休暇5日目
聖王伝 第27話 「おはようございます、お母様。ワカバもおはよう」朝の光が差し込むリビングで挨拶を交わし、僕は日課である家の周りの軽いランニングへと向かおうとした。「待ってお兄ちゃん! ワカバも行く!」パタパタと小走りで追ってくる妹の姿に、僕は思わず笑みをこぼす。広々とした自宅の庭でワカバが追いつくのを待ち、そこからは妹の小さな歩幅に合わせて、のんびりと散歩することにした。庭をぐるりと回ってから一緒に体操をして、少し汗をかいたところで、お母様が作ってくれた朝ご飯をいただく。箸を置き、僕は居住まいを正してお母様に向き直った。「お母様。今日で、ギルドとの契約に含まれていた訓練期間も終わりです。明日からは、例えすぐに遺跡の探索へ出発しなくても、何かあれば即座に応じられるように待機していなければなりません。だから……今日まで、ワカバのわがままを聞いて、訓練所への同行を許してくださりありがとうございました」それを聞いたワカバは、お気に入りの場所に行けなくなるのが寂しいのか、少しだけ不満そうに唇を尖らせた。だけど、決して駄々をこねたりはしない。ぐっと我慢した顔のまま、小さな拳を握りしめて意気込む。「今日でおじちゃんやお姉ちゃんたちと、毎日は遊べなくなっちゃうんだよね……。だからワカバ、おうちに帰る前に、みんなにすっごく、ありがとうって言うね!」「偉いな、ワカバ。……それじゃあ、行ってきます」「行ってまいります!」お母様に見送られ、僕たちはしっかりと手を繋いでいつもの待ち合わせ場所へと歩き出した。この五日間、見学という名目だったのにもかかわらず、『黒鷹の翼』のメンバーはワカバを本当に温かく迎え入れてくれた。すっかりみんなに懐いている妹の後ろ姿を見ていると、いつか訪れるであろう別れを想像して、少しだけ胸がちくりと痛む。「――よお、坊主。それに嬢ちゃんも」不意に上から降ってきた涼やかな声に顔を上げると、そこに立っていたのはテイラーさんだった。「おはようございます、テイラーさん! あの、探索基地の方はもうよろしいんですか?」僕の問いかけに、テイラーさんはやれやれと言いたげに肩をすくめてみせる。「あし。昨日で土魔法による基地の拡張の建築は一通り終わったよ。……まったく、昨日なんか夕方までびっしりこき使われちまった」口では文句を言いつつも、その表情にはしっかりと依頼を終えた満足感が感じられた「テイラーお兄ちゃん!」ワカバが嬉しそうに、小さな手をテイラーさんへと差し出しす、精霊族であるテイラーさんは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせたけれど、すぐに不器用な、でもとても優しい手つきでその小さな手を包み込む。こうして僕たちは、三人で手を繋いでみんなの待つ集合場所へと向かった。合流したガッハさん、ハオさん、メディさんとも賑やかに朝の挨拶を交わし、僕たちはいつものように探索組合の建物へと足を向ける。さあ、特訓最終日の今日は、一体どんな訓練が待っているのだろう。寂しさを吹き飛ばすように、僕は一歩一歩、力強く地面を踏みしめた。




