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聖王伝  作者: 日和見


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撤退と殺戮劇

聖王伝 第40話 「――行くぞッ! 境界線を越えろ!」二つの探索チーム、合計十二名の熟練探索者たちが、戦闘を開始するために一斉に広場の半分へと足を進めた。その瞬間、広場の灰色の壁際に静止していた四体の巨大な石像が一斉に不気味な駆動音を立てて動き出した。ゆっくりと、しかし確実に、侵入者たちを圧殺すべく中央へと歩を進めてくる。「散れ! 予定通りチームを分けるぞ!」直ちに、五人と七人の二手に分かれた探索者たちが、それぞれ狙いを定めた石像へと立ち向かった。前衛が足止めを図る中、後方から強烈な攻撃魔法が放たれ、鋭い矢の雨が炸裂する。しかし、激しい爆炎と風圧が晴れたあとに現れたのは、見たところ全くの無傷である石像の巨躯だった。それどころか、敵対行動を検知した石像たちは、微かにその移動速度を上げて最寄りの探索者へと肉薄していく。一方で、あの衣服を纏った精巧な機械人形は、地下へ続く扉の少し前で腕を組んだまま、微動だにせず冷徹な瞳で戦況を見つめていた。「――【ウォークライ(戦士の雄叫び)】ッ!!」重装甲を身に纏った戦士が、敵の注意を引きつけるためのスキルを発動した。激しい咆哮が広場に木霊する。しかし、向かってくる石像の動きには何のブレも生じなかった。「クソッ! 挑発系のスキルが石像に全く効かねえぞ!」有効な打撃が一切通らない焦りの中、ついに戦線が悲鳴を上げた。七人のチームが相手をしていた石像の側へ、もう一体の石像が合流するように近づいてきたのだ。二体の巨躯による同時攻撃を受け、彼らの陣形は一瞬で崩壊した。「おい!! 広場から撤退したら、そいつらは追ってくるのか!?」命の危機を感じたリーダーの一人が、後方の機械人形に向かって必死に叫んだ。すると、精巧な機械人形は、まるで世間話でもするかのように滑らかな声で最悪な答えを返した。『先ほど説明した通りでございます。効果のあるスキル、および魔法が体内及び石像や私に残ったままで闘技場の外へ出られますと、戦闘範囲がそのまま適用されます。ですので……当然、追手を差し向けますよ。極めて足の速いタイプを、ね』「すまん! 俺たちのチームは撤退させてもらう! かかっている強化魔法はすぐに自力で打ち消すから!」七人のチームは完全に戦意を喪失し、武器を収めて僕たちのいる通路へと一目散に走り出してきた。「!! ざけんな、てめえらッ!!」残された五人チームの一人が怒号を上げる。しかし、人数が減って距離が離れたせいか、広場にいる四体すべての石像が、今度はその五人の元へと一斉にターゲットを切り替えて押し寄せた。「チッ、限界だ! 俺たちも撤退するぞ!」四方から迫る巨躯に囲まれ、彼らも攻略を諦めて広場の入り口へと全力で走り出す。その背中に向けて、衣服を着た人形から静かな忠告が投げかけられた。『そのまま出れば追撃いたしますよ。まだ、身体強化の効果が残っています』その言葉に、五人チームの魔術師の頭に完全に血が上ったのだろう。彼は走りながら振り向き、一切の詠唱を破棄して2楷位の火魔法を発動させた。「――【フレイム・スピア(業火の長槍)】ッ!!」凄まじい熱量を持った炎の槍が、真っ直ぐにあの精巧な機械人形の胸元へと突き進む。しかし、機械人形は避ける動作すら見せなかった。迫り来る業火の槍を前に、ただ無造作に、煩わしい虫でも払うかのように片手を水平に振った。――フッ。それだけの動作で、大気さえ焦がすはずの強力な魔法が一瞬で霧散し、ただの煙となって消え去ってしまったのだ。『攻撃を感知しました、排除を開始します』人形の目が、冷酷な真紅へと染まった。そこから始まったのは、戦闘ではなく、ただの「殺戮」だった。五人の探索者は、おそらくこの公募でもかなりの実力者たちだったはずだ。それなのに、彼らは広場の外へ逃げることすら叶わず、一瞬にしてその命を奪われてしまった。人間を遥かに超越した速度と力。血の匂いが広場に立ち込める。その一連の光景を、通路の影から見ていた僕たち『黒鷹の翼』、そして先ほど命からがら逃げ出してきた七人の探索者たちは、誰もが言葉を失い、ただただ呆然と、血に染まった美しい闘技場を見つめることしかできなかった。

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