初めての領都
聖王伝、第7話、「よし、4日目の探索は馬車を使っていくぞ。帰りも迎えに来てもらう約束だから、現地で丸々6時間は作業できる計算だ」ガッハさんの言葉通り、今日は移動時間を大幅に節約できた。ガタゴトと揺れる荷馬車に揺られながら、道中は何のハプニングもなく、順調に西の森の探索基地へと到着した。森の中へ足を踏み入れると、いつものように隊列を組んで遺跡へと向かう。現地に着くとすぐに道具を取り出し、昨日と同じ作業が始まった。ガッハさんとハオさんが大剣や手斧で遺跡の壁を覆う頑固な草木を切り払い、僕がそれをせっせと離れた場所へと退かしていく。3時間近く黙々と作業を続け、そろそろ休憩かな、と思い始めた頃だった。「お、みんな、ちょっと来てくれ」壁の近くで作業していたハオさんが、珍しく声を上げて僕たちを呼んだ。「なになに〜? 何か見つかったの〜?」メディさんを先頭に全員が集まる。僕も先輩たちの隙間から壁を覗き込んでみた。「壁に、明らかな直線の溝があるな。メディ、頼めるか?」「任せて〜」ハオさんの指摘に、メディさんがすぐに壁の調査を始めた。細い指先で苔を払い、溝の奥を慎重に探っていく。それから40分ほどが経過した頃、静まり返った森の中に小気味よい音が響いた。――カチリ。「これだ〜!」メディさんが嬉しそうな声を上げると同時に、灰色の分厚い石壁がわずかに奥へと動いた。「よし、隙間ができたぞ! みんなで動かすんだ!」ガッハさんの号図で、大人たちが壁の隙間に手をかけ、悪戦苦闘しながら押し広げていく。かれこれ1時間ほど力仕事を続けた結果、ようやく大人が少し屈めば通れるくらいの隙間が出来上がった。「テイラーは魔法で安全確認。その後、メディが中を偵察してくれ」「了解」ガッハさんの指示に、テイラーさんが一歩前に出る。右手を水平にすっと前に突き出すと、僕の耳には聞き取れない奇妙な言葉を呟いた。「******と」次の瞬間、ふわりと柔らかな風が巻き起こり、石壁の隙間へと吸い込まれるように流れ込んでいった。そのまま5分ほど風を操作していたテイラーさんが、ふぅと息を吐いて振り返る。「おそらく、有毒なガスなどの心配は大丈夫だ。ただし、俺の風が届いた徒歩5分圏内だけの話だけどな」「おっけ〜。じゃあ、私が罠や中の気配を見てくるね〜」メディさんがしなやかな動きで隙間へと滑り込んでいった。中から何が飛び出してくるか分からない。ハオさんが盾を構え、テイラーさんが剣の柄に手をかける。緊迫した3分間が過ぎた頃、奥からメディさんの伸びやかな声が響いた。「みんな〜! ちょっとそこから離れててね〜!」言われた通りに壁から距離を取ると、地響きのような「ゴゴゴ……」という低い音が鳴り響いた。すると、先ほどまで悪戦苦闘していた石壁が嘘のようにどんどんと左右に広がり、大の大人が二人並んで歩けるほどの立派な侵入口が姿を現したのだ。「よし、警戒しながら中に入るぞ」ガッハさんを先頭に、順番に遺跡の内部へと足を踏み入れる。千六百年ぶりに開かれた狐の獣人族『ヴルペリア』の要塞。その通路の内部は、外から侵入した草木や長い年月で堆積した泥で埋め尽くされていた。「よし、カレハ君。ここからの僕たちの仕事は、この通路の草木除去だ!」「はいっ!」僕は気合いを入れ直し、今日残された時間もいっぱい、暗い通路から邪魔な草木や泥を必死に外へと運び出し続けた。やがて、作業の限界時間が近づいてくる。「大きな進展はあったけれど、まだ壁の中に一歩入っただけだからね。無理をせず、今日はこれで帰りましょう」ガッハさんの提案にみんなも賛成し、僕たちは外へと出た。探索基地に道具を片付け、帰路につく。森を出ると、約束通りすでに迎えの馬車が待っていた。みんなで乗り込んで町へと向かう。……実は、僕はこの荷台の激しい振動がすごく苦手で、内心かなりげんなりしながらも、お腹の底が揺れる感覚と必死に戦っていた。そんな僕の様子に気づいてか気づかずか、ガッハさんが真面目な顔で僕を見た。「カレハ君、悪いけれど、これから今回の依頼人に進捗の報告をするんだ。君も一緒について来てくれるかな?」「えっ? あ、はい! 喜んで!」僕が返事をすると、ガッハさんは御者台の馭者さんに向かって「行き先を変更してくれ」と声をかけた。え……? カルカラの町に帰るんじゃないの?「これから2時間ほど北にある、領都ルダーに向かうよ」「りょ、領都ルダー……!」領都なんて、僕は生まれてから一度も行ったことがない。馬車に揺られることさらに2時間。目の前に現れたのは、カルカラの町とは比べものにならないほど巨大で頑強な街だった。正門の前で、門兵の厳重な書類チェックと、念入りな身体検査が行われる。物々しい雰囲気に、僕の心臓はドクドクと緊張で高鳴り始めていた。ついに、僕は初めて、貴族様たちが暮らす大都会「領都ルダー」の中へと足を踏み入れた。




