはそれで好いんだが、今は仕舞って
「僕の方からも是非お願いします」
「はい、勿論です」
水音さんに頭を下げている弟くんに後ろから声をかける。
「それは当然必要なんだが」
「はい?」
「君も一緒に祓って貰った方が良さそうだよ」
「僕が? 至って健康ですけれど」
自分を指差して首を捻る、が。
こちらも根拠もなく言ってはいない。
「受けてみればわかる」
「……」
「大丈夫、嘘なんて吐かないさ」




