09:新しいポーション?
一緒に昼食を摂ることにした、ジョアンナとヴィンセント。
今日のメニューは初めて食べる料理で、パージャという隣国の伝統料理だ。
最近、領内にパージャの美味しい店ができたらしく、リネハンの住民の間でパージャが大流行しているのだとか。
パージャは野菜や肉などがたっぷり入ったスープに、ライスという麦に似た穀物を入れた料理だ。
使用する具材やスープの味を変えることで、その種類は無限にあるのだという。
「辛い……けど、美味しい!」
ジョアンナたちが食べているのは、赤い色をしたパージャ。
口に入れて最初に感じるのは、香辛料が溶け込んだ赤いスープの辛み。その後を追うように旨味が口の中に広がる。
小さく刻まれた野菜はどれも驚くほど軟らかい。
中でもジャガイモにはスープの味がよくしみている。
──これは……鶏肉かしら?
食べやすい大きさにほぐした鶏肉には焼き色がついていて、香ばしさを感じる。これが驚くほど美味しい。
「うん。これは温まるね。寒くなるこれからの季節にピッタリだ」
「ライスは初めて食べましたが、サラリとして美味しいですね」
「スープはしっかりとした味だけど、ライスがあることで優しい味わいになって食べやすくなるね」
初めて食べる白い小さな粒状のライスは、さっぱりとしていていくらでも食べられそうだ。
パージャを食べ終えれば、ヴィンセントが言っていたように身体の芯からポカポカと温まっているのを感じる。
リネハンの冬は驚くほど寒いので、真冬にこのパージャを食べたら身体が温まりそうだ。
食後のお茶をひと口飲んだジョアンナは、ヴィンセントを見て嬉しそうに笑った。
──こんな風にヴィンセント様と二人でのんびりと昼食を摂るのは、久しぶりだわ。
毎日、一緒に昼食を摂っていた頃が懐かしい。
――そうだわ! せっかくだから、一緒に[ガチャ]を回してみようかしら?
ジョアンナは瞳を輝かせながら、口を開く。
「ヴィンセント様! 久しぶりに一緒に[ガチャ]を回しませんか?」
「ああ、いいね! ジョアンナは何が出ると思う?」
両手で頬を挟みながら、ジョアンナは考える。
──昨日は……確か、塩だわ。だとすると、そろそろポーションかしら? あっ、でも、鉄鉱石もよく出るし……。
最近よく出るのが、塩と鉄鉱石だ。
「昨日は塩が出たので、今日は初級ポーションにします」
「ジョアンナは初級ポーションか……。じゃあ、俺は鉄鉱石……いや、やっぱり銅鉱石で!」
そう言って笑い合った後、ジョアンナは【ログインボーナス】の画面を出した。
慣れた手つきで画面を操作し、[ガチャ]を回していく。
[スタート]を押すと、上下左右に並べられた四枚のカードの上を、光が右回りに円を描くように移動する。
その動きを目で追いながら、[ストップ]を押した。
カードの上をグルグルと回っていた光の動きは徐々に遅くなり、右のカードの上で止まった。
そして、すぐにカードがめくられる。
いつもよりドキドキしながらその様子を見ていると、見たことのないカードが出てきた。
──マヨネーズ? これは初めて出るものね。
カードには、調合室でよく使っている三角形のフラスコのようなものが描かれている。
色は白に近い黄色で、フラスコの上には赤い四角の蓋のようなものが載っている。
「ジョアンナ、何が出たの?」
ワクワクした表情のヴィンセントは瞳を輝かせながら、ジョアンナを見つめている。
「初めてのものが出ました。『マヨネーズ』というものなんですけど……」
「マヨネーズ?」
「ヴィンセント様はご存知ですか?」
「……いや、初めて耳にする名前だ」
──フラスコに似ているから、何かの素材? それとも蓋のようなものがついているから、ポーションかしら?
薬作りに使えそうなアイテムではないかと、当たりをつけたジョアンナの瞳は輝いた。
今すぐに取り出して、どんなものか確かめたい気持ちが湧き起こってくる。
──聞いたことのない物だし……まずは、お義父さまへ報告ね。
[ガチャ]で出たアイテムは好きなタイミングで使っていいことになっているが、貴重な物やなんだかわからない物が出た時にはケルヴィンに相談することになっている。
ジョアンナはケルヴィンとの取り決め通りに、マヨネーズについて報告するための手紙を書き始めた。
その日の夕食後。
皆でマヨネーズについて相談することになった。
ジョアンナとヴィンセントは並んで座り、その向かいにはケルヴィンとセリーナが座る。
それぞれの手には、ジョアンナが書いた手紙がある。
「瓶に入っているから、液体かしら?」
手紙の絵を見ながら、セリーナが呟く。
「ディーノも知らないもののようだ。他にも執務室にいた者に尋ねたが、マヨネーズを知る者はいなかった」
髭を撫でながらしばし考えた後、ケルヴィンがジョアンナに視線を移す。
「ジョアンナ、マヨネーズは[交換]にもあるんだね」
「はい。マヨネーズはコイン200枚です」
[交換]のボタンを押した画面では、その名の通りコインと引き換えに[ガチャ]で出るアイテムを手に入れることができる。
一部のアイテムは対象外となるようだが、マヨネーズは[交換]の画面に出てきたので引き換え可能である。
マヨネーズを[交換]で手に入れるのに、必要なコインは200枚。
初級ポーションや初級毒消しポーションと同じ枚数だ。
コインの数に応じて取り出せるアイテムの価値は上がっているようなので、マヨネーズはポーションと同じくらいの価値の物なのだろう。
「父さま。とりあえず[交換]を試してみませんか?」
「そうだな……。ジョアンナ、[交換]を試してくれるか?」
ジョアンナは[交換]の画面を開いた。
画面には四角の枠が、縦にいくつも並んでいる。
枠の中には、左から──アイテムの絵、アイテムの名前、交換に必要なコインの数、[交換する]と書かれたボタンが並んでいる。
ジョアンナはマヨネーズの枠の[交換する]を押した。
すると、すぐに確認画面が出てくるので、そこで「1」を入力して、マヨネーズひとつとコイン200枚を交換した。
次に、ジョアンナは[アイテムボックス]の画面を開き、マヨネーズを取り出してみる。
てっきりフラスコのような瓶が出てくるものと身構えていたジョアンナだが、画面から出てきたのは透明な薄い袋で包まれた柔らかい物だった。
想像もしていないものが出てきたことにジョアンナは目を丸くする。
「なんだか変わった袋だな」
「ええ。透明な袋なんて見たことがないわ」
「裏には『野菜などにかけてお召し上がりください』と書いてあるな。食べられるものなのか?」
「ええ。『美味しい食べ方』という所には、マヨネーズを使った料理のレシピも書かれているわね」
ケルヴィンとセリーナは不思議そうに袋を見つめている。
透明な袋の表にはマヨネーズと書いてあり、裏には容器の使い方や保存方法、美味しい食べ方などが図入りで書かれている。
「『ポテトサラダ』という、ジャガイモを使ったサラダのレシピが書いてありますね」
「どうやら、マヨネーズは食べ物で間違いないようだね」
ジョアンナとヴィンセントは、並んでマヨネーズの袋を見ながら頷いた。
──そうだわ! 【鑑定】で調べてみれば何かわかるかもしれないわ。
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◼︎マヨネーズ(品質:良)
異国の調味料
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スキルを使って確認してみたが、やはり調味料のようだ。毒なども含まれていない。
異国の物みたいだが、袋に書かれている文字はこの国の文字なのがちょっと不思議だ。
「【鑑定】で見てみたのですが、異国の調味料みたいです」
──異国って、どこの国なのかしら?
初めて目にする珍しい食材に、ジョアンナの瞳は好奇心の色を纏う。
そんな彼女の表情を見ていたヴィンセントの顔に、柔らかい笑みが浮かんだ。




