06:調査の後
ちょっと短めです。
調査が終わると、コリンナがケーキを運んできた。
色とりどりの花が載った小ぶりのケーキがいくつも並ぶ皿は、まるで小さな花畑のようだ。
「これは美しいですね」
ケーキを見たフレッドは、明るい声を上げた。
「最近、リネハンで人気のあるお店のケーキなんです」
今日、用意したケーキは最近セリーナとよく一緒に行く店のものだ。
二口ほどで食べられる大きさのケーキは、どれも可愛らしく盛り付けられている。
甘さが控えめなこともあり、店の前の行列には男性の姿も多い。
赤いケーキを手に取ったフレッドは、上品な仕草でケーキを口に運ぶと、目を大きく見開いた。
「これは、美味しいですね。上品な甘さで香りもいい」
あっという間にひとつ目のケーキを食べ終えたフレッドは、すぐに別のケーキに手を伸ばす。
その様子から、彼がこのケーキを気に入ってくれたことが伝わり、嬉しくなったジョアンナは顔をほころばせる。
「いやー……、美味しかった。ついつい、食べすぎてしまいました」
そう言ってお腹をさすったフレッドは、満足そうに笑う。
「ふふふ。お口に合って、よかったです」
空になった皿を下げてから、新しいお茶が注がれる。
カップから湯気の上がったお茶をひと口飲んで、フレッドはほうっと息を吐いた。
「この後は王都に戻られるのですか?」
「はい。研究所に戻って、今日の調査結果をまとめる予定です」
「もし荷物に余裕があれば、またポーションをお持ちいただきたいのですが……」
研究所へポーションの寄付を始めたジョアンナがそう言うと、フレッドは表情を輝かせた。
「本当ですか? 助かります!」
少し前の調査の時、屋敷にやってきたフレッドの腕に包帯が巻かれていたことがあった。
話を聞けば、調査の最中に魔力を暴走させてしまった子供がいたのだとか。
「このくらいの怪我は日常茶飯事ですよ」
そう言って、なんでもないことのように笑うフレッド。
彼が帰った後、ケルヴィンとセリーナが教えてくれたことだが、スキル調査では大小の事故がよく起こるそうだ。
ジョアンナのように、新しく発見されたスキルを授かった子供が受けるスキル調査。
十五歳という多感な時期にスキルを手に入れたことで、ただでさえ心が不安定になっている。
そこへ研究者という知らない大人がやってきて、慣れない調査が始まるのだ。
貴族の子供は幼少の頃から人前で心を乱さないように教育されているが、平民の子供はそうではない。
興奮してしまったり、気が大きくなってしまったり。そうした心の揺れから、思わぬ事故が起こってしまう。
研究所でもポーションの用意はあるが、数に限りがある。
そのため、小さな怪我にはポーションを使わないことも多いのだとか。
その話を聞いて、ジョアンナはポーションの寄付を始めることにした。
ジョアンナ自身も十五歳の時に不安を感じながらスキル調査を受けたので、彼らの気持ちが痛いほどわかる。
それに、フレッドをはじめとする研究者の人たちが、熱心にジョアンナのスキルに向き合ってくれたことを覚えている。
「ジョアンナ様。いつも多くのポーションを寄付していただき、心から感謝しています」
「いえ……。研究に役立ててください!」
「先日も興奮して魔力を暴走させてしまった子が怪我をしてしまったのですが、いただいたポーションですぐ治療ができたので大事に至りませんでした」
「そうですか……お役に立ててよかったです」
フレッドの話を聞いて微笑みながら、ジョアンナは寄付を始めてよかったと思うのだった。
夜には、フレッドを交えての晩餐が開かれた。
食卓に並ぶ料理は、スキルに関するものに強い興味を抱く彼のために用意した特別なものばかり。
前菜やスープに使われた、野菜。
メインの肉料理にかけられた、塩と胡椒。
デザートに使われた、果物。
その全てがジョアンナの[ガチャ]で手に入れたものだ。
「おお〜、やはり[ガチャ]の野菜は瑞々しいっ!」
「う〜ん……。香り高い」
「はあぁぁぁ。この芳醇な香りととろけるような甘さは実に素晴らしいっ!」
料理が出されるたびにそんなことを言いながら、フレッドは瞳を輝かせて嬉しそうに食べている。
その表情はまるで無邪気な子供のようだが、カトラリーを動かす彼の動きには隠しきれない品があった。
ジョアンナがフレッドと初めて会ったのは、十五歳の時。
スキルを授かった直後に受けた調査で、何人もの研究者と一緒にマーランドの屋敷にやってきたフレッド。
初めて会った時から平民として家名のないただの「フレッド」を名乗っている彼だが、何度も接すれば否応なしに気がついてしまう。
フレッドが貴族としての教育を受けていることを。
研究所と呼ばれている、王宮にあるスキル研究所。
そこで研究者となれるのは、ほんのひと握りの優秀な者だけだ。
採用試験は身分に関係なく受けることができるが、難易度が高いことが有名で、合格者が出ない年も多い。
ジョアンナが学園に通っていた頃。
同じクラスに、その試験に合格した男性がいた。
数年ぶりの合格者だったことから、彼が試験に合格したという報せはあっという間に学園に広がり、大騒ぎになったものだ。
静かに一人で本を読んでいることの多かった彼は、すぐに多くの人に囲まれるようになった。
男爵家の三男だった彼の元には、いくつもの縁談の話が舞い込んだそうだ。
卒業が近づいてきた頃。王国内でも強い力を持つ侯爵家の令嬢と彼の婚約が決まったと、話題になっていたことをよく覚えている。
名誉を重んじる貴族社会において、研究所の研究者となれるほど優秀なフレッドの価値は高いはずだ。
そんな彼が平民として生きる道を選んだのには、なにか事情があるのだろう。
スキルのことに関しては饒舌に語るフレッドだが、彼自身のことはほとんど口にしない。
そんな彼がこの日は少し多めに飲んだワインのせいか、珍しく自分のことを語り出した。




