12:マヨネーズの開発
最近、屋敷の料理人たちは、マヨネーズを使った独自の料理を作ることに熱を上げている。
ジャガイモの代わりに、他の野菜でサラダを作ってみたり。
タルタルソースに入れる食材を変えてみたり。
毎日、大量にマヨネーズが消費されていく。
そこで、ケルヴィンとヴィンセントは、マヨネーズの開発に乗り出した。
マヨネーズについてわかっているのは、異国の調味料ということだけ。
屋敷の一階に新たに作られた研究室では、料理長を始めとする四人の人たちが、マヨネーズの開発に臨んでいる。
色々と試しているようだが、あまり上手くいっていないようだ。
ジョアンナがヴィンセントと一緒に研究室に様子を見に行くと、四人が顔を合わせて難しい顔で考え込んでいるところだった。
「どうだい?」
「それが、今日も手ごたえがなくて……」
ヴィンセントの問いかけに、眉を下げて料理長が答える。
この研究室には、驚くほど多くの食材がある。
一番多いのは、瓶に入ったミルクだろうか。
少しずつ色味の違うミルクが何本も並んでいる。
作業している台の上には、何種類もの果物や、陶器の器などが置かれている。
近くにあった器を覗き込めば、ミルクらしき液体の中に白いものが浮いていた。
「マヨネーズは酸味があるので、酢や果物などの酸味のあるものを様々なミルクに混ぜてみたのですが、どれも分離してしまっています」
「白いからミルクは入っているだろうと思ったけど、もしかして違うのかな?」
「他の白い液体を探してみるべきかもしれませんね」
力なく首を左右に振りながらそう言った料理長の顔には、隠し切れない疲労が見えた。
この部屋にいるマヨネーズの開発にかかわる人は、総じて顔色が悪い。
ヴィンセントたちが話し合っているのを聞きながら、ジョアンナは考える。
──私にも、何かできることはないかしら?
ジョアンナは台の上に置いてあったマヨネーズの容器を手に取り、指に乗せて口に含んでみる。
──確かに皆が言っているように、酸味を感じるわ。この独特の風味は何かしら。
何度かマヨネーズを単体で食べているうちに、頭が混乱してきたのか、どんどん味がわからなくなってくる。
──これを何日も繰り返していれば、疲れるはずだわ。
頭の中で白い液体についての情報を探してみるものの、思いつくものがない。
──あっ! ディーノなら何か知っているかもしれないわ。
様々な国に足を運んで薬作りをしているディーノなら、ジョアンナの知らない食材をよく知っているはずだ。
その日の夕食の席で、ヴィンセントはディーノに尋ねた。
「ディーノ。何か白い液体の食材か素材に心当たりはないかな?」
「白い液体、ですか? 何に使われるんでしょう?」
「今、マヨネーズを一から作れないか研究しているんだ。マヨネーズは白い色をしているから、様々な種類のミルクを集めてみたのだけれど……どうやらミルクではないようなんだ」
ヴィンセントの話を聞きながら、ディーノは記憶をたどるように考え込む。
「木の樹液に白いものがあると聞いたことがありますが、食べられるものかまではわかりません」
「そうか……、情報をありがとう」
力なく笑ったヴィンセントをしばらく見つめた後で、ディーノが言いにくそうに口を開いた。
「あの、白い液体の情報ではないのですが……料理人をしている私の妹はそういったことが得意なので、もしかしたらお力になれるかもしれません」
「はじめましてっ! ローザと申します!」
そう元気よく挨拶して、屋敷にやってきたのはディーノの妹のローザだ。
背が高く、ハキハキと話す。
明るい笑顔が印象的なローザは、髪を頭の高い位置でひとつに束ねている。
それが、元気な彼女によく似合っている。
マヨネーズの開発が難航していると知ったディーノの紹介で、屋敷に来ることになったローザ。
子供の頃から料理が大好きだった彼女は、ディーノと一緒に彼らの祖父に連れられて様々な国に行ったことがあるそうだ。
行く先々で料理を習ったり、多くの料理や食材に触れたりしながら育ったこともあり、色んな国の調理法や食材に詳しいらしい。
そんなローザが授かったスキルは【料理】なのだが、スキルを授かる前から彼女の舌は特別だった。
ひと口食べれば、料理の中にどんな食材が入っているのかが、わかってしまうのだ。
そんなローザならば、もしかしてマヨネーズの作り方がわかるのではないか、というディーノの話を聞いて屋敷に来てもらうことになったのだ。
隣国に住んでいる彼女は、ここ数年は料理人としての腕を磨くために様々な土地を渡り歩いている。
年中、世界中を飛び回っていてほとんど家にいない彼女は、少し前まで他国に行っていて、連絡があと少し遅ければまた次の旅に出ていたそうだ。
マヨネーズという未知の食材に強い興味を示したローザは、すぐにマヨネーズを見たがった。




