領都ルダー
第8話:領主との謁見と、約束の休息初めて足を踏み入れた領都ルダーの街並みは、カルカラの町とは比べものにならないほど広大で、活気に満ちあふれていた。あまりの規模に僕が目を奪われていると、一人の衛兵が僕たちへと近づき、恭しく頭を下げた。「黒鷹の翼様、ルダール子爵閣下よりご案内を仰せつかっております。こちらへ付いてきてください」案内されたのは、カルカラの町にあるものよりも遥かに立派で、堅牢な造りの探索者組合の建物だった。「では、私はこれで失礼します」と衛兵さんと別れ、今度は組合の職員に導かれて3階の一室へと通される。ふかふかの椅子に座って緊張しながら待機していると、やがて重厚な木製の扉が開き、二人の人物が連れ立って入ってきた。「やあ、黒鷹の翼の御一行。今日は遺跡の件で進捗報告があると聞いたが?」仕立ての良い豪奢な衣服を纏った人物が、穏やかだが威厳のある声で室内に語りかけてきた。そして、その視線が室内を巡り、最後に僕のところでピタリと止まる。「おや……? 君は初顔だね。良ければ、私に名乗らせてもらっても良いかね?」「は、はい! よろしくお願いします……っ!」思わず背筋を跳ねるように伸ばして返事をする。僕のあまりの緊張ぶりに、その人物はフッと優しく微笑み、静かに頷いた。「私は、グラナード王国よりこの地を拝領している、ルダール子爵家当主――ルダール・エスカリフだ。以後、よろしく頼むよ」ルダール子爵ご本人……!まさかこの土地を治める偉い貴族様と直接お会いすることになるなんて思わなかった。僕は喉の渇きを感じながらも、失礼のないよう必死に自分の名前を名乗り、挨拶を交わした。その後、ガッハさんが遺跡の入り口を発見したこと、そして内部の安全確認を行った状況を理路整然と説明した。子爵は顎に手を当て、深く得心が至ったように深く頷く。「うむ。流石は高名な探索チーム『黒鷹の翼』だな。実に素晴らしい成果と、見事な判断だ」子爵の鋭い瞳が、どこか遠くを見るように細められる。「あの森は長年の係争地故、周辺諸国や他の貴族との揉め事を回避するためにも、事前の根回しや王国への正確な報告が必須なのだ。その重要性を理解し、潜入前に一度足を止めて報告に来てくれたのは実にありがたい」そこから、ガッハさんと子爵の間で今後の具体的な打ち合わせが行われた。王国への手続き等の関係から、ひとまずは「10日間の待機契約」を結ぶことになった。「明日からの5日間は完全な休息に充ててくれて構わない。ただ、6日目からはいつでも動けるように待機していてほしい」子爵はそう告げると、手元に用意されていたずっしりとした複数の革袋をテーブルに並べた。「これは少ないが、今日までの探索費用と成果に対する成功報酬、そして10日分の待機報酬だ。受け取ってくれたまえ。……これからの進展があれば、私の方からカルカラの町まで、打ち合わせを兼ねて足を運ぼう」そう言い残し、ルダール子爵は満足そうな笑みを浮かべて部屋を退出していった。用件が済むと、僕たちはすぐにカルカラの町へと戻るための馬車に乗り込んだ。車内での雑談の最中、ガッハさんが僕の顔を見て優しく微笑む。「カレハ君、今日は帰りが遅くなってしまって申し訳なかったね。その分と、わずかだけれど子爵様から成功報酬が上乗せされたから、今日の君の取り分も色をつけて出しておくよ」本当に、なんて良いチームに拾ってもらえたのだろう。荷物持ちの僕をただの子供として扱わず、一人の対等な仲間として利益を還元してくれる先輩たちに、心の中で深く感謝を捧げた。「ごめんね〜、カレハ〜。せっかく一緒に領都まで行ったのに、観光も何もさせてあげられなくて〜」メディさんが申し訳なさそうに眉を下げて僕に抱きついてくる。「いや、そんな! 領主様に直接お会いできただけで、僕には十分すぎる経験です!」そんなお喋りをしているうちに、馬車は住み慣れたカルカラの町へと到着した。ギルドの前で馬車を降りると、ガッハさんから昨日までよりも明らかに多めの、ずっしりと重い報酬の革袋を手渡された。手のひらにかかる重みが、今回の成果の大きさを物語っている。「カレハ君、明日からは5日間の休息日になるけれど、僕たちはいつも通り訓練所で体を動かすつもりだ。もしカレハ君も良ければ、いつもの時間に訓練所へおいで。……ああ、でも、もし家族との用事や買い出しなんかがあれば、この休息期間の間に済ませておくといいよ」「はい! ありがとうございます!」四人に深々と頭を下げて解散した。空はもうすっかり夜の帳に包まれている。今日はいつもより大幅に遅くなってしまった。(早く帰らなきゃ! 母さんとワカバが心配している!)領都の豪華な景色のこと、偉いルダール子爵様にお会いしたこと、そして明日からの休息日と特訓のこと。胸の中に溢れんばかりの新しい思い出と、多めの報酬袋をしっかりと握りしめ、カレハは夜のカルカラの道を我が家に向かって急ぐのだった。




