恐怖と凄腕探索者の差
聖王伝 第41話 『――闘技場の外で覗いている侵入者の皆様。もし、ここに倒れている者たちの死体や遺品が欲しくば、私や石像が所定の位置に戻った後であれば、何ら妨害はいたしません。なお、十二時間が経過した後は、こちらで死体の片付け(処分)を行いますので、どうぞご自由に』淡々と、冷酷な事務連絡のようにそれだけを告げると、衣服を纏った精巧な機械人形は、ゆっくりと最奥の門の前へと移動を始めた。四体の巨大な石像もまた、何事もなかったかのように壁際へと戻り、再び静かな彫像へと擬態していく。血の匂いが漂う広場の手前で、僕は全身のガタガッという激しい震えをどうしても止めることができなかった。目の前で、さっきまで生きていた凄腕の大人たちが一瞬で物言わぬ肉塊に変えられたのだ。それは、命からがら逃げ延びてきた七人の探索者たちも同じだった。誰もが青い顔をして、恐怖に歯の根を鳴らしている。だが――僕のすぐ目の前に立つ二人の背中は、全く違っていた。「……なぁ、ガッハ。今のを見た限り、一体ずつ引き剥がして戦えるなら、俺とお前の二人だけでも十分に削り切れるな?」「ああ。それに、十二人で四体の石像なら、3人で一体か?役割を分担すれば十分に勝てる計算だ」テイラーさんが顎に手を当てて冷静に呟き、ガッハさんも何事もないように深く頷き合っている。(え……っ!?)僕は自分の耳を疑った。あの圧倒的な惨劇を特等席で見ておいて、最初に出てくる言葉が「どうやってあの化け物を倒すか」の算段だなんて。その瞬間、僕は痛烈に思い知らされた。自分はまだ、本当の意味で『探索者』という生き物を全然理解できていなかったのだ、と。目の前で人が死んでも、怯えるより先に敵の能力を分析し、勝機を見出す。人としての根本の構造が最初から違うのか、それとも、修羅場をくぐって鍛えられ、慣れていけば自分もいつかあんな風になれるのだろうか。恐ろしさと同時に、先輩たちの底知れない強さに背筋がゾクゾクとした。その後、ガッハさんは呆然としている七人の探索者たちの元へ歩み寄り、ポン、ポンと手際よく神聖魔法をかけて精神の動揺を鎮めていった。合流していた王国軍の兵士たちとも短く相談した結果、「あの人形の能力は未知数すぎる。一度体制を立て直すべきだ」となり、今日は一旦、外の探索基地へと戻ることが決まった。来た道を厳重に警戒しながら引き返したけれど、幸いなことに道中で魔物や罠の邪魔が入ることはなく、僕たちは無事に地上へと帰還した。基地に戻るとすぐに、ガッハさんは他のすべての探索チームのリーダーを緊急で招集し、先ほどの広場での一部始終と「人形が魔法を無造作に消し去った」という最悪の情報を共有した。基地全体が重い沈黙と議論に包まれる中、ガッハさんは僕の頭を優しくぽんぽんと叩いた。「よし、カレハ君。少し時間は早けれど、お昼ご飯にしようか」「えっ……あ、はい!」何事もなかったかのように、いつも通りに穏やかな笑顔で行動を始めるガッハさん。日常と地獄の境界線がこれほどまでに曖昧な世界で、先輩たちは生きているのだ。僕は、プロの探索者たちが持つ「心胆と探索心」の凄まじさを、身に染みて学ぶのだった。




