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聖王伝  作者: 日和見


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分っているともそんな事

聖王伝 第24話 「カレハちゃん、違う違う〜! 体の力を抜くのはそうなんだけど、心の「芯」まで緩めちゃダメよ〜? ほら、ワカバちゃんの方が上手だぞ〜?」「えへへ、お兄ちゃん、ワカバの方が上手だって!」「う、うう……ワカバ、凄いな。……よし、もう一回お願いします!」ギルドの訓練所。メディを相手に、額に汗を浮かべながら必死に気配を消す訓練に挑むカレハ君。そして、その隣で楽しそうに真似事をしながら、兄と一緒に小さなステップを踏んでいるワカバちゃん。そのあまりにも微笑ましく、平和な光景を見つめながら、僕は隣に立つハオに静かに語りかけた。「……なぁ、ハオ。もう少しで、あの施設内部の本格的な探索が始まってしまう。そうなれば、危険はこれまでとは比べものにならないほど、否応なく高まるだろう。……本当に、カレハ君のような幼い子供を、僕たちの現場へ連れて行っていいのだろうか」僕の呟きに、三人を見つめていたハオが、ゆっくりと視線をこちらへ巡らせた。その無骨な顔には、いつにない真剣な色が一面に浮かんでいる。「神聖魔法の使い手(聖職者)であるお前は、忸怩たる思いがあるのだろう。……だがな、ガッハ。ここでカレハがまとまったお金を稼げなければ、結局、あの幼い身のままで生活のために稼がなければならなくなる。そうなれば、あの少年は必ず無理をするぞ」ハオは一度言葉を切り、再び訓練所の中央へと視線を戻した。「かろうじて、今の荷物持ちという仕事はある程度真っ当な職業だ。だが、もしそれ以外の手段で十二歳の子供が稼ぐとなれば……どんな泥水をすすることになるか、お前だって分かるだろう?」「…………っ」ハオの冷徹で、だけど現実をあまりにも正確に捉えた言葉に、僕は完全に言葉を詰まらせてしまった。ああ、分かっている。そんなことは、この世界の底辺を見てきた僕自身が、一番よく分かっているさ。せめてカレハ君が十五歳になっていれば、正式に探索者としての登録ができた。そうすれば、僕たちのチームに『見習い』として正式に加入させて、僕たちの名前と力で、もっと堂々と彼の身の安全を保護してあげることもできたのだ。だけど、今の彼はまだ十二歳。法律でも、組合の規則でも、ただの一般人の子供でしかない。今の僕たちにできる最善は、今回の探索に彼を同行させ、僕たち全員で出来るだけ彼を安全に守り抜き、そして、十五歳になるまでの数年間を無理せずに家族三人で生活していけるだけの、十分な大金を稼がせてあげること。それだけなのだ。(しかし……分かっていても、どうしても抵抗がある……!)神に仕え、人々を救うために教会を飛び出したこの僕が、あんなにも幼く、純粋な子供を危険地帯へと同行させる。その事実が、僕の胸を容赦なく締め付け、黒い罪悪感となってチクチクと突き刺してくる。クソ。自分の無力さと、この世界の理不尽さが、どうしても呪わしくて仕方がなかった。「ガッハおじちゃん! お水ちょうだい!」ワカバちゃんの無邪気な声が、僕の暗い思考をパッと弾き飛ばした。「ああ、いま行くよ、ワカバちゃん」僕は胸の葛藤を無理やり笑顔の裏へと隠し、冷たい水を入れたコップを手に、未来ある小さな兄妹の元へと歩き出すのだった。

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