05:連続ログイン:1300日目②
「あっ! [コイン購入]もありましたね。どんなものなのか、すぐに確認しましょう!」
フレッドは思い出したかのように声を上げて、ジョアンナの目の前にある空間に視線を移した。
すっかり[コイン購入]に興味が移ったらしい彼は、見えないはずの画面がある場所を真剣な目で見つめている。
その瞳は抑えきれない好奇心の色で溢れ、まるで子供が新しいおもちゃを目にした時のようだ。
それがなんだかおかしくて笑いそうになったジョアンナは、小さな咳を数回して気持ちを切り替えた。
「それでは、[コイン購入]の説明画面を開きます」
そう言い終わると同時に、ジョアンナは[コイン購入]のボタンの右上にある[?]を押した。
────────────────────
■コイン購入
チャージされているお金を使い、コインの購入ができます
※ 購入できるコインの枚数は、1日100枚までです
■使い方
① 購入するコインのボタンを押します
② 金額を確認し[はい]を押します(やめる時は[いいえ]を押してください)
※ 購入したコインは、いかなる理由があろうとも返品できませんのでご注意ください
※ チャージしている金額が足りない場合は、画面の案内に従い必要な金額をチャージしてください
────────────────────
名前の通り、チャージしたお金でコインを購入できるスキルのようだ。
ジョアンナは画面を書き写して、二人に渡す。
「これは面白い! お金と何かを交換するスキルなんて初めてだ!」
フレッドは紙を見ながら、興奮した表情で瞳を輝かせている。それから、一心不乱に何かを紙に書き始めた。
その様子を眺めながらお茶を飲んでいると、小さな布のようなものを載せたトレイを持ったダニーが近づいてくるのが見えた。
そのトレイを受け取ったヴィンセントは、ジョアンナに視線を向ける。
「ジョアンナ、ちょっといいかな? とりあえず、これを全て[チャージ]してみてくれないか」
ヴィンセントがトレイに載った布を開くと、中には金貨が五枚──50万ゴルドが入っていた。
ふと、視線を感じて顔を向けると、フレッドが手を止めてこちらを見ている。彼の関心はこれから試してみる[チャージ]に移ったようだ。
「それでは、[チャージ]のボタンを押します。説明画面に書いてあったように、画面の上部分に『お金をこの中に投入してください』という文字が出てきました。その文字の下に、このくらいの大きさの黒い丸があります」
画面に出てきた黒い丸は、ジョアンナの両手の人差し指同士、親指同士をくっつけた時にできる丸と同じくらいの大きさだ。
その黒い丸はなんとも不思議な揺めきがあり、見ていると吸い込まれそうな感じがして少し怖い。
ジョアンナは金貨を一枚手に持ち、黒い丸に直接触れないように画面の少し上から落とした。
手から離れた金貨はまっすぐ落ちていき、黒い丸に触れた瞬間──音もなく画面に吸い込まれるように消えてしまった。
「わっ!」
驚きに声を上げたジョアンナの目の前に、すぐさま新しい画面が出てきた。
────────────────────
100000ゴルドがチャージされました
────────────────────
「わぁー、本当に金貨が消えたぞ! これはどうなっているんだ?」
少しうわずった声でそう言ったフレッドは、金貨が消えた場所をいくつかの魔道具で調べた。
「少し魔力濃度が高いが他の画面と同じくらいですね。温度も、空気の流れも、特に異常はなしか……」
調べた値を書き写してから、フレッドは勢いよく紙に何かを書き出した。その口からは、時折、聞き慣れない専門用語がこぼれている。
しばらくその様子を見ていると、フレッドは急に手を止めて顔を上げた。
その瞳は力強く光り、なにか良いことを思いついたと物語っている。
「ジョアンナ様以外が黒い丸の上にお金を落としても、同じようにチャージされるのでしょうか?」
そう言いながら、すでに腰を浮かせている。
そんな彼に金貨を一枚手渡し、黒い丸がある場所を手で示した。
「えっと……、黒い丸はこの辺りにあって、このくらいの大きさです」
説明を聞いたフレッドは黒い丸の中心部分の上で金貨を持ち、真剣な表情でジョアンナを見つめた。
「ここで、大丈夫でしょうか?」
「はい。そこから金貨を落としてもらえば大丈夫です」
「では、手を離します」
そう言い終わると同時に、フレッドはそっと金貨から手を離した。
黒い丸に金貨が触れた瞬間──金貨は画面をすり抜けてテーブルに落ちて転がっていった。
「えっ?」
そんな言葉が全員の口から漏れた。
驚きに目を丸くした皆の視線は、転がるコインを追っている。
テーブルの上を転がっていたコインが勢いを失くし、動きを止めた。
しばらく、無言でコインを見つめていると、弾かれるようにフレッドが笑い声を上げた。
「ははは……。やっぱり駄目でしたかー。他の人には画面が見えも触れもしないので、そうではないかと思っていました」
「そういえば、スキルキャンディの時もジョアンナにしか触れないということがあったね」
「スキルキャンディ……私も実物を見てみたかったですね。実に残念だ」
悔しそうな声でそう呟いたフレッドは、メガネを上げながらジョアンナに視線を移した。
「どうやら、この[チャージ]もジョアンナ様にしかお金を画面に投入できない可能性が高いようですね。あっ! 申し訳ありませんが、ヴィンセント様やこの部屋にいる皆さんも試してみてもらえないでしょうか?」
そんな彼の頼みを受けて、この部屋にいる全員が挑戦することになった。
最初に挑戦するのはヴィンセントだ。
彼は金貨を手に取ると、子供みたいに瞳を輝かせながらジョアンナに視線を向ける。
「ジョアンナ、この辺りかな?」
「ふふ。はい。ちょうど黒い丸の真ん中くらいです」
「いくよ」
ヴィンセントは言葉と同時に手に持っていた金貨をそっと落とした。
彼の手を離れた金貨はゆっくりと落下し、画面をすり抜けてテーブルへ落ちていった。
「さっきと同じだね」
続いて、ダニー、コリンナの順番で黒い丸の上に金貨を落としてみたが、結果は全て同じだった。
「これで決まりですね。いやー、ジョアンナ様のスキルは実に興味深い……」
フレッドはそう言い終わるや否や、また紙に何かを書き始めた。チラリと見えた紙には、図形や数字がびっしり書いてある。何かの計算式のようだ。
フレッドがひとしきり紙を書き終わるのを待ち、[コイン購入]の確認へ移った。
[コイン購入]の画面にあるのは、三つのボタンだ。
・コイン:10枚 10000ゴルド
・コイン:50枚 48000ゴルド
・コイン:100枚 90000ゴルド
このボタンを押すと確認画面が出てきて、チャージした金額と引き換えにコインが手に入る仕組みになっている。
どうやら、一度に購入するコインの枚数が多いほど、コイン一枚あたりの値段が安くなるようだ。
「[コイン:10枚]ですと、コイン一枚が1000ゴルド。[コイン:100枚]にすれば、900ゴルドになるようですね」
「なるほど。コインを一日の上限の100枚買いたいのならば、バラバラに買うよりも[コイン:100枚]のボタンを一回押して買った方が安いみたいだね」
フレッドとヴィンセントの話を聞きながら、ジョアンナは思った。
――なるほど……。今は欲しいものが特にないけれど、何か欲しいものがある時にはお金でコインが買えるのは便利かもしれないわね。
毎朝、[ログイン]を押すたびに「ログインチケット1枚」と「コイン10枚」がもらえるのだが、ジョアンナはこのコインをあまり使わずに貯めている。
そのため、持っているコインの数はすでに1310枚だ。
この[チャージ]や[コイン購入]はしばらく使う機会はなさそうだ。
そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、期待に瞳を輝かせてジョアンナを見つめているフレッドと目が合った。
「ジョアンナ様! [コイン購入]も試してみていただけますか?」
「わかりました」
「ジョアンナ、一日100枚まで交換できるみたいだから、とりあえず100枚分交換してみようか」
「それでしたら、ボタンを複数回押せるのか確認していただけますか?」
「なるほど。それは確かめてみたいね。[コイン:10枚]のボタンを10回でいいかな?」
「はい。それでお願いします」
「ジョアンナ、今日は[コイン:10枚]で確認してみよう」
「わかりました。それでは[コイン:10枚]のボタンを押します」
そう言ってボタンを押すと、こんな画面が出てきた。
────────────────────
10000ゴルドを使用してコイン10枚を購入しますか?
『はい』『いいえ』
────────────────────
[はい]を押してからメニュー画面を確認すると、コインが10枚増えて1320枚になっていた。
コインの下に表示されているチャージしてある金額も、「チャージ:490000ゴルド」と書かれている。
すぐに二回目を試してみたが、[コイン:10枚]のボタンは問題なく押すことができた。
一日100枚までであれば、交換の回数は何回でもいいらしい。
連続することで何か特別な変化があるか確かめるため、これからジョアンナは毎日金貨一枚をチャージし、100枚のコインを購入することとなり、この日の調査は終わりとなったのだった。
1ゴルド=1円くらいです




