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聖王伝  作者: 日和見


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クソジジイが

ルダール子爵領の領都ルダー。その城の会客室にて、私――ルダール・エスカリフは、王都から派遣されてきた国軍の兵士長、そして使者として赴いてきた宮廷貴族の男爵を招き、歓待を兼ねた会合を執り行っていた。酒杯を交わし、形式通りの挨拶を終えたその時だった。使者である男爵が不意に表情を引き締め、背筋をピンと伸ばした。「――これより、陛下のお言葉を告げる」その厳かな声が響いた瞬間、私と国軍の兵士長は即座に居住まいを正し、臣下の礼をとって床に膝を突き、こうべを垂れた。男爵が恭しく懐から取り出した絹の書状を開き、朗々と読み上げ始める。だが、その口から紡がれる言葉を聞くうちに、私の背筋に冷たい汗が伝わっていった。それはあまりにも酷く、私にとっては到底受け入れがたい最悪の内容だった。「し、使者殿……っ! 今のお話は、本当に陛下直々の御意志なのですか!?」拝聴を終えた私は、不敬を承知で思わず声を荒らげて聞き返してしまった。「発見された古代遺跡の管理運営をすべて王国が請け負い、さらに……我が領民が現在進行形で突貫工事を進めている探索基地周辺の土地を、王国の【直轄地】として没収するだなんて!」あまりの衝撃に言葉を失う私に、男爵は感情の失せた目で冷ややかに告げた。「子爵殿、どうぞご自身の目で確認されよ」差し出された書状を、私は奪い取るようにして受け取った。隅から隅まで何度も文字を追い、そこに刻まれた国王の真筆と玉璽ぎょじの刻印を確認する。(馬鹿な……そんな、有り得ん……っ!)頭を殴られたような衝撃に、思わず膝の力が抜け、その場に無様に尻餅を着きそうになってしまった。隣に控える国軍の兵士長は、この困惑劇をあらかじめ知っていたのだろう。我関せずといった様子で、私にも使者にも一切視線を向けず、彫像のように微動だにしない。この私が、苦労して第一発見の功績を挙げたのだ。それなのに、果実が実った瞬間に国が丸ごと奪い取るというのか!私は内心で激しく毒づきながら、震える声を絞り出した。「な、納得がいかぬ……。私は今からでも王都へ出仕し、陛下に直接その真意をお伺いせねばならん!」「子爵殿、落ち着かれよ。陛下より、あえてこの書状には載せぬよう仰せつかった『内密のお言葉』を預かっております。お聞きになりますかな?」男爵のその言葉に、私は奥歯を噛み締めた。くそが、使者の立場を利用して調子に乗りおって……! そんな伝言があるなら、私が取り乱す前に先に言っておけ!「……あ、いや。ぜひ、よろしく頼めるか、男爵殿」私の苦々しい返答に、男爵は尊大に一つ頷き、国王の言葉をそのまま真似るようにして語り出した。『――未発見の古代施設を発見し、すぐに報告してきたことは重畳ちょうじょう。だが、近くの町を領有していながら、自らの意思でその森を領有しようともせず、覚悟を持って私兵を動員し、足りぬ戦力を傭兵で補い、大掛かりな探索に自力で対応できるよう探索者を集める……その上で「もし魔境などの脅威で手に余る時は後詰めを頼みます」と私に申し出ていたならば、結果は違っていただろうに。領主としての役目を果たすのが辛いというのであれば、いつでも相談に乗るぞ』男爵の口から告げられたのは、私の甘さと日和見ひよるみな態度を徹底的に見透かした、国王からの容赦のない一喝だった。(あのクソジジイめが……っ!!)五臓六腑が煮えくり返るような怒りと屈辱がこみ上げてくる。要するに、リスクを恐れて自分で兵も金も出さず、真っ先に国に報告して「安全な警備」と「予算」をおねだりしたから、主導権をすべて国に奪われたのだ。すべては私自身の「覚悟のなさ」が招いた自業自得だった。これ以上逆らえば、本当に領主の地位すら危うい。私は一瞬で頭を冷やし、無理やり愛想笑いを作って深く頭を下げた。「……ハハハ、これは面目次第もない。使者殿、どうか私の不明を笑ってくだされ。陛下の仰る通り、私の覚悟が足りておりませなんだ。王命、謹んでお受けいたします」必死に悔しさを押し殺し、私は物分かりの良い従順な臣下を演じてみせた。だが、胸の奥では黒い炎がパチパチと音を立てて燃え盛っていた。国軍が到着し、王国の直轄地となるまでに、残された猶予はあと数日。まだ私にできることは残されているはずだ。ルダール子爵は、笑顔の裏で冷酷に次の謀略を巡らせ始めるのだった。

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