10:実食
早速、マヨネーズを食べてみることにした四人のもとに、ひと口サイズに切った野菜が届いた。
袋の裏の説明には、野菜にかけるだけで食べられると書いてある。どんな味がするのか、楽しみだ。
ジョアンナはヴィンセントに見守られながら、マヨネーズを手に取った。
向かいの席では、セリーナがマヨネーズの袋を開けている。
まずは、袋の裏にある説明の図を見ながら赤い蓋を取り外し、中の銀色の薄い金属のようなものを外す。
すると、花のような形の穴が開いているのが見えた。
その穴に鼻を近づけて匂いを嗅いでみると、少し酸っぱいような匂いがする。
ジョアンナは嗅ぎ慣れない匂いに、思わず顔をしかめてしまう。
ヴィンセントも彼女からマヨネーズを受け取り、同じように匂いを嗅いだ。
「初めて嗅ぐ匂いだ……」
酸っぱいような複雑な匂いに、二人は不安そうな表情で顔を見合わせる。
「ジョアンナ、毒は大丈夫なのよね」
同じようにマヨネーズの匂いを嗅いでいたセリーナも、苦い顔をしている。
「はい。大丈夫です。品質も『良』なので、腐ってもいないようです」
その言葉にホッとした表情を見せるセリーナ。
赤い蓋を回して取りつけてから、少し出っ張った部分に爪を引っ掛けて開けると、丸い小さな穴が開いていた。
どうやらこの穴から、中に入っているマヨネーズが出てくる仕組みのようだ。
──複雑な容器だけど、面白いわ。
早速、野菜にかけてみる。
容器を逆さにして、持っている柔らかい部分に力を込めると、中から薄い黄色のドロッとした粘度のある液体が勢いよく出てきた。
「なんだか、柔らかいものみたいだね」
「はい。このガラスのような透明な容器も、柔らかくて不思議な感じがします」
「ははは。本当だ。これは面白いね」
たっぷりとマヨネーズを自分の皿に載せたヴィンセントの表情は、どこか楽しそうだ。
マヨネーズは少し艶があり、薄く黄色がかったような白い色をしている。
──チーズを使ったソースに似ているわ。どんな味なのかしら?
四人は顔を見合わせて、同時にマヨネーズのかかった野菜を口に運んだ。
静かな部屋には、シャクシャクと野菜を咀嚼する音が響く。
野菜を飲み込むと、四人は顔を見合わせて笑った。
「美味しいわね」
「はい。お義母さま。コクがあって野菜に合いますね」
「これは父さまが好きそうな味ですね」
「ああ、初めて食べる味だが、なんだか癖になる不思議な味だな」
「袋の裏に書いてあったポテトサラダというものも、明日にでも作ってもらいましょうか?」
「それはいいな。明日の朝食に出してもらおう」
翌日。
いつもはそれぞれの部屋で朝食を摂る四人は食堂に集まった。
テーブルには、料理長に頼んで作ってもらった茹でたジャガイモをマヨネーズで和えた──ポテトサラダが並んでいる。
これが驚くほど美味しくて、あっという間になくなってしまった。
ポテトサラダを気に入ったケルヴィンの要望で、その日の昼と夜にもポテトサラダを作ってもらうことになったのだが、その分のマヨネーズを[交換]で手に入れた時に事件は起こった。
ジョアンナは、[アイテムボックス]から五本のマヨネーズを取り出して、厨房へ届けてもらおうとしていた。
その時になんの気なしに袋に目を向けると、袋に別のレシピが書かれていることに気がついたのだ。
「卵サラダ?」
袋の裏に書かれているのは、茹でた卵をマヨネーズで和えたサラダのようだ。
『パンに挟んで食べると美味しい』と書かれている。
すぐにマヨネーズをケルヴィンに届け、昼食は四人で卵サラダのサンドイッチを食べることになった。
「これが卵サラダね。どんな味なのかしら? 楽しみね!」
卵料理が好きなセリーナは、瞳を輝かせながらサンドイッチに手を伸ばした。
「……ん。まろやかで美味しいわ」
サンドイッチを食べ終えたセリーナは、うっとりとした表情でお茶をひと口飲んだ。
ジョアンナもサンドイッチを手に取った。
黄色が鮮やかな卵サラダは艶があり、美味しそうだ。
ひと口食べれば、ジョアンナは驚きに目を見開いた。
白身の食感と黄身のコクが混ざり合い、そこへマヨネーズの塩気と酸味が加わり、なんとも言えない癖になる美味しさだ。
「ジョアンナ、美味しいね」
「はい。いくつでも食べられそうな優しい味ですね」
ヴィンセントと感想を言い合いながら食べていると、難しい顔で考え込むケルヴィンが視界に入った。
「父さま、どうかしました?」
「いや。今朝、食べたポテトサラダをパンに挟んだらどうだろうか……」
その言葉に、ジョアンナはハッとする。
──確かに、ポテトサラダもパンに合いそうだわ。
調理場に確認すると、昼食用にジャガイモを茹でていたらしく、すぐにポテトサラダを用意してくれた。
「これは……美味しいな」
ケルヴィンの言葉通り、ジャガイモの甘味を感じるポテトサラダもパンによく合う。
それから、何度もマヨネーズを出すうちにわかったことだが、マヨネーズの袋は全部で四種類あった。
表は全て同じ物だが、裏に書かれている『マヨネーズの美味しい食べ方』の部分だけが異なるのだ。
・茹でたジャガイモを使った、ポテトサラダ。
・茹でた卵を使った、卵サラダ。
・茹でた卵を使った、タルタルソース。
・パンに好きな具材とマヨネーズを載せて焼く、調理法。
新しい袋が出るたびに集まって食べているうちに、皆マヨネーズに夢中になってしまった。
おかげで、余っていたコインはあっという間に減っていき、使いどころがないと思っていた[チャージ]や[コイン購入]が大活躍だ。
そんな毎日を過ごしていく中で、少しずつ溜まっていくものがある。
それは──マヨネーズが入っていた容器と袋だ。
この容器や袋は、ジョアンナがこれまで見たことのない不思議なものだった。
袋に使われている塗料は鮮やかで美しいだけではなく、水に濡れても、強くこすっても全くにじまない性質がある。
容器は透明で一見するとガラスのように見える。
しかし、ガラスとは違い、柔らかくて落としても割れない。おまけに軽い。
ジョアンナはこの不思議なガラスのような容器に、強い関心を抱いていた。
しかし、この容器は【鑑定】で調べてみても、わからないことだらけなのだ。
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◼︎マヨネーズの容器(汚れている)
異国の素材を使った容器
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「異国の素材?」
マヨネーズが異国の調味料であることから予想していたが、この容器の素材も異国のものらしい。
「異国って、どこの国なのかしら? ヴィンセント様ならご存知かしら?」
療養中、ヴィンセントは多くの本を読み、様々な素材について学んでいた。
そんな彼なら、この素材についても何か知っているのではないか。
そう考えたジョアンナは、ヴィンセントに聞いてみることにした。




