初めての戦利品
第5話 昨日の夜は、僕の報告に母さんと妹のワカバが大はしゃぎだった。特にテイラーさんの魔法の話は大盛り上がりで、つられて僕も、本当は建物を創る瞬間は見ていないのに、さも見てきたかのようにそれらしく語ってしまった。まあ、土の柵が地面からポンポン飛び出すところはちゃんと見たから嘘じゃない。てへ。翌朝、ガッハさんに教わった体操はこれから仕事なので諦めて、少し筋肉痛の残る身体で待ち合わせの広場へと向かった。すると、「カレハ〜! こっちこっち〜!」メディさんが大きく手を振って僕を呼んでいた。そこにはすでに、チームの全員が揃っている。「悪いな、カレハ君」リーダーのガッハさんが苦笑しながら言った。「メディがな、『テイラーだけカレハちゃんと朝ごはんを食べてずるい!』ってうるさくてね。申し訳ないが、今日も付き合ってくれるかい?」「はい! 喜んで!」僕が元気よく返事をすると、メディさんは嬉しそうにパッと表情を輝かせた。「ありがとう。あ、それとね、この朝ごはんは今日の仕事の打ち合わせを兼ねているから、代金はいらないよ。経費だからね」ガッハさんの優しい気遣いに甘え、今日も美味しい朝食を奢ってもらうことになった。五人で賑やかに屋台の軽食を囲みながら、今日の流れを確認していく。今日は昨日ほどの重い建築資材がない。そのため、初日と同じく徒歩で西の森の遺跡へと向かうことになった。「荷物も少ないですし、僕がまとめて運びますよ!」少しでも役に立ちたくて提案してみたが、ガッハさんは穏やかに首を振った。「気持ちは嬉しいけれど、悪いねカレハ君。これは普段からの習慣なんだ。僕たちのチーム、自分が戦うための装備や道具は、必ず自分で管理して運ぶ。だから、君の出番は『戦利品』が出てからだな」「なるほど……そういうものなんですね」プロのこだわりを一つ学び、僕たちはカルカラの町を出発した。街道を進む道中はのんびりとしたもので、まるでみんなで散歩をしているかのような穏やかな空気だった。けれど、西の大森林の入り口に近づくにつれ、先輩たちの纏う雰囲気がガラリと変わる。「じゃ、行ってくるね〜」メディさんがスタスタと先行して森の奥へ消えていく。残った僕たちは、昨日決めた通りの隊列を組んで慎重に進んでいった。――おおーん! ガウガウ! キャンキャン!静寂に包まれていた森の奥から、突如として激しい犬科の魔物の鳴き声が連続して響き渡った。ガッハさんが小さく頷いた次の瞬間、弾かれたように森の奥へと走り出す。「あっ、ガッハさん! 待ってくだ――」僕も焦ってその後を追いかけようとした。しかし、その肩をガシッと力強い手が掴んで引き留める。「カレハ、指示があるまで勝手に動くな」振り返ると、大盾使いのハオさんが、かつてないほど鋭い視線で僕を見下ろしていた。「皆が同じように勝手に動けば、戦線が乱れ、最悪の場合は取り返しのつかない事態になる。荷物持ちは後ろで待機だ」「坊主、やる気があるのは良いことだけどな、お前はまだまだ素人なんだ」殿を警戒していたテイラーさんも、僕の肩をポンと叩いて言葉を続ける。「まずは誰かに『今、自分は何をすべきか』を聞く。それが命を守る鉄則だ」「……っ、ごめんなさい……」自分の浅はかさが恥ずかしくなり、小さな声で謝ると、テイラーさんは少し乱暴な手つきで、けれど愛おしそうに僕の頭をガシガシと撫でてくれた。「おーい! こっちは安全確保したよ! 油断せずに向かってきてくれ!」森の奥からガッハさんのよく通る声が届く。ハオさんの合図で進んでいくと、開けた場所のあちこちに、何頭もの『森狼』の死体が散乱していた。驚いたのは、どの森狼も、ナイフで眉間を1突き、あるいは首を一撃で深く切り裂かれており、すべて即死だったことだ。「もう〜、やんなっちゃう。せっかく警告してあげたのに、構わず向かってくるんだもん。軽く蹴散らしてあげたら、数が半分になるまで逃げないんだから」メディさんが少し不機嫌そうに、ナイフについた血をピッ、と払う。え……? これ、いまのほんの一瞬の間の出来事だよね……!?僕が目を丸くして圧倒されていると、テイラーさんが耳元でこっそり教えてくれた。「ああ見えてメディは『C+ランク』の狩人だからな。森狼は単体ならEランク、群れてもせいぜいD-ランクの魔物だ。メディの相手になるわけねえよ」探索者のランク制度なんて全然知らなかったけれど、メディさんがとてつもなく強いことだけは、肌に刺さるような空気で理解できた。その後は全員で手際よく森狼の毛皮を剥ぎ、牙や爪といった素材を回収していく。不要になった残りの死体は、テイラーさんが魔法で地面に即座に深い穴を開け、そこへ放り込んだ後、再び土の魔法で綺麗に埋め立ててしまった。本当に便利な魔法だ。「はい、カレハちゃん。これを背負い籠に入れて頂戴」メディさんから、綺麗に畳まれた毛皮や、素材の詰まった小袋を受け取る。背負い籠に収まったそれは、昨日までの木材とは違う、生々しく、けれどずっしりとした重みを持っていた。僕たちが初めて手にした、本物の『戦利品』。肩にかかる心地よい重みと、プロの圧倒的な強さへの憧れに、僕は少し胸を躍らせながら、完成したばかりのベースキャンプへと向かって、皆の背中を追いかけた。




