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役立たずスキル【ログインボーナス】で捨てられた令嬢が、本当の幸せをつかむまで【9/10(木)書籍2巻発売】  作者: 碧井ウタ
続編(完結済)

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23:これもカレー?

 少しずつ寒さが深まり、雪が降り始めた頃。


 目覚めたジョアンナはベッドから起き出せずにいた。

 布団に包まったまま、しばらくの間、まどろむ。


 ようやくベッドから這い出たジョアンナは、白い湯気が上がるお茶を飲んでひと息つく。


「このお茶を飲むと温まるわね」

「最近のジョアンナ様のお気に入りですものね。そろそろ、このお茶がなくなりそうです」

「わかったわ。後で作っておくわ」


 今、ジョアンナが飲んでいるのは、錬金術師の書いた本に載っていた、身体が温まるお茶。

 寒くなってきたので、ここのところ、こればかり飲んでいる。


 少し体が温まってきたジョアンナは、日課の[ログイン]を押して、[ガチャ]を回す。


「わっ!」


 思わず声を上げたジョアンナに、コリンナが微笑む。


「何かいい物が出ましたか?」

「ええ。久しぶりにデスパル草が出たの!」

「まあ。それはよかったですね!」


 思わず笑顔になったジョアンナは、あることを思い出した。


 ──そうだ! そろそろ、カレーがなくなる頃だから、お義父さまのカレーを出さなきゃ!


 最近は少し落ち着いたらしいケルヴィンだが、やっぱりカレーは好きなようだ。数日に一回くらいの割合で、昼食にカレーを食べている。

 最近のお気に入りは、香辛料で焼いたワイルドボアの入ったカレーなんだとか。


 ──お義父さまの好きな辛口が出てくれるといいのだけど……。


 そんなことを思いながら、ジョアンナは[アイテムボックス]の画面を開く。


 ──カレーは三つあるのね。全部お義父さまに届けましょう!


 ジョアンナは画面を操作していき、確認画面で動きを止めた。


 ──そうだ。何が出るか予想しながら出そうかしら? 前回は中辛だった気がするから……辛口? ううん、甘口かしら?


 そんなことを考えながら、[▲]を一回押して、入力欄に「1」を入力し、[決定]を押した。


「わっ! 中辛っ!」


 画面からカレーが出てくるなり、中辛と書かれた緑の文字が目に入った。


 ──残念。ハズレね。次こそ、甘口!


[決定]を押した画面からは、ジョアンナの予想通り、甘口が出てきた。


 ──やったわ。最後は何にしようかしら?


 すっかり楽しくなってきたジョアンナは上機嫌だ。

 その様子を侍女たちが微笑ましげに見つめている。


 ──最後はお義父さまの好きな辛口!


 最後の予想を決めたジョアンナは勢いよく、[決定]を押した。

 すると、画面から驚くものが出てきた。


「えっ!」


 思わず声を上げながら、それを空中で受け止める。


 ──缶?


 黒い缶だ。ジョアンナの手のひらに収まるくらいの大きさで、白い文字でカレーと書かれている。

 裏返してみたジョアンナは目を丸くする。


 そこにはカレーの作り方が書かれていたのだが、箱のカレーとは全く異なる作り方が書かれている。


 ──この缶に入っているのは「カレー粉」というもので、粉タイプのものみたいだわ。


 四種類目のカレーが出てきたことに驚いたジョアンナは、しばらくの間、ぼんやりとカレーの缶を見つめていた。




「これが、カレー粉で作ったカレーか……」

「いつものカレーと少し香りが違うわね」


 新しいカレーに瞳を輝かせるケルヴィンの隣で、セリーナが興味深そうにカレーの香りを嗅いでいる。


「あれ? いつものカレーよりサラッとしてる?」

「作り方が違うからでしょうか。色も少し違いますね」


 ヴィンセントとジョアンナは顔を見合わせる。


「ん? これは美味いな」

「なんだか、スッキリした口当たりね」


 ケルヴィンとセリーナの言葉通り、カレー粉で作ったカレーはスープがサラッとしていて、香辛料の香りも強く感じる。


「ルウのものとは味わいが違いますね?」

「そうだね。同じカレーなのに不思議だ」


 そんな感想を言い合っているうちに、ケルヴィンはお代わりをしていた。

 辛いものが好きな彼にとって、このカレーはきっと好きな味だ。


 ──もしかしたら、お義父さまの食事がまたカレーばかりになってしまうかも?


 そんなことを思ったジョアンナの瞳に、物憂げなセリーナの姿が映った。

 ジョアンナの視線に気がついたセリーナは、力なく笑う。


 そうして、ジョアンナがセリーナと視線を交わしている時。

 ローザは手を止めて、じっとカレーを見つめていた……。



 その翌日。驚く知らせが届いた。

 なんと、ローザがルウやカレー粉を使わず、カレーを作ることに成功したのだ。



 昼食の時間。食堂は異様な空気に包まれていた。


 いつもは一緒に席に着いているローザが、給仕たちに混じって壁側に控えている。彼女の近くには料理長の姿も見える。

 最後に食堂にやってきたケルヴィンが席に着くと同時に、給仕たちが一気に動き出した。


「カレーでございます」


 静かに置かれた皿の上には、肉、人参、ジャガイモ、玉ネギといった馴染みの食材が入っている。

 見た目や香りも、よく知っているカレーだ。


「これはカレーだな」


 驚いたようにケルヴィンが呟けば、その隣でセリーナが静かに首を縦に振る。


 一度、視線を合わせた四人は、同時にカレーを口に運んだ。


「カレーだな」

「カレー、ね」


 驚いた表情で見つめ合う、ケルヴィンとセリーナ。


 少しサラッとしているが、間違いなくカレーだ。

 嬉しくなってローザに視線を向ければ、緊張した面持ちでこちらを見る彼女と目が合った。

 思わず微笑んで首を縦に振ると、ローザが安心したように笑う。


「すごいな。本当に作ってしまうとは……」


 隣からぽつりと呟いたヴィンセントの言葉が聞こえ、ジョアンナは嬉しそうに頷いた。




「カレー粉で作ったカレーを食べた時に、急に視界が開けたというかレシピが閃いたんです」


 食後に、ケルヴィンから料理の説明を求められたローザは語り始めた。


「これまでルウと全く同じものを作ろうと思っていたのですが、なんというか……この料理はもう少し自由なものであることに気がついたんです」

「自由?」


「はい。カレー粉の缶に書かれた作り方には『お好みで味を調えてください』と書かれていて、そこでハッとしたんです。食べる人の好みに合わせて香辛料を調合して作るのが、カレーという料理なのではないかって。それに気がついたら、急にレシピが浮かんで……」

「なるほど……それで完成したと」


 髭を撫でながら、ケルヴィンが感心したように呟く。


「いえ……実は、お出ししたカレーは、まだ完成したとは言えないんです。昨日食べたカレー粉に入っているいくつかの香辛料にはわからないものもあって……」

「えっ! そうなの? カレーだったわよ」

「ああ。美味しかったが……」


 困惑した顔でケルヴィンとセリーナが顔を見合わせる。

 ジョアンナも驚きに目を見開いた。さっき、口にしたのは確かにカレーの味がしていた。


「他の香辛料を代わりに入れてみたのですが、カレー粉のカレーより香りが劣るんです」

「なるほど……。では、ローザが納得するカレーができるまで、研究費を支援しよう」


 悔しそうに告げたローザをしばらく見つめていたケルヴィンは、そんな提案をした。

 その言葉にローザは目を丸くする。


「また、貴方は美味しいカレーが食べたいだけでしょう?」

「いや……」

「父さまはカレーが好きだからな」


 バツの悪そうなケルヴィンを中心に、食堂は笑いに包まれたのだった。

本日、「マンガがうがう」でコミカライズの更新日です。

よろしくお願いいたします!

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