機械人形
聖王伝 第34話 最初の倉庫部屋にあったすべての遺物を回収し終えた僕たちは、両手いっぱいに戦果を抱えて、一旦通路の王国軍陣地へと戻ることにした。まだ罠や魔物といった明確な危険が確認されていないため、ハオさんとガッハさんが二人で重たい大型の遺物を、メディさん、テイラーさん、そして僕の三人がそれぞれ持てるサイズの遺物を手分けして運ぶ。「ほう、また随分な大物を持ってきたな。どれどれ……」受付で年配のベテラン兵士さんが、ガッハさんたちの運んできた大きな魔導機械を眺めていたが、次の瞬間、その目を驚愕に見開いた。「ご、おい、これは……! もしかしたら、失われた『ヴルペリア』の真正なる遺物かもしれんぞ!」「ヴルペリア……?」聞き馴染みのない響きに、僕が思わず首を傾げる。すると、隣にいたガッハさんが荷物を置きながら優しく教えてくれた。「カレハ君、ほら、数日前の座学のときに話しただろう? 千六百年前に世界を滅ぼしかけた魔竜大戦。その時に滅亡した古代の国の名前さ。獣人族が築いた三大国家の一つでね、高い知性を持つ『狐人』たちが治めていた魔法科学の超大国だったんだよ」失われた千六百年前の本物の歴史が、いま僕の手の中にある。そう思うと、鳥肌が立つような興奮が背中を駆け抜けた。しかし、僕たちが再び探索に戻ろうと腰を上げた、その時だった。遺跡の奥深くから、それまでの静寂を切り裂くような、聞いたこともない不気味な高音が響き渡った。――ピピピピピピピピッ……!!「全員、構えろっ!」ガッハさんの鋭い怒号と同時に、『黒鷹の翼』のメンバーと陣地の王国軍が一斉に武器を引き抜き、一瞬で完璧な臨戦態勢をとる。息を呑んで前方を見つめていると、右側の通路から、別の探索者チームの面々が血相を変えて走って戻ってきた。「チッ! 奥の部屋の防衛機構だ! 『機械人形』が動き出しやがった! 誰か古代工学に詳しい奴はいねぇか!?」彼らの説明によると、決して倒せないほど手強いわけではないらしい。ただ、その動いている機械人形を「なるべく損傷させずに無傷で捕獲」することができれば凄まじい価値になるのだという。しかし、人形の制御核の構造に詳しくなければ、傷つけずに止めるのは至難の業だった。「防衛機構の起動を確認! 直ちに探索基地へ伝令を飛ばせ!」陣地の兵士長が叫び、二人の伝令兵がもの凄い速さで森の基地へと走っていく。それから十分も経たないうちに、技術者と思われる職人たちを引き連れた十人ほどの増援部隊が、息を切らせて遺跡内へと飛び込んできた。「……おいおい、この遺跡、とんでもねぇ『大当たり』だな」ハオさんが大盾の裏で、獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべて呟く。「ああ。稼働状態の生きた遺跡に、今なお自律行動する防衛機構。上手く無傷で鹵獲できれば、転がり込んでくる報酬は莫大になる」答えるガッハさんの瞳にも、普段の穏やかさとは一味違う、一流のプロとしての「ギラギラとした熱」が宿っていた。テイラーさんもメディさんも、獲物を前にした本物の探索者の顔になっている。いつもの優しいお兄さんお姉さんじゃないみたいだ。「では、隊長殿我々も中央通路の探索に戻ります」ガッハさんが王国軍の責任者に短く挨拶を済ませると、僕たちは再び元の暗い中央通路へと足を進めた。動き出した千六百年前の防衛システム。そして、目の色を変えた大人たちの熱気。これから一体何が起きるのだろう。僕は背負った道具箱の紐を強く握り締めながら、胸のドキドキとした高鳴りを抑さえきれない。




